レッシュ・ナイハン症候群

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Lesch-Nyhan symdrome
別名 ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損症、HPRT欠損症、ケリー・シーグミラー症候群(部分欠損の場合)
発症頻度 出生男児10万人に1人
子どもに遺伝するか 遺伝する(X連鎖性劣性(潜性)遺伝形式)
発症年齢 乳児期早期から
性別 ほとんど男性
主な症状 精神発達遅滞、高尿酸血症、不随意運動、自傷行為など
原因遺伝子 HPRT1遺伝子
治療 対症療法(高尿酸血症に対する治療など)
もっと見る

どのような病気?

レッシュ・ナイハン症候群は、ほとんどが男性のみに発症する遺伝性疾患です。遺伝子変異により、プリン体の再利用に関わる酵素が欠損し、高尿酸血症、精神発達遅滞、自傷行為、不随意運動、筋硬直、腎結石などの症状が起こります。

プリン体は遺伝情報に関わる核酸(DNA、RNA)を構成する物質で、代謝されると尿酸が作られます。核酸が分解されて生じたプリン体を再利用するための反応(プリンサルベージ経路)に関わる酵素としてヒポキサンチン・グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)があります。HPRTによってプリン体が再利用されることで、細胞には核酸を作るための材料が供給されることになります。レッシュ・ナイハン症候群ではHPRT1遺伝子の変異によって、酵素であるHPRTが欠損し、プリン体の再利用が行われず、また、プリン体およびその代謝産物である尿酸が過剰に蓄積します。

leschnyhan.jpg

レッシュ・ナイハン症候群の症状には、精神発達遅滞、舞踏病アテトーゼ、高尿酸血症、自傷行為などがあります。舞踏病アテトーゼとは、体のさまざまな部位に不随意運動(本人の意思と関係なく体が動くこと)が起きる状態です。症状は生後すぐから発現し、生後2~3か月で腎結石や尿路感染症、乳児期には哺乳異常・発育不良や運動発達遅滞がみられ、1歳以降では不随意運動、2歳以降では自傷行為等が認められます。かみつきや頭を激しく振るヘッドバンギングなどの自傷行為は、この病気に特徴的な症状です。レッシュ・ナイハン症候群では通常、歩行が困難なため介助や車いすが必要となります。また、HPRTの活性が完全に見られない(完全欠損)場合には、症状は特に重篤になります。完全欠損に対し、酵素の活性が少量見られる場合は部分欠損と言います。部分欠損の場合は「ケリー・シーグミラー症候群」と呼ばれる場合もあります。

レッシュ・ナイハン症候群で見られる症状

99~80%で見られる症状

運動異常、行動異常、痛風、片側不全まひ、高尿酸血症、知的障害、筋緊張亢進

79~30%で見られる症状

貧血、血尿、腎不全

割合は示されていないが見られる症状

錐体外路運動機能異常、舞踏病アテトーゼ、構音障害、筋緊張低下、反射亢進、高尿酸尿、巨赤芽球性貧血、運動遅滞、腎結石、強直性発作、足部痛風、自傷行為、低身長、睾丸萎縮、嘔吐

HPRTの欠損とレッシュ・ナイハン症候群の各種の症状との関連性は不明な点が多いのですが、HPRTの欠損は脳の神経伝達物質であるドパミンの低下と関連し、ドパミンの低下が行動異常や精神症状に影響している可能性が考えられています。

レッシュ・ナイハン症候群の発症頻度は出生男児10万人に1人程度です。基本的に男児に発症しますが、まれに女児の発症例があります。

レッシュ・ナイハン症候群は小児慢性特定疾病に指定されています。

何の遺伝子が原因となるの?

レッシュ・ナイハン症候群の原因遺伝子として、X染色体のXq26.2-q26.3という位置に存在するHPRT1遺伝子が見つかっています。HPRT1遺伝子は、プリン体の再利用に関わる酵素であるHPRTの設計図となる遺伝子です。この遺伝子に変異がありHPRTが不足~完全に欠損することで、高レベルの尿酸が体内に蓄積し、レッシュ・ナイハン症候群を発症することがわかっています。

レッシュ・ナイハン症候群は、X連鎖劣性(潜性)遺伝と呼ばれる形式で遺伝します。ヒトは、性染色体と呼ばれる染色体を2本持っています。性染色体にはX染色体とY染色体の2種類があり、XYの組み合わせは男性、XXの組み合わせは女性になります。HPRT1遺伝子は、X染色体に存在する遺伝子です。HPRT1遺伝子に異常がある男性は発症しますが、女性では、2本もつX染色体のうち片方の染色体に存在するHPRT1遺伝子に異常があっても、もう1本が機能を補完するため、発症しません(このように、遺伝子異常をもっていて発病しない状態を「保因者」と言います)。女性が2本のX染色体の両方でHPRT1遺伝子に変異を持つ可能性はまれなため、レッシュ・ナイハン症候群はほとんどが男性で発症します。

男児のX染色体は母親から受け継ぎ、女児のX染色体は両親から1つずつ受け継ぎます。このため、父親がレッシュ・ナイハン症候群の場合、子どもが男性の場合は発病せず、女性の場合は必ず保因者になります。また、この病気の保因者の母親から生まれた男児は2分の1の確率で病気になり、女児は2分の1の確率で保因者になります。

X Linked Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

レッシュ・ナイハン症候群の診断は臨床所見、生化学検査、酵素診断、遺伝子診断によって行われます。

他の原因疾患が特定されていない場合にはまず、【臨床所見】および【生化学的所見】においてレッシュ・ナイハン症候群が疑われる所見があるか確認されます。

【臨床所見】

舞踏病アテトーゼを伴う精神発達遅滞、乳児期からの哺乳異常と発育不良、その後の運動発達遅滞、1歳以降に不随意運動、2歳以降に自傷行為

【生化学的所見】

血清尿酸値の上昇が生後1か月からみられる。尿酸過剰産生のため、尿中尿酸/クレアチン比が上昇する。腎結石がみられることもある。

レッシュ・ナイハン症候群が疑われる所見があった場合、【酵素診断】および【遺伝子診断】が行われます。

【酵素診断】

HPRT活性の低下を確認(典型的なレッシュ・ナイハン症候群ではHPRT活性は1.5%以下)

アデニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)活性の上昇を確認(2~3倍)

【遺伝子診断】

HPRT1遺伝子の変異を検査で確認

遺伝子診断の結果、HPRT1遺伝子の変異が確認されるとレッシュ・ナイハン症候群と診断されます。

どのような治療が行われるの?

今のところ、レッシュ・ナイハン症候群に対して根治的な治療や神経症状の進展を改善する治療法はなく、対症療法が中心となります。

高尿酸血症が続くと、生体内で尿酸が結晶化して痛風発作を起こしたり、腎臓や尿路結石の原因となったりします。このため尿酸血症に対しては十分な水分摂取のほか、薬物療法が行われます。尿が酸性になると体内の尿酸が結晶化しやすくなり、痛風発作や尿酸結石が生じやすくなるため、尿のアルカリ化剤が用いられます。また、尿酸値を低下させるために、尿酸の産生を低下させるキサンチンオキシダーゼ阻害剤が使用されます。尿酸低下療法は、高尿酸血症による合併症の予防に向けて、HPRTの欠損が確認された段階で開始されます。筋硬直、運動遅滞、行動異常に対して、抗痙縮薬、向精神薬、抗てんかん薬などが使用されることがありますが、その有効性は明らかではなく、定まった治療法はありません。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でレッシュ・ナイハン症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

このページ内の画像は、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
こちらのページから遺伝に関する説明図を一括でダウンロードすることも可能です。