クラインフェルター症候群

遺伝性疾患プラス編集部

クラインフェルター症候群の臨床試験情報
英名 Klinefelter syndrome
別名 KS、XXY症候群、47,XXY症候群、XXYトリソミー
日本の患者数 6万人以上と推定
海外臨床試験 海外で実施中の試験情報(詳細は、ページ下部 関連記事「臨床試験情報」)
発症頻度 出生男児の500~1,000人に1人と推定
子どもに遺伝するか ほとんどが遺伝しない
発症年齢 さまざまだが思春期や成人期に気付かれることも多い。明らかな症状がない人もいる
性別 男性のみ
主な症状 不妊症、高身長など
原因遺伝子領域 X染色体(数的・構造的異常)
治療 テストステロン補充療法など
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どのような病気?

クラインフェルター症候群は、男性が性染色体である「X染色体」を1本以上余分にもつことで生じる遺伝性疾患の総称です。兆候と症状は人によって異なり、クラインフェルター症候群の中には、明らかな兆候や症状がない人や、あっても軽度な人も多くいます。そのため、思春期~成人期まで症状が診断されず、男性不妊をきっかけに判明することも多くあります。研究者は、クラインフェルター症候群のうち最大75%が診断されずに過ごすと考えています。一方で、身体的および知的発達に影響のある人もいます

クラインフェルター症候群の一般的な兆候・症状は、不妊症と高身長です。その他、兆候・症状として、下記のようなものが挙げられます。これらの兆候・症状は人によってさまざまで、全ての人に見られるわけではなく、また、一人に全ての症状が見られるわけではありません。

  • 不妊症
  • 高身長
  • 思春期の遅れ/不完全・第二次性徴の欠如による、まばらな体毛(頭髪、わき毛、陰毛など)、高い声(声変わりが起こらない/不完全)、下半身太り(腰・おしり・太ももなど下半身に多く脂肪がつく)
  • 乳房肥大(女性化乳房)
  • 筋肉量や骨密度の減少
  • 特徴的な体格(長い手足、小さい胴、なで肩、狭い肩幅、幅広い腰)
  • 学習障害
  • 言葉の遅れ
  • 尿道下裂(尿道の開口部が陰茎の先ではなく下側にある)
  • 小さくて固い睾丸
  • 精巣の異常(矮小精巣、停留精巣など)
  • 小さな陰茎
  • 社会的、心理的、行動的問題

クラインフェルター症候群の人は、通常、精巣が小さく、テストステロンが十分な量作られません(原発性精巣不全)。テストステロンは、男性の性的発達を促すホルモンです。治療をせずにテストステロンが不足したまま過ごすと、思春期の遅延/不完全、乳房肥大(女性化乳房)、筋肉量の減少、骨密度の減少、顔と体毛の量の減少につながる可能性があります。テストステロン産生の低下により、クラインフェルター症候群の人はほとんどが不妊症ですが、生殖補助医療で子どもを授かる可能性があります。なお、精子が作られない人も、勃起や射精などは問題なく起こり、多くは性生活に影響しません。性同一性障害である人の割合も、通常と差がないと考えられています。

クラインフェルター症候群の子どもは、筋緊張低下や協調性の問題を抱えている場合があり、座ったり、立ったり、歩いたりするなどの運動能力の発達が遅れる可能性があります。しばしば言語発達の軽度の遅延や読書が困難などの学習障害も見られます。また、発話よりも会話を理解する力が高い傾向があり、コミュニケーションにおける自己表現が難しい場合があります。不安、うつ病、社会性の問題、感情的な未熟さや衝動性などによる行動上の問題、注意欠如・多動症(ADHD)、問題解決能力(実行機能)が限定的な傾向もあります。人によっては内向的な性格となる傾向もあり、自閉症スペクトラム障害のリスクも通常より高いとされていますが、性格は人それぞれです。また、こうした問題は多くの場合、大人になると困らなくなります。

クラインフェルター症候群では、ほぼ半数がメタボリックシンドロームを発症します。メタボリックシンドロームとは、2型糖尿病、高血圧、腹部脂肪の増加、血中コレステロールや中性脂肪の高値などです。また、クラインフェルター症候群の成人は、罹患していない男性と比較して、不随意の震え、乳がん(女性化乳房が発症した場合)、骨粗しょう症、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスや関節リウマチなど)の発症リスクが高いとされています。

男性のみが発症するクラインフェルター症候群は、多くの場合、X染色体が1本多く計2本あるのですが(47, XXY)、各細胞にX染色体が3本以上あるケースもあります(例:48, XXXYや49, XXXXY)。これらの場合、知的障害、骨格の問題、協調性の欠如などの症状が、一般的なクラインフェルター症候群よりも強く起こります。

クラインフェルター症候群の人は、日本に6万人以上いると推定されており、発症頻度は出生男児の500~1,000人に1人と推定されています。しかし、前述の通り、見た目や健康上の問題がなく、進学や就職もして経済的に自立し、通常の生活を送っている人が多くいます。また、多くの場合、平均余命に影響しません。

何の遺伝子が原因となるの?

ヒトは通常、各細胞に、父由来23本、母由来23本の2セット計46本の染色体を持っています。そのうちの2本は「性染色体」で、通常女性は2本のX染色体、男性は1本のX染色体と1本のY染色体を持っています(「46,XY」と表記されます)。クラインフェルター症候群は、男性の細胞にX染色体が余分に存在する場合に発症します(染色体が全部で47本になるので「47,XXY」と表記されます)。

Chromosomes In Humans
図は通常の男性。クラインフェルター症候群の男性では、X染色体が2本みられる。

X染色体が余分にあることにより、必要以上に働く遺伝子が出てくることなどが症状に関連すると考えられていますが、X染色体が余分にあるとなぜ発症するのか、そのメカニズムはまだ不明な部分が多く残されています。

代々、46本の染色体を保つためには、受精前の卵子や精子では、23本1セットの染色体となる必要があります。この、23本に分かれる段階で、何らかの理由でX染色体が2本一緒に卵子もしくは精子に入ってしまい、もう一方には入らない場合があります。この現象を「染色体不分離」といいます。染色体不分離により、余分なX染色体(XX)を持つ卵細胞が、1つのY染色体を持つ精子細胞にと受精した場合、クラインフェルター症候群になります。同様に、X染色体とY染色体(XY)の両方を持つ精子細胞が単一のX染色体を持つ卵細胞と受精した場合も、クラインフェルター症候群になります。

Trisomy 1

Trisomy 2

クラインフェルター症候群の中には、体全体の細胞ではなく、一部の細胞だけにX染色体が余分に見られる人がいます。これは「モザイク現象」として知られており、X染色体モザイクによって引き起こされるクラインフェルター症候群は、「モザイク・クラインフェルター症候群」(46,XY/47,XXY)と呼ばれます。

一般的にクラインフェルター症候群は、こうした卵子または精子の形成中にランダムに起こる現象が原因で発生します。そのため、クラインフェルター症候群のほとんどの症例は遺伝しません。モザイク・クラインフェルター症候群も遺伝しません。クラインフェルター症候群の子どもが生まれた場合、次に妊娠した赤ちゃんもクラインフェルター症候群である確率は、1%未満です。

どのように診断されるの?

クラインフェルター症候群は、出生前に母親の絨毛や羊水を調べる検査で診断される場合と、出生後に本人の血液を調べて診断される場合の2通りがあります。

出生前での診断

出生前遺伝学的検査のうち、胎盤の細胞を調べる「絨毛検査」と、羊水を調べる「羊水検査」は、おなかの赤ちゃんの全ての染色体を確認できる検査です。これらの検査は、13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症候群)の確定診断のために行われる場合が多いのですが、そうした別の病気を調べる目的で検査が行われた際に、クラインフェルター症候群とわかることがあります。一方、母親の血液を用いて病気である確率を調べる、コンバインド検査、クアトロ検査(母体血清マーカー検査)、NIPTの対象疾患には、クラインフェルター症候群は含まれておらず、これらの検査で偶然に見つかることはありません。

出生後での診断

お子さんがクラインフェルター症候群であった場合、そのことを必ずしも本人に伝えなくてはならないわけではありません。また、伝える場合でも、決まった時期があるわけではありません。それぞれのご家族や状況によって、伝えるかどうかはさまざまです。迷ったり悩んだりすることがあれば、担当医や認定遺伝カウンセラーなどに相談することが、解決の糸口を見つける一つの選択肢になります。

どのような治療が行われるの?

クラインフェルター症候群は、根本的に治す方法、つまり、染色体の数を操作するような治療法はまだありません。そのため、治療は、その人に見られる兆候・症状に基づいて行われています。

男性ホルモン(テストステロン)の低下により起こる症状(骨粗しょう症、筋力低下、女性化乳房など)を緩和するために、テストステロン補充療法が行われています。テストステロン補充療法は、糖尿病やメタボリックシンドロームの予防にもなりますが、不妊症に対する効果が期待されるものではありません。この治療は思春期から開始して生涯継続することが推奨されてはいますが、治療を受けない人や中断する人もいます。治療では、通常、2~4週間に1回、筋肉注射を受けます。飲み薬もありますが、肝臓に影響があることから推奨はされていません。保険適用の薬と、適用外の薬があります。テストステロン補充療法で、大きな副作用が起こることはまれですが、前立腺の病気、赤血球の増加、にきび、むくみなどが副作用として起こることがあります。

女性化乳房に対しても、テストステロン補充療法が治療法の一つとなりますが、胸を小さくする手術も保険適用で行われます。一方で、何もしないという選択肢もあります。

言葉を話したり、はっきり発音したりすることが苦手なクラインフェルター症候群の子どもに対しては、療育(言語療法)が行われることがあります。療育では、言語聴覚士(ST)により、言葉によるコミュニケーションのトレーニングが行われます。

不妊治療(生殖補助医療)は、本人の精子を用いる場合と、提供精子を用いる場合の2通りがあります。

本人の精子を用いる場合

精液の中に少し精子が存在する「乏精子症」の場合、顕微授精(ICSI)による妊娠が可能です。顕微授精は、体外に取り出した卵子に精子を1つ注入する方法です。精液の中に精子がない「無精子症」の場合は、精巣内精子回収法(TESE)により、精巣の中から精子を探し、精子が見つかった場合、顕微授精をすることができます。クラインフェルター症候群の40%程度はTESEで精子が見つかるという報告もあります。

提供精子を用いる場合

第三者が提供した精子を母親となる人の子宮に注入して行う人工授精(AID)があります。この治療は、厚生労働省に登録されているごく一部の限られた施設で行われます。また、この治療を行う前には、将来のことも含めて、夫婦での十分な話し合いを行う必要があります。AIDは、育ての親(父親)と血縁関係がないことを子どもに告知するかどうかや、子どもの「提供者(血縁上の父親)を知る権利」と提供者の「知られたくない権利」が同時に成り立たないなど、課題も多くあります。

家族のかたちは人それぞれです。不妊治療や養子縁組で新しい家族を迎えることも、夫婦2人の生活を大切にすることも、家族のかたちの一つです。

その他、定期的な検査により健康管理が行われます。例えば、内科や内分泌科などで、血液の検査を行い、男性ホルモンの値や血糖値、心臓や腎臓の状態の確認などが行われます。乳腺外科などでは、超音波(エコー)検査などで、乳がんの検査が行われます。男性ホルモン補充療法を行っている場合、泌尿器科などで、超音波検査などにより前立腺の状態の確認が行われます。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でクラインフェルター症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病/長期慢性疾病/小児慢性疾病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

英国のクラインフェルター症候群の患者支援団体で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版

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