MECP2重複症候群

遺伝性疾患プラス編集部

MECP2重複症候群の臨床試験情報
英名 MECP2 duplication syndrome
別名 Xq28トリソミー
日本の患者数 約65人(2021年3月の報告を参照)
海外臨床試験 海外で実施中の試験情報(詳細は、ページ下部 関連記事「臨床試験情報」)
発症頻度 出生男児10万人に1人(海外の報告による)
発症年齢 乳児期以降
性別 ほぼ男性
主な症状 知的障害、感染症を繰り返す、特徴的な顔立ち、など
原因遺伝子領域 MECP2遺伝子を含む、Xq28領域
治療 対症療法
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どのような病気?

MECP2重複症候群は、乳児期早期から症状が現れる遺伝性疾患で、その名の通り、MECP2遺伝子が重複(余分に存在)しています。患者さんはほとんどが男性で、その理由は、この病気の遺伝的な特徴に関連しています。女性の場合、MECP2遺伝子が重複していても、ほとんどの人では症状がありませんが、一部の人で、うつ病、不安、自閉症の症状が見られたという報告があります。また、ごくまれに、男性と同様に、女性でも重度の徴候や症状が見られる場合があるとされています。

主な症状は、乳児期早期からの筋緊張低下、重度の知的障害、運動発達遅滞、進行性の痙性まひ(足で多く起こりやすい)、感染症を繰り返す(特に呼吸器と尿路の感染症)、幼児期以降の難治性てんかん、です。その他、便秘や嘔吐、胃食道逆流などの「消化器症状」、落ちくぼんだ目やテント状の口、大きな耳など「(軽度に)特徴的な顔立ち」も、特徴として挙げられます。

MECP2重複症候群で見られる症状

99~80%でみられる症状

眼瞼裂狭小(目の開きが小さい)、停留精巣、骨格発達の遅れ、内眼角贅皮(ないがんかくぜいひ、目の鼻側が狭い)、外向きの下唇、尿道下裂、早期および重度の精神遅滞、発話障害、眼瞼下垂(がんけんかすい)、重度の全般的発達遅滞、低身長、テント状の口

79%~30%でみられる症状

歩行障害、腹壁ヘルニア、漏斗胸

29%~5%でみられる症状

関節拘縮

割合は示されていないがみられる症状

代謝/恒常性の異常、歯列の異常、発語欠損、過度な不安、運動失調、短頭症、歯ぎしり、不随意運動、便秘、低い鼻梁、うつ病、流涎症、嚥下障害、顔面筋緊張低下、胃食道逆流症、敵意を示す、乳児期の筋緊張低下、知的障害、耳介低位、巨頭症、大きな耳、頬骨が平坦、小頭症、顔面中部後退、小さな口、アイコンタクトに乏しい、進行性の痙性まひ、精神運動障害、再発性呼吸器感染症、筋肉の硬直、てんかん発作

 

繰り返す感染症は、命に関わるため、呼吸管理と栄養管理を受けることが重要になります。また、難治性てんかんと精神運動障害は、日常生活の制限につながります。

2021年3月に論文報告された、MECP2重複症候群の全国調査によると、同調査時点で日本にMECP2重複症候群の患者さんは65人いました。また、同調査において、MECP2重複症候群で最初に通院した患者さんの年齢の中央値は、7か月でした。世界的には、MECP2重複症候群について、200人以上の症例について、報告がなされています。この病気の発症頻度は、まだはっきりしていませんが、海外では、出生10万人対0.65人(出生男児10万人対1人)との報告があります。

MECP2重複症候群は、小児慢性特定疾病の対象疾患(公的な医療費助成の対象)です。

何の遺伝子が原因となるの?

MECP2重複症候群は、体の各細胞にMECP2遺伝子のコピーが余分にある状態によって引き起こされます。MECP2遺伝子は、X染色体の長い(q)アーム上の、Xq28という位置に存在する遺伝子です。そのため、MECP2遺伝子の余分なコピーは、この位置の周辺配列が重複することによって引き起こされます。この領域の重複は、X染色体上で連続的に起きている場合もあれば、常染色体に「挿入」や「転座」という現象が起きて重複しているというパターンも報告されています。重複部分の長さは、10万~数百万塩基対まで、人によってさまざまですが、その中にMECP2遺伝子が含まれている、という状態になっています。重複の長さによっては、その領域に他の遺伝子が含まれ、その遺伝子もまた病気の症状に関与している可能性があります。しかし、MECP2遺伝子以外の遺伝子の余分なコピーが、この病気の重症度に影響しているかどうかも、まだわかっていません。

Mecp2重複症候群

MECP2遺伝子は、メチルCpG結合タンパク質2(Methyl-CpG-binding protein 2、MeCP2)というタンパク質の設計図となる遺伝子です。MeCP2は、「メチル化」と呼ばれる化学修飾を受けているDNAに結合し、他のタンパク質たちと協働して、「クロマチン」と呼ばれる染色体の構造を変化させることにより、その近くにある遺伝子の働きを調節する役割を担っています。このMeCP2というタンパク質は、体全体の細胞に存在しますが、特に脳細胞に豊富に存在し、脳内の遺伝子の働きを調節しています。MECP2遺伝子が重複すると、MeCP2が過剰に作られ、脳内の遺伝子を適切に制御できなくなります。そのため、正常な脳機能が保てなくなり、MECP2重複症候群の症状を引き起こすと考えられています。しかし、発症機序は、まだ完全には解明されていません。

MECP2重複症候群はX連鎖型の遺伝形式で、親から子へ遺伝します。X染色体は、性染色体です。男性はXY、女性はXXという組み合わせで2本の性染色体を持ちます。男性はX染色体を1本しかもたないので、もしもX染色体にMECP2遺伝子領域が重複していたら、その分、多くのMeCP2が作られ、病気の症状を引き起こします。

一方、女性はX染色体を2本持っています。そのうちの片方に、MECP2遺伝子領域の重複があっても、多くの場合は症状が出ません。その理由として、「X染色体不活性化の偏り」が挙げられています。X染色体を2本持つ女性は、通常、発生初期に、各細胞で父由来と母由来のどちらかのX染色体がランダムかつ恒久的に不活性化されます。この現象を、X染色体不活性化と言い、この仕組みにより、X染色体に存在する遺伝子から作られるタンパク質の量が、女性で多くなり過ぎないようになっています。このX染色体不活性化が、MECP2遺伝子重複のある女性では、しばしば「ランダム」ではなく「MECP2遺伝子重複のあるX染色体に偏って」起こり、そのため症状が出ないことがわかっています。ただ、先ほど説明したように、精神症状がみられる女性も少数おり、その人たちの体でも、X染色体不活性化の偏りが起きています。その理由はまだ解明されていませんが、脳の一部の細胞だけ、他の体の部分の細胞と異なるX染色体不活化パターンとなっており、重複のあるX染色体が不活化されないのではないか、と推測している研究者もいます。

MECP2重複症候群はほとんどの場合、重複を持っていて症状がない母親から受け継がれるとされています。まれに、両親はMECP2遺伝子の重複をもっておらず、卵子または精子の形成中、または受精直後に重複が起こり、子どもで新たに発症することもあります(de novo変異による孤発例といいます)。

どのように診断されるの?

MECP2重複症候群には、医師がMECP2重複症候群と診断するための「診断基準」があります。したがって、病院へ行き、必要な問診や検査を受けた後、主治医の先生がそれらの結果を診断基準に照らし合わせ、結果的にMECP2重複症候群かそうでないかの診断をすることになります。

具体的には、下記の「主症状」のうち4項目以上、あるいは「主症状」のうち3項目かつ「副症状」のうち3項目が該当し、鑑別診断で症状が似ている疾患が除外され、遺伝学的検査でMECP2遺伝子のコピー数異常が確認された場合、MECP2重複症候群と確定診断されます。また、遺伝学的検査以外の上記項目が満たされた場合には、MECP2重複症候群の疑いと診断されます。

主症状…重度の知的障害、乳児期からの筋緊張低下、繰り返す感染症(特に、呼吸器感染症および尿路感染症を反復)、幼児期以降の難治性てんかん、消化器症状(重度の便秘、嘔吐、胃食道逆流)、特徴的な顔貌(落ちくぼんだ目、眼間開離、広い鼻梁、小さな口、テント状の口、大きな耳)と身体(細長い指と細長い爪)。

副症状…男児(男性)、アデノイド肥大、手・腕の常同運動、進行性の痙性まひ。

鑑別診断を行う疾患…アンジェルマン症候群、レット症候群、CDKL5欠損症、FOXG1症候群、ATR-X症候群、L1症候群、Lowe症候群、Coffin-Lowry症候群、Allan-Dudley-Herndon症候群、Renpenning症候群、Juberg-Marsidi症候群など。

確定診断のために行われる遺伝学的検査は、定量PCRMLPAアレイCGH、FISHといった複数の検査方法を組み合わせて行われます。鑑別診断が行われる疾患は、共通して、乳幼児期早期から筋緊張低下、精神運動発達遅滞、てんかんが見られる疾患です。その他、参考所見として、血液・生化学的検査で低IgA血症、低IgG2血症が認められることがあります。

どのような治療が行われるの?

今のところ、MECP2重複症候群を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。そのため、現時点ではその人の症状に合わせて対症療法がおこなわれます。

繰り返す感染症…乳児期から繰り返す呼吸器の感染症により呼吸障害が生じた場合には、気管切開術や酸素療法による呼吸管理が行われます。誤嚥性肺炎に対応するために、気管切開術のほか、病状に応じて喉頭気管離断術などの外科的治療も行われる場合があります。繰り返す感染症は、命に関わるため、治療が長期化し入退院を繰り返すことが多くあります。

難治性てんかん…難治性てんかんに対しては、抗てんかん薬や外科的治療が行われます。成人しても薬物療法を中心に継続したてんかん治療が必要です。また、完全にてんかん発作を抑制することは難しい場合が多いとされています。

進行性痙性まひ…進行する痙性まひに対しては、整形外科的選択的痙性コントロール手術が行われる場合があります。

消化器症状…消化器症状のために、胃ろう造設術や噴門形成術、などの外科的手術が行われる場合もあります。

その他、運動障害により移動に制約が生じるため、長期にわたり介護が必要とされます。また、便秘等の消化器症状に加えて、経口摂取が困難になった場合、非経口摂取のための処置と看護が必要となります。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でMECP2重複症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

MECP2重複症候群の患者会・支援団体で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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