今回は、血友病A(血が止まりにくくなる遺伝性疾患)のお子さんがいるhiromiさんにお話を伺いました。遺伝形式と呼ばれる病気の伝わり方の特徴から、ほとんどが男性で発症する血友病A。女性での発症は極めてまれで、女性はたいてい、血友病の原因となる遺伝子異常をもっていても発症しない「保因者」となります。hiromiさんは、お子さんの診断をきっかけに、ご自身が「保因者」であることを知ることとなりました。
「血友病Aのわが子の日常を発信することで、患者さんやご家族へ、血友病の生活に関わるリアルな情報を届けたい」という思いから始められたブログ運営。現在は、ご夫妻で手掛けている4コマ漫画などを通じて、幅広く情報発信を行われています。
また、今春、第二子を出産予定だというhiromiさん。血友病のお子さんの日常だけでなく、保因者としてのご自身の妊娠・出産についても、情報発信されていく予定だそうです。
患者家族の立場から情報発信を始めたきっかけや、お子さんへの想いについて、詳しくお話を伺いました。
「息子が、まさかの遺伝性疾患」。初めて聞く病名に、戸惑いも
お子さんが血友病の診断を受けるまでの経緯について、教えていただけますか?
息子は、血友病と診断を受ける前から、ひざの下・お尻にあざが現れていました。私も気付いていたので、乳幼児健診の際に個人病院(クリニック)で確認していたんです。ただ、そこの医師から「大丈夫ですよ」と話があったので、その言葉を信じることしかできませんでした。
当時は、初めての子育てが始まったばかりで、ただでさえわからないことが多かったですし、そもそも「血友病」という病気も知りませんでした。また、息子のあざは時間が経つと自然に治っていたので、病気の可能性を疑うことなく過ごしていました。
そして、診断に至るきっかけとなった出来事が起こったのが、1歳半検診の前日。息子が、転んだ際に顔の左側を打ってしまったんです。そこから、30分後には顔が腫れ始め、時間が経つにつれて腫れがひどくなっていきました。次の日の検診で血友病の可能性を疑われ、そして後日、紹介先の大きな病院で確定診断を受けました。
まさか、わが子が遺伝性疾患を抱えているとは思いもしませんでしたし、今でも当時のことを思い出すと胸が苦しくなります。また、血友病が治らない病気であることに、深くショックを受けました。
診断を受けた時、ご家族とはどのようなお話をしましたか?
夫とは、前を向くために、一晩だけ一緒に泣きました。その後は、息子の身体を守るために気持ちを切り替えて、血友病における出血予防などを学びました。主に、主治医から頂いた血友病の冊子やインターネットを頼りに情報を集めていきました。
同時に、治療に関わる情報も集め始めました。血友病Aでは、近年、新しい製剤や遺伝子治療の開発も進んでいるので、今でも最新の情報を集めるように心がけています。
これから診断を受ける全ての患者さん・ご家族へ「大丈夫」と伝えたい
お子さんの日常生活やご自身のご経験について、ブログやSNSで発信を始めたきっかけを教えてください。
「患者さんやご家族向けに血友病の生活に関わるリアルな情報を届けたい」と、考えたためです。その理由は、息子が血友病と診断された直後、病気に関わる基本情報はインターネットで見つけることができたものの、リアルな血友病のお子さんの情報を見つけられず苦労したためです。
こうした経験をきっかけに、息子の診断から約4か月後にはブログ「LIFE~血友病と生きる~」を立ち上げました。これから血友病と診断される子どもやそのご家族が安心できるように、「今はこんな風に環境が整っているから、大丈夫」と、お伝えしていきたいですね。もちろん、それぞれの患者さんの症状はさまざまだと思いますが、以前よりも、血友病のお子さんが安心して生活できる時代になったと思います。病気を抱えながら生きることは、大変なことも多いですが、そんな中でも息子が元気に生活している姿を発信していきたいです。
ブログは、どのように更新されているのですか?
記事の文章作成を私が担当し、ウェブサイトのデザインや写真に関わる部分を夫が担当しています。また、ブログを始めた1年後にはTwitter、InstagramといったSNSでの発信も開始し、2人で一緒に運営しています。
内容については、主に生活に関わる情報について発信しており、治療に関わる部分は、あくまでも医師から聞いた情報をもとに発信しています。私たちは患者家族なので、治療に関わる発信については慎重に行うべきと考えているからです。
4コマ漫画での発信や、血友病に関わるオリジナルグッズの販売も
文章での発信だけでなく、4コマ漫画を始めたきっかけについて教えてください。
血友病のお子さんやご家族向けに情報発信する中で、「病気の話を、もう少し柔らかく表現できないかな?」と考えるようになったためです。血友病は、まだまだ認知度に課題のある疾患だと思いますので、この4コマ漫画を通じて、少しでも多くの方々に血友病という病気を知って頂けたらうれしいですね。
4コマ漫画のエピソードを考える担当は私で、イラストを描く担当は夫。こちらも、夫婦二人三脚で進めています。4コマ漫画を中心に発信しているInstagramでは、血友病の患者さんやご家族からはもちろん、直接病気とは関わりのない一般の方からも「いいね!」を頂くことがあり、うれしいです。
4コマ漫画で描いているエピソードの多くは、病院での話です。子どもの患者さんにとって病院は、注射による治療などがあるため、あまり良いイメージがないかもしれません。でも、「つらい治療や通院の中にも、実は面白い出来事があるんだ!」と、感じていただけたらうれしいですね。
情報発信を始めて、血友病患者さんやご家族からどのような声が届いていますか?
温かい励ましのお言葉を多く頂いており、本当に感謝しています。その中でも、「ブログの情報が役に立った」と言って頂けたときは、「続けてきて、本当に良かった」と感じます。
特に、患者さん向けのお役立ちグッズの紹介記事については多く声が寄せられています。例えば、幼稚園生活を安全に送るための「保護帽子」の情報をまとめた記事では、「こういうものを探していたから、助かった!」といった声が寄せられました。頭を守るために「ヘッドギア」という手段もありますが、「周りの目が気になる」という声もありますから。今後も、息子の元気な姿を通じて、生活に関わる情報をお伝えしていきます。
また、オリジナルグッズへの声も届いています。実は、『命を守るラバーバンド』というオリジナルグッズを作ったんです。これは、災害時に、「もしも、病気のことを伝えられる人が側にいなかったら…?」という思いから作りました。万が一、処置が必要となった場合に、血友病であることをスムーズに医療従事者側に伝えられるように、と考えて作ったものです。
詳細情報は、ブログの記事をご覧いただければと思います。今後も、自分たちだからできること、発信できることを考えながら活動していきます。
保因者の妊娠・出産、不安を感じている方へ伝えたい
現在、第二子妊娠中と伺いました。ご自身の経験を発信することで、保因者の方には、どのような情報を届けたいと考えられていますか?
わたしは、息子の診断をきっかけに保因者診断を受け、自分が保因者であることを知りました。前回の出産は自分が保因者と知らずに臨んだものでしたが、今回は、保因者と知ってから初めての出産となります。そのため、今回の出産について発信することで、妊娠や出産はもちろん、恋愛や結婚に対して不安を感じている保因者の方に1つでも多くの情報をお届けできたらうれしいです。
保因者の妊娠や出産は、出血のリスクが伴うためさまざまなケアが必要となります。そういった部分も、今回の経験を通じてできるだけ具体的にお伝えしていきたいです。出産予定日は4月の後半頃です。それまでは、無理せず、保因者の方向けにも情報を発信していきたいですね。
最後に、遺伝性疾患患者さんやそのご家族にメッセージをお願いいたします。
遺伝性疾患は病気を抱える方だけではなく、そのご家族様にも大きな影響を与えるものだと感じています。また、病気を理由に、身体的な面だけではなく精神的な面でもつらい思いをされることもあるでしょう。だけど、つらい気持ちをためこまないことが大切だと思います。
私たち夫婦は、なるべく不安なことやつらいことを口に出して、互いに解消するよう心がけています。そうすることで、息子の前では笑顔でいられますからね。一番つらいのは患者本人ですから、親がつらい気持ちを溜め込んでしまっては、子どもを励ますことができません。こんな風に、家族全員で少しずつ前に進めていけたら、と考えています。
この先、私たち家族にどんな困難が待っているかは、わかりません。だけど、家族は常に寄り添える関係であり続けるように努力していきたいですし、息子が少しでも前向きになれる環境やきっかけを探し、みんなで前進していきたいです。そして、このような経験を発信し、少しでも多くの患者さんやご家族の力になれたらうれしく思います。
治療などで大変なことが多い血友病のお子さんの日常を、ブログや4コマ漫画などを通じて、発信し続けるhiromiさん。「血友病のお子さんは、安心して生活できる」ということを、多くの患者さんやご家族に伝えたいという思いで、さまざまな工夫を凝らしながら発信されています。
特に、4コマ漫画では、大変な治療や通院に関わるエピソードであっても、読んでいる側が思わず「クスっ」とほほ笑むように工夫されているのが印象的です。お子さんの元気な姿が、きっと、多くの患者さんやご家族に勇気を与えるのではないかと感じました。
また、保因者の妊娠・出産についても、今まさに発信中のhiromiさん。こちらも、多くの保因者の方々に届いてくれることを祈るばかりです。まずはお体を第一に、元気なお子さんの出産報告をブログやSNSで拝見できることを、楽しみにしております。(遺伝性疾患プラス編集部)