どのような病気?
ホモシスチン尿症は、血液中にホモシステインと呼ばれる物質が蓄積することで各種の症状が現れる遺伝性疾患で、先天性代謝異常症と呼ばれる疾患の1つです。ホモシステインが血中に増加すると、活性酸素が発生しやすくなります。活性酸素は血管内皮細胞を障害するため、ホモシスチン尿症では血栓症などが生じやすくなります。
ホモシステインは、体内の酵素反応によりメチオニンから変換された物質(代謝産物)で、メチオニンとはタンパク質を構成するアミノ酸の一種です。ホモシステインも酵素によって他の物質に代謝されますが、ホモシスチン尿症では、その代謝酵素の活性が低下することによってホモシステインが血中に増加します。血中の過剰なホモシステインの一部はその重合体(複数のホモシステインが結合したもの)である「ホモシスチン」として尿中に排泄されます。
ホモシスチン尿症は、病気の原因となる酵素の種類によって、3つの病型に分類されており、症状や発症時期は病型によって異なります。
Ⅰ型はホモシステインを代謝する酵素である「シスタチオニンβ合成酵素」(CBS)欠損症で、代謝が阻害されるために血中にホモシステインが増加します。血中に増加したホモシステインは再メチル化経路という反応を介して、再度メチオニンに変換されます。このためI型では血中メチオニンも高値となります。
再メチル化経路には、コバラミン代謝系や葉酸代謝系という反応が関与しますが、これらの反応に関わる酵素に異常があると、ホモシステインのメチオニンへの変換が障害されます。II型はコバラミン代謝
系に関わる「コバラミンC」(cblC)の異常、III型は葉酸代謝系に関わる「メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素」(MTHFR)の欠損によってホモシステインのメチオニンへの変換が障害されます。このためII型はコバラミン代謝異常症C型、III型はMTHFR欠損症とも呼ばれます。これらの代謝酵素の異常や欠損は、その酵素の産生に関わる遺伝子の変異によって生じます。
Ⅰ型の主な症状として、中枢神経系の異常(知的障害、てんかん、精神症状など)、骨格の異常(骨粗しょう症、高身長、クモ状指、側弯症、鳩胸、凹足、外反膝など)、眼症状(水晶体脱臼・亜脱臼)、血管系障害(冠動脈血栓、肺塞栓、脳血栓、脳塞栓など)が挙げられます。骨格に見られる、高身長、クモ状指、側弯症、鳩胸などを「マルファン症候群様体型」といいます。I型で無治療の場合、乳幼児期から発達の遅れが生じやすく、10歳までに80%以上が水晶体脱臼を起こすとされています。また、10代後半から血管系障害が発症しやすくなります。
II型の主な症状として、神経障害(乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、水頭症、けいれんなど)、眼症状(網膜症や視神経の萎縮による視力障害など)、血液異常(巨赤芽球性貧血、好中球減少、汎血球減少など)、血栓症(溶血性尿毒症症候群、肺塞栓症、脳血栓症、脳塞栓症など)が挙げられます。乳児期には哺乳不良がみられることがあります。学童期以降に発症すると、退行(行動や表現が未成熟な状態に戻る)、学業成績の低下、性格・行動異常などの精神症状がみられることがあります。
III型の主な症状として、神経障害(乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、けいれんなど、学童期以降の発症では水頭症、歩行障害、けいれん、末梢神経障害、統合失調症など)と血栓症(青年期以降の心血管血栓症や若年性の脳梗塞など)が挙げられます。III型では葉酸欠乏による中枢神経障害が見られ、重篤化する場合があります。
ホモシスチン尿症で見られる主な症状 |
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I型(シスタチオニンβ合成酵素(CBS)欠損症) 知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティー障害、不安、抑うつなど)、高身長、クモ状指(通常よりも指が長い状態)、側弯症、鳩胸(胸骨が前方に突出した状態)、凹足(足のアーチが高く、土踏まずが床に接地しないような足の形)、外反膝(X脚ともいい、両膝が内側に湾曲した状態)、骨粗しょう症、水晶体脱臼(目の中でピントを調整する水晶体が本来の位置からずれている状態)、冠動脈血栓症、肺塞栓症、脳血栓塞栓症 |
II型(コバラミン代謝異常症C型) 乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、水頭症、けいれん、網膜症、視力障害、巨赤芽球性貧血(赤血球の減少)、好中球減少(白血球の減少)、汎血球減少(血液成分全ての減少)、溶血性尿毒症症候群(溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害の3つの症状が合併した状態)、肺塞栓症、脳血栓塞栓症 |
III型(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)欠損症) 乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、けいれん、青年期以降の心血管血栓症、若年性脳梗塞 |
全体的な病気の経過としては、Ⅰ型はほとんどの人が新生児マススクリーニング検査で発見され、治療が開始されるので、知的予後および生命予後は良好です。しかし、成人期にコントロール不良となるケースもあります。思春期から成人期に血栓症を合併すると生命予後に影響することから、生涯にわたって治療を受け続ける必要があります。Ⅱ型とⅢ型は新生児マススクリーニング検査による発見が困難で、症状の発現時期や重症度は人によってさまざまです。Ⅱ型では、治療を受けても神経学的、眼科的後遺症が残る場合があります。Ⅲ型は、新生児期に命を落とす場合から成人発症までさまざまですが、中枢および末梢神経障害が顕著な人の場合、予後は不良とされています。
日本にホモシスチン尿症の患者さんは、I型は約200人、II型およびIII型は各100人未満いるとされています。ホモシスチン尿症は国の指定難病(指定難病337)、および、小児慢性特定疾病の対象疾患です。
何の遺伝子が原因となるの?
ホモシスチン尿症の原因遺伝子として、I型ではホモシステインの代謝酵素であるCBSの設計図となる「CBS遺伝子」(染色体位置:21q22.3)、II型ではコバラミン代謝系のコバラミンCの設計図となる「MMACHC遺伝子」(2q23.2)、III型では葉酸代謝系の酵素であるMTHFRの設計図となる「MTHFR遺伝子」(1p36.22)が見つかっています。
その他、米国の研究機関が運営する国際的な遺伝性疾患データベース「OMIM」によると、ホモシステインをメチオニンに変換する過程で働く別の酵素の設計図となる2つの遺伝子、「MTR遺伝子」(1q43)、「MTRR遺伝子」(5p15.31)も、ホモシスチン尿症の原因遺伝子として記載されています。
これらの酵素の遺伝子に変異があることで、ホモシスチン尿症が発症しますが、これらのどの遺伝子に変異があるタイプでも皆、常染色体性劣性(潜性)遺伝形式で親から子へ遺伝します。ヒトが2本1セットで持っている原因遺伝子のうち、両親がともに1本ずつ変異を有していた場合、子どもは4分の1の確率で2本とも変異を有してホモシスチン尿症になります。また、2分の1の確率で1本変異を有し発症はしない「保因者」となり、4分の1の確率でホモシスチン尿症を発症せず保因者でもなく(変異した遺伝子を持たず)生まれます。
どのように診断されるの?
I型~III型のいずれの病型も、鑑別すべき疾患を除外したうえで、症状、検査所見、遺伝子検査の結果を基に診断されます。新生児マススクリーニング検査で発見された場合には、症状がないことから検査所見と遺伝子検査によって診断が行われます。
I型(CBS欠損症)
鑑別すべき疾患:メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ欠損症、肝障害、メチオニン合成酵素欠損症、ホモシスチン尿症II型およびIII型
1)小児期及び成人期発症例の診断
以下のいずれかに該当する場合にホモシスチン尿症I型と診断されます。
- 【症状】の1項目以上+【検査所見】1と2
- 【症状】の1項目以上+【検査所見】1と3
- 【症状】の1項目以上+【遺伝学的検査】1
- 【症状】の1項目以上+【遺伝学的検査】2
2)新生児マススクリーニングなどの無症状時に発見された場合の診断
以下のいずれかに該当する場合にホモシスチン尿症I型と診断されます。
- 【検査所見】1と2
- 【検査所見】1と3
- 【遺伝学的検査】1
- 【遺伝学的検査】2
【症状】
- 知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティー障害、不安、抑うつなど)
- マルファン症候群様体型(高身長、クモ状指、側弯症、鳩胸、凹足、外反膝など)
- 水晶体脱臼
- 血栓症(冠動脈血栓症、肺塞栓症、脳血栓塞栓症など)
【検査所見】
- 血中メチオニン高値:1.2 mg/dL以上(80 µmol/L以上)
- 高ホモシステイン血症:60 µmol/L以上
- 尿中ホモシスチン排泄(通常は検出されない)
【遺伝学的検査】
- CBS遺伝子の1対ともに機能喪失型変異がある
- CBS活性低下(皮膚生検による培養細胞、末梢血から採取した培養リンパ芽球を用いて酵素活性を測定)
II型(コバラミン代謝異常症C型)
鑑別すべき疾患:ホモシスチン尿症I型およびIII型、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症
1)乳幼児期及び学童期以降の診断
以下のいずれかの場合にホモシスチン尿症II型と診断されます。
- 【症状】の1項目以上+【検査所見】1、2、3
- 【症状】の1項目以上+【検査所見】1、2、4
- 【症状】の1項目以上+【遺伝学的検査】1
2)新生児マススクリーニングなどの無症状時に発見された場合の診断
以下のいずれかの場合にホモシスチン尿症II型と診断されます。
- 【検査所見】1、2、3
- 【検査所見】1、2、4
- 【遺伝学的検査】1
【症状】
- 神経障害(乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、水頭症、けいれん。学童期以降の遅発型では退行、学業成績悪化、性格や行動の異常などの精神症状)
- 眼症状(網膜症や視神経萎縮による視力障害)
- 血液異常(巨赤芽球性貧血、好中球減少、汎血球減少)
- 血栓症(溶血性尿毒症症候群、肺塞栓症、脳血栓塞栓症など)
【検査所見】
- 血中メチオニンは正常または低値(正常範囲:0.3-0.6 mg/dL(20-40 µmol/L))
- 高ホモシステイン血症:60 µmol/L以上
- 尿中ホモシステインおよびメチルマロン酸の排泄増多(通常は検出されない)
- 血中プロピオニルカルニチン(C3)の上昇かつC3/C2(プロピオニルカルニチン/アセチルカルニチン)の上昇
【遺伝学的検査】
- MMACHC遺伝子の1対ともに機能喪失型変異を認める
III型(MTHFR欠損症)
鑑別すべき疾患:ホモシスチン尿症Ⅰ型およびⅡ型、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症
1)乳幼児期及び学童期以降の診断
以下のいずれかに該当する場合にホモシスチン尿症III型と診断されます。
- 【症状】の1項目以上+【検査所見】1~4の全て
- 【症状】の1項目以上+【遺伝学的検査】1
2)新生児マススクリーニングなどの無症状時に発見された場合の診断
以下のいずれかに該当する場合にホモシスチン尿症III型と診断されます。
- 【検査所見】1~4の全て
- 【遺伝学的検査】1
【症状】
- 神経障害(乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、けいれん。学童期以降の遅発型では水頭症、歩行障害、けいれん、末梢神経障害、白質脳症、統合失調症)
- 血栓症(青年期以降の心血管血栓症、若年性脳梗塞)
【検査所見】
- 血中メチオニンは正常または低値(正常範囲:0.3-0.6 mg/dL(20-40 µmol/L))
- 高ホモシステイン血症:60 µmol/L以上
- 尿中ホモシスチン排泄(通常は検出されない)
- メチルマロン酸排泄は認めない(通常は検出されない)
【遺伝学的検査】
- MTHFR遺伝子の一対ともに機能喪失型変異を認める。
どのような治療が行われるの?
小児期・成人期を問わず、血中ホモシステイン値を50 μmol/L以下となるように管理するように治療が行われます。新生児マススクリーニングで発見された場合は、原則として無症状のうちに診断して治療が開始されます。
I型では食事療法でメチオニンの摂取を制限し、血中メチオニン濃度を1 mg/dL以下に保ちます。I型ではビタミンB6の投与に反応するタイプ(ビタミンB6反応型)があり、その場合にはビタミンB6製剤であるピリドキシンの大量投与が行われます。II型及びIII型ではメチオニンの補充が必要となり、II型ではビタミンB12製剤であるヒドロキソコバラミンが用いられます。また、どの病型でも年長児や成人では、ベタイン製剤の併用が治療の選択肢の1つとなります。ベタインはホモシステインをメチオニンに変換することで血中のホモシステインを低下させる作用があります。しかし、血中ホモシステインを至適なレベルで管理するためには薬剤以外にも生涯にわたって、メチオニンを除去した食事療法(メチオニン除去ミルクやメチオニン除去アミノ酸粉末など)が必須となります。また、成人期では脳血栓や心血管障害および妊娠・出産時の血栓症リスクを低下させるために抗血栓療法が必要となります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でホモシスチン尿症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
米国のホモシスチン尿症の患者支援団体で、ホームページを公開しているところは、以下です。