膿疱性乾癬(汎発型)

遺伝性疾患プラス編集部

膿疱性乾癬(汎発型)の臨床試験情報
英名 Generalized Pustular Psoriasis
別名 汎発性膿疱性乾癬、GPP、IL-36受容体拮抗因子欠損症(deficiency of IL-36 receptor antagonist:DITRA)、急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch型)、Generalized pustular psoriasis of von Zumbusch、疱疹状膿痂疹、小児汎発性膿疱性乾癬
日本の患者数 膿疱性乾癬(汎発型)の医療受給者証所持者数(令和2年末)は約2,000人
国内臨床試験 実施中試験あり(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」)
発症頻度 不明
子どもに遺伝するか 遺伝しない場合と遺伝する場合がある
発症年齢 小児期~成人期
性別 男女とも
主な症状 全身の膿疱性乾癬、発熱、全身のむくみ、紅斑など
原因遺伝子 IL36RN、CARD14など
治療 対症療法
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どのような病気?

膿疱性乾癬(汎発型)には、原因遺伝子が明らかになっている遺伝性のものと、遺伝性かどうかわかっていない原因不明のものが含まれています。この記事では主に、遺伝性の膿疱性乾癬(汎発型)について説明します。

膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)とは、乾癬(かんせん)と呼ばれる、全身の皮膚に盛り上がった赤い腫れ(紅斑)ができ皮膚の一部が乾燥したようにポロポロ剥がれ落ちる皮膚の病気と併せて、発熱や発赤と一緒にたくさんの膿疱(のうほう)と呼ばれる膿(うみ)がたまった状態の小さな水ぶくれ(皮疹)が現れ、それらの症状を繰り返す疾患です。膿疱は血液中の白血球が集まったものですが細菌感染が原因ではなく無菌性で、他の人に伝染させることはありません。

膿疱性乾癬の中でも、「汎発型(はんぱつがた)」は、発熱・全身倦怠感・発赤や四肢のむくみなどと一緒に全身に膿疱が出現する重症な病型です。他に、膿疱が手のひら、足の裏、指先などの体の一部だけに見られる限局型の膿疱性乾癬(掌蹠膿疱症、アロポー稽留性肢端皮膚炎など)もあります。

さらに、膿疱性乾癬(汎発型)の中には、典型例である急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch型)と呼ばれる、急激な発熱と一緒に全身の皮膚が赤くなり、数多くの膿疱が現れる疾患の他に、小児で見られる小児汎発性膿疱性乾癬、妊娠中にホルモン異常などにより発症する疱疹状膿痂疹(ほうしんじょうのうかしん)などが含まれます。

膿疱性乾癬(汎発型)の急性期の症状としては、全身にやけるような痛み(灼熱感)と紅斑ができ、多くの場合、悪寒や高熱が見られます。全身のむくみや関節の痛みが出ることもあります。その後、紅斑に多くの膿疱が現れます。膿疱は3~5mmくらいの大きさで、破れたり、膿疱同士がくっついて環状や環が連なったような形状(膿海)となることもあります。爪が厚くなる(爪甲肥厚)、爪の下の膿疱(爪甲下膿疱)、爪がはがれる(爪甲剥離)などの爪の異常のほか、口の中の異常(頬粘膜病変、地図状舌)なども見られます。

臨床検査で炎症を示す値が高くなることも特徴です。また、高い熱が出ることで体力が消耗したり、膿疱が多発し皮膚のバリア機能が低下することで体内の水分バランスが崩れたりすることもあります。まれに、呼吸不全、循環不全(血液を巡らせる機能が低下)、腎不全、二次性アミロイドーシス、悪液質などを併発することもあり、そのような状態が続くと、心臓や腎臓に負担がかかり、特に高齢の場合には命にかかわることもあります。

適切に治療が行われると、徐々に皮膚の赤みが消えて、膿疱が破れ、皮がむけていきます。その後は、正常な皮膚に戻る場合もあれば、慢性期症状として膿疱性ではない通常の乾癬(尋常性乾癬、じんじょうせいかんせん)となる場合や、手足の膿疱が繰り返すなどの色々な症状が見られます。尋常性乾癬が膿疱性乾癬症状の前に現れる人もいます。

急性期の皮膚症状が良くなった場合でも、強直性脊椎炎などを含む「リウマトイド因子陰性関節炎」と呼ばれる関節炎が見られる場合があります。また、この病気は一度よくなっても再発を繰り返すことが特徴です。

膿疱性乾癬(汎発型)で見られる症状

ほとんどで見られる症状

関節痛、赤血球沈降速度(せっけっきゅうちんこうそくど、体内の炎症などを調べる血液検査)の上昇、紅斑、膿疱

高頻度に見られる症状

爪の異常、紅皮症、痛み

良く見られる症状

関節炎、口唇炎、C反応性タンパク質濃度の上昇(炎症に反応して濃度が増加する)、疲労、発熱、地図状舌(舌に地図のような不規則な斑状の形態が見られる)、白血球増加、体重増加

しばしば見られる症状

肝トランスアミナーゼの上昇、低アルブミン血症、低カルシウム血症、低ナトリウム血症、リンパ球減少症、肥満、掌蹠膿疱症、下肢浮腫(足のむくみ)、腎不全

まれに見られる症状

うっ血性心不全、敗血症、ブドウ膜炎

膿疱性乾癬(汎発型)の世界的な発症頻度は不明ですが、欧州では100万人に2人の発症頻度であるとされています。難病情報センターによれば、日本では、膿疱性乾癬(汎発型)の特定医療費受給者証を所持している人は、令和2年度末において全国で約2,000人です。

膿疱性乾癬(汎発型)は、指定難病対象疾病(指定難病37)、小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

膿疱性乾癬(汎発型)には、遺伝性かどうかわかっていない原因不明のものもありますが、ここでは遺伝性のものについて説明します。

膿疱性乾癬(汎発型)の原因となる遺伝子として、これまでに2番染色体の2q14.1領域に存在するIL36RN遺伝子、17番染色体の17q25.3領域のCARD14遺伝子などが明らかになっています。

IL36RN遺伝子は、主に皮膚に存在して皮膚の炎症反応を抑える「インターロイキン36受容体拮抗因子(IL-36Ra)」と呼ばれるタンパク質が作られる際の設計図となります。通常、けがや感染症などをきっかけに、体の細胞がIL-36を作り、それがIL-36受容体にくっつくことで炎症が促進され、体を守ります。炎症が不要になると、IL-36Raが出てきて、IL-36と競合的にIL-36受容体にくっつき、炎症を鎮めます。IL36RN遺伝子の変異により、皮膚のIL-36Ra量が減少し、炎症を促進するシグナル伝達経路が制御されず過剰に活性化して体の組織や器官に損傷が生じ、膿疱性乾癬(汎発型)の症状が現れるのではないかと考えられています。

IL36RN遺伝子の変異は、尋常性乾癬を一緒に発症するタイプの病型の人にはほとんど見られず、膿疱性乾癬(汎発型)だけを発症する人に多く見られるとされています。尋常性乾癬を併発しない膿疱性乾癬(汎発型)の中では、およそ8割がこの遺伝子変異を持っているという報告もあります。

CARD14遺伝子は、CARD14タンパク質の設計図となります。CARD14タンパク質は炎症に関わるシグナル伝達を活性化する役割があります。膿疱性乾癬(汎発型)では、CARD14遺伝子の変異によって異常な活性化CARD14タンパク質が作られ、炎症シグナル伝達が過剰に活性化されて、膿疱性乾癬(汎発型)に特徴的な全身の炎症の原因となるのではないかと考えられています。この遺伝子の変異は尋常性乾癬を一緒に発症するタイプの病型の人に多いという報告もあります。

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これらの遺伝子の他にも、2番染色体2q36.1領域のAP1S3遺伝子、14番染色体の14q32.13領域のSERPINA3遺伝子、17番染色体の17q22領域のMPO遺伝子などが海外の患者さんを中心に膿疱性乾癬(汎発型)の原因遺伝子としてこれまでに報告されています。

しかし、これらの遺伝子に変異が見つからない場合でも膿疱性乾癬(汎発型)を発症することがあり、他にも発見されていない遺伝的要因が存在するか、遺伝的要因ではない別な発症原因があるのではないかと考えられています。

この病気の遺伝形式は、原因遺伝子によって異なります。IL36RN遺伝子が原因遺伝子である場合には通常、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、両親から受け継いだ2つの遺伝子のうちどちらにも変異がある場合にこの病気を発症します。両親は変異のある遺伝子のコピーを1つずつ持つ保因者となり、通常はこの病気を発症しません。しかし、片方の遺伝子だけの変異でも発症する場合や、両方の遺伝子に変異があっても発症しない例も報告されており、原因はわかっていません。CARD14遺伝子が原因遺伝子である場合には通常、常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。

また、家族には病歴がないものの、新しい変異が原因でこの病気を発症する「孤発例」として遺伝性の膿疱性乾癬(汎発型)を発症する場合もあります。

どのように診断されるの?

膿疱性乾癬(汎発型)の診断基準として以下の1)~4)のすべてが見られる場合に、この病気の診断が確定となります。しかし、1)~4)のすべてを満たしていない場合でも、2)と3)が見られる場合にはこの病気の可能性ありと診断されます。

1)発熱あるいは全身倦怠感などの全身症状を伴う

2)全身または広範囲の潮紅皮膚面に無菌性膿疱が多発し、ときに融合し膿海を形成する

3)病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱が証明される

4)1)~3)の臨床的、組織学的所見を繰り返し生じるか、初発の場合には臨床経過から以下3つの「膿疱性乾癬(汎発型)の除外項目」記載の事項を除外できる

「膿疱性乾癬(汎発型)の除外項目」

・尋常性乾癬が明らかに先行し、副腎皮質ホルモン剤などの治療により一過性に膿疱化した症例は原則として除外(皮膚科専門医が一定期間注意深く観察した結果、繰り返し容易に膿疱化する症例で、本症に含めた方がよいと判断した症例は含まれる)

・circinate annular formは、通常全身症状が軽微なので対象外(明らかに汎発性膿疱性乾癬に移行した症例は、本症に含まれる)

・一定期間の慎重な観察により角層下膿疱症、膿疱型薬疹(AGEPを含む)と診断された症例

どのような治療が行われるの?

膿疱性乾癬(汎発型)では、症状に応じた対症療法が行われます。同じ膿疱性乾癬(汎発型)でも、年齢、重症度などを総合的に判断してそれぞれの患者さんに適した治療法が選択されます。

この病気ではほとんどの場合、急性期は入院が必要となり、安静を保つほか、高熱に対する解熱剤の投与、水分バランス補正のための点滴、軟膏で皮膚のバリア機能を補うなどの治療が行われます。

膿疱性乾癬(汎発型)には、効果のあるいくつかの治療薬や治療機器があり、エトレチナート、シクロスポリン、メトトレキサートなどのお薬が使われます。生物学的製剤として、TNFα阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬、IL-36阻害薬というお薬が使われることもあります。他にも、顆粒球吸着除去療法と呼ばれる、血液を体外で専用のカラムに通して、白血球の好中球や単球を吸着させる治療法や、紫外線治療などもあります。これらの治療が無効な場合などには副腎皮質ステロイドの全身投与が行われる場合もあります。

妊娠中、授乳中や、小児の場合など患者さんの状況によって使用できるお薬が異なり、また、長期使用に注意が必要な場合もあるため、医師の指示に従うことが重要です。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で膿疱性乾癬(汎発型)の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

※広く乾癬患者さん向けの情報を多く発信されている中で、膿疱性乾癬(汎発型)患者さん向けの情報も発信されています。

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参考サイト

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