どのような病気?
家族性地中海熱は、発熱、腹痛、胸痛、関節痛などの発作が繰り返し起こることを特徴とする遺伝性疾患です。この病気は自己炎症性疾患で、発熱に伴って漿膜(しょうまく)と呼ばれる、体の中にある器官や臓器を覆う薄い膜に炎症(漿膜炎)がおきます。漿膜には、腹膜、胸膜などが含まれており、これらの炎症によって、腹痛や胸痛などが引き起こされます。まれに心臓を取り囲む心膜や脳や脊髄を取り囲む髄膜、男性の場合は睾丸にも炎症(精巣漿膜炎)が起こることがあります。発作前の徴候として、炎症が起きる場所に違和感や不快感を覚える場合があります。
発熱発作は、精神的なストレス、身体的な疲労、感染、手術などがきっかけで起こることがあります。また、女性の場合は月経や排卵が誘因となる場合もあります。腹膜炎の特徴は、左右どちらかの片側に起こることが多いものの、範囲はおなか全体から部分的な痛みまで幅広く起こり得ます。胸膜炎については、胸部から背中に刺すような痛みがあるとされますが、発作の程度により痛みやその経過もさまざまで、胸痛だけでなく息苦しさや咳の症状が現れることもあります。また、関節炎の特徴としては、足首・膝・股関節などの下肢に症状が出ることが多く、腫れ、痛み、熱感の他、関節内に水が溜まる場合などもあります。関節の炎症や痛みが起こる頻度は、人種によっても異なり、海外の例では85%と高い一方、国内では33.3%でそれほど高くないという報告があります。
この病気の発症年齢は小児期から始まり、多くは5~20歳に発症しますが、幼児期や成人後に発症する場合もみられます。国内では、5歳以下の発症は少ないものの、成人での発症は比較的多いという調査結果が報告されています。
発作と発作の間の期間は、多くが1か月程度ですが、数日の場合や数年にわたる場合もあります。その期間にはほとんど症状がないものの、発作や合併症予防のための治療を続けないとアミロイドと呼ばれる特殊なタンパク質が腎臓、脳、心臓などの臓器に沈着するアミロイドーシスとよばれる症状が引き起こされ、臓器の機能を低下させる恐れがあります。特に、腎臓における腎不全に注意が必要です。
この病気は、典型例と非典型例(不完全型)に分けられます。典型例の発作としては、突然の38度を超える高熱が半日から3日間続き、それに伴って腹膜炎、胸膜炎、関節炎などの炎症による激しい腹痛、胸痛、背部痛が起こります。胸痛によって呼吸が浅くなり、関節炎や丹毒様皮疹(たんどくようひしん)と呼ばれる、赤く腫れて境界のはっきりした発疹などが同時に起こる場合があります。非典型例では、38度以下の発熱が1~2週間くらい続き、部分的に腹痛はあるものの腹膜炎が起こらないこともあり、腕などの上肢に関節痛などの症状が現れるとされます。
家族性地中海熱は、地中海地域出身の人々やアルメニア人、アラブ人、トルコ人、ユダヤ人などの民族に多いことが知られ、他の民族ではあまり一般的ではありませんが、日本にも患者さんの報告があります。2009年に国内で行われた調査では、約500名の患者さんがいると推定されています。また、男女での性差はないとされます。家族性地中海熱は指定難病対象疾病(指定難病266)および小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
家族性地中海熱は、16番染色体上の16p13.3領域にあるMEFV遺伝子の異常が関連していると考えられています。MEFV遺伝子は、パイリンと呼ばれるタンパク質の設計図となる遺伝子です。パイリンタンパク質は白血球の中に存在し、インフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体の一部となり、免疫システムにおいて炎症反応を制御することに関与しています。通常、体内ではけがや病気が起こっている場所で免疫システムが働き、微生物などの侵入者と戦う際に炎症を発生させます。免疫の働きが完了すると、炎症反応は停止され余計な細胞や組織が傷つけられることはありません。この病気では、MEFV遺伝子の変異により、パイリンタンパク質の機能が損なわれ、炎症反応の制御に異常が生じることでこの病気の症状を引き起こすと考えられています。しかし、その詳細なメカニズムについてはまだわかっていません。
また、これまでに典型的な家族性地中海熱の症状があるもののMEFV遺伝子に変異が認められない場合や、遺伝子変異があっても病気の症状が見られない場合もあるなど、この病気の発症にはMEFV遺伝子以外の要因も関連している可能性が考えられています。
家族性地中海熱は常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝し、両親から引き継いだ2つのMEFV遺伝子の両方に変異がある場合に発症します。まれに、この病気は常染色体優性(顕性)遺伝で遺伝する場合があるという報告もあります。常染色体優性(顕性)遺伝の場合、片方の親がこの病気であれば子どもが発症する確率は50%です。しかし、どちらかの親が家族性地中海熱(MEFV遺伝子の両方に変異がある)で、もう一方の親は保因者(MEFV遺伝子の1つのコピーにだけ変異)である場合に、病気を発症した子どもが片親から引き継いだように見える場合があり、実際のところははっきりとわかっていません。
どのように診断されるの?
この病気の診断基準として、
1)12時間から72時間続く38度以上の発熱を3回以上繰り返す
2)発熱時には、CRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認める
3)発作間歇期(ほっさかんけつき)にはこれらが消失する
という1)から3)の3つの症状がみられ、
4)発熱時の随伴症状として、非限局性の腹膜炎による腹痛、胸膜炎による胸背部痛、関節炎、心膜炎、精巣漿膜炎、髄膜炎による頭痛のうちのいずれかを認める
5)コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する
という、4)と5)どちらかの症状が一つでも見られた場合には、臨床的に家族性地中海熱の典型例と診断されます。
また、繰り返す発熱のみ、もしくは4)5)の項目のどちらかが見られるなど、非典型的な症状である場合には遺伝学的診断によりMEFV遺伝子の特定の箇所(Exon10)に変異を認めた場合にはこの病気であると診断されます。MEFV遺伝子のExon10以外の変異や、変異がない場合にはコルヒチンを投与し、効果が認められた場合に家族性地中海熱の非典型例として診断されます。
また、指定難病は家族性地中海熱の典型例、もしくは遺伝子解析によって診断された場合に対象となり、非典型例は対象とされていません。
どのような治療が行われるの?
家族性地中海熱において、根治的な治療はありません。唯一効果が認められている治療薬は「コルヒチン」です。コルヒチンの内服によって、発作を防ぎ、アミロイドーシスを予防することができます。コルヒチンの内服は途中で中止せず、一生きちんと続ける必要があります。途中で中止すると、発作が起き、アミロイドーシスを引き起こす恐れがありますが、飲み続けていれば制限のない普通の生活を送ることができます。治療が遅れたり、治療を休んだりすることのないように注意が必要です。
コルヒチンの副作用として、一番多いのは下痢で、副作用がひどく内服できない場合は症状が改善できるまで量を減らして少しずつ増やすことが効果的とされます。また、発熱発作が頻回にあるもののコルヒチンを増やしても効果がない場合や、副作用のために使用できない場合は、抗IL-1製剤(カナキヌマブ、イラリス)などの導入も検討されます。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で家族性地中海熱の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 東北大学病院 血液内科・リウマチ膠原病内科
- 筑波大学医学医療系小児科
- 東京医科歯科大学膠原病・リウマチ先端治療センター
- 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター
- 国立成育医療研究センター免疫科
- 信州大学医学部附属病院脳神経内科/リウマチ・膠原病内科
- 岐阜大学医学部附属病院小児科
- 藤田医科大学病院臨床遺伝科
- 兵庫医科大学病院アレルギー・リウマチ内科
- 川崎医科大学附属病院リウマチ・膠原病科
- 九州大学医学部 小児科
- 久留米大学医学部 小児科学教室
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター 家族性地中海熱
- MedlinePlus
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- GeneReviews