どのような病気?
多発性骨端異形成症(たはつせいこったんいけいせいしょう)は、腕や足の長い骨の先端にある「骨端(こったん)」と呼ばれる部位の異常によって関節や骨などを中心にさまざまな症状が見られる疾患です。
この病気は、原因となる遺伝子によって常染色体優性(顕性)遺伝形式型と常染色体劣性(潜性)遺伝形式型の2つのタイプ(病型)に分かれます。2つの病型に共通した症状として、運動後の腰や膝の痛み(関節痛)、関節炎、横に揺れながら歩くようなよちよち歩きなどが見られます。大部分の人は正常範囲の身長ですが、成人期においてやや低身長となる人がいます。この病気を持つ多くの人は小児期までに発見/診断されますが、軽症の場合には成人するまでに診断に至らないこともあります。
常染色体優性(顕性)遺伝形式型の多発性骨端異形成症では、幼児期以降において、長い距離を歩いた際の疲労や、体幹(胴体部分)に比べて比較的短い手足などの特徴が見られます。肘の関節の動きは制限されることが多い一方、膝や指の関節は可動性の亢進(動きすぎる)が起こる場合があります。成人期の身長は正常かわずかに低くなります。この病型では、成長に従って関節痛の強さや関節の変形が進行します。成人期には、特に体重が大きくかかるような関節において、早期発症の変形性関節症が見られることがあります。一部の人では、成人初期に手術が必要になるほど変形性関節症が重症化することもあります。
常染色体劣性(潜性)遺伝形式型の多発性骨端異形成症では、手・足・膝の形態異常のほか、脊柱側弯症(背骨が異常に湾曲する)などが起こることが特徴の一つとなります。生まれた時に、およそ半数の人が、内反足(足が内向きや上向きに曲がる)、口蓋裂、斜指(手や足の指の湾曲)、まれに耳の腫れなどの特徴のどれか一つ以上が発見されます。X線の検査で二重の膝蓋骨(膝の前に付いているお皿のような骨)が発見されることや、思春期後に、短指症が明らかになることもあります。体型に関しては、一部の外反膝を除いては目立ったものではないとされます。身長は、思春期以前は多くの人が正常範囲ですが、成人期に低下し、およそ3分の1の人で同年齢の平均より2SD(標準偏差の2倍)以上低い低身長となる場合があります。
この病型の関節痛の発症時期は、小児期後期の場合が多く、発症部位の多くは腰(股関節)や膝ですが、手首や指にも発生することがあります。若年期には複数の関節に症状があり、運動後に関節痛が悪化することが多いとされます。通常は関節の手術が必要になることはありません。
多発性骨端異形成症全体の発症頻度や患者さんの正確な数はわかっていません。常染色体優性(顕性)遺伝形式型の多発性骨端異形成の発生率は、少なくとも出生1万人に1人だと推定されていますが、劣性(潜性)遺伝形式型の多発性骨端異形成症の発症頻度は不明です。
何の遺伝子が原因となるの?
多発性骨端異形成症は、軟骨や骨の形成に重要な役割を果たす遺伝子に変異が起こることにより発症します。軟骨は、胎児期には骨格の大部分を構成し、成長後も鼻や耳の骨格、骨の端を覆うことで骨を保護します。また、軟骨が石灰化することで骨が作られるため、骨の形成においても重要です。
この病気は、病型によって原因となる遺伝子が異なります。
「常染色体優性(顕性)遺伝形式」型の多発性骨端異形成症では、COMP遺伝子、MATN3遺伝子、COL9A1遺伝子、COL9A2遺伝子、COL9A3遺伝子などが原因遺伝子として知られており、「常染色体劣性(潜性)遺伝形式」型の多発性骨端異形成症は、SLC26A2遺伝子、CANT1遺伝子の変異によって引き起こされることが知られています(下表参照)。
常染色体優性(顕性)遺伝形式型では、COMP遺伝子が原因となる場合が最も多く、半数以上の人がこの遺伝子に変異を持っているとされます。MATN3遺伝子の変異を原因とする人は、およそ1割から2割程度、COL9A1遺伝子、COL9A2遺伝子、COL9A3遺伝子の変異は合わせて1割未満の原因とされています。残りの1割から2割の人では原因となる遺伝子はわかっていません。
COMP遺伝子やMATN3遺伝子は、軟骨を形成する細胞である軟骨細胞の周囲にある「軟骨細胞外マトリックス」と呼ばれる場所で、骨や軟骨の形成に重要な役割を果たすタンパク質の設計図として働きます。COL9A1、COL9A2、COL9A3遺伝子は、IX型コラーゲンと呼ばれるタンパク質の設計図となります。コラーゲンは、皮膚、骨、軟骨、腱、靭帯などの結合組織と呼ばれる組織に含まれ、それらを強くする役割を持っています。特に、IX型コラーゲンは軟骨の重要な構成要素となります。
常染色体劣性(潜性)遺伝形式型の多発性骨端異形成症は、ほとんどの場合SLC26A2遺伝子の変異によって引き起こされます。この遺伝子は、溶質キャリアファミリー26メンバー2と呼ばれ硫酸イオンの輸送に関わるタンパク質の設計図となります。軟骨の組織ではプロテオグリカンと呼ばれる分子がゲル状の組織を形成しますが、このプロテオグリカンを形成するために硫酸イオンが必要となります。そのため軟骨の正常な発達には、SLC26A2遺伝子が作るタンパク質が不可欠となります。また、CANT1遺伝子は非常にまれな原因遺伝子として報告されています。
これらの遺伝子の変異が、軟骨の構造を変化させ、骨の適切な形成を妨げ、この病気に特徴的な骨格の問題を引き起こすと考えられています。しかし、それぞれの遺伝子の変異がどのようにこの病気の症状を引き起こすのかについての詳細なメカニズムはわかっていません。
多発性骨端異形成症の原因遺伝子
原因遺伝子 | 染色体の領域 | 作られるタンパク質 | 遺伝形式 |
---|---|---|---|
COMP | 19p13.11 | 軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質 | 常染色体優性(顕性)遺伝 |
MATN3 | 2p24.1 | マトリリン3 | 常染色体優性(顕性)遺伝 |
COL9A1 | 6q13 | 9型コラーゲンα1 | 常染色体優性(顕性)遺伝 |
COL9A2 | 1p34.2 | 9型コラーゲンα2 | 常染色体優性(顕性)遺伝 |
COL9A3 | 20q13.33 | 9型コラーゲンα3 | 常染色体優性(顕性)遺伝 |
SLC26A2 | 5q32 | 溶質キャリアファミリー26メンバー2 | 常染色体劣性(潜性)遺伝 |
CANT1 | 17q25.3 | カルシウム活性型ヌクレオチダーゼ1 | 常染色体劣性(潜性)遺伝 |
多発性骨端異形成症の遺伝形式は、原因遺伝子によって異なり、常染色体優性(顕性)遺伝形式、もしくは常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。
どのように診断されるの?
多発性骨端異形成症の診断について、日本ではまだ確立した診断基準が設けられていません。米国のワシントン大学を中心としたスタッフが運営している遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」では、多発性骨端異形成症[優性(顕性)遺伝形式、SLC26A2関連劣性(潜性)遺伝形式]の診断について以下のように記載されています。
常染色体優性(顕性)遺伝形式型の多発性骨端異形成症の診断は、示唆するような臨床所見として、
1)関節痛(腰や膝)や疲労感(運動後に発生することが多く、症状は幼児期から始まることが多い)
2)成人期の身長が正常範囲の中で低いか軽度の低身長
3)ひじなどの主要な関節の可動範囲が制限される
4)若年性変形性関節症(生後20~30年で関節置換が必要になることが多い)
があること、またX線検査で長骨(手や足の長い骨)の骨端に異常が見られること、遺伝学的検査でCOMP遺伝子、MATN3遺伝子、COL9A1遺伝子、COL9A2遺伝子、COL9A3遺伝子などに変異が認められることなどから診断されます。
SLC26A2遺伝子に関連した常染色体劣性(潜性)遺伝形式の多発性骨端異形成症の診断は、臨床所見として、
1)腰や膝の関節痛(痛みの発症や程度はさまざまで、通常は小児期後期に起こる)
2)手、足、膝の変形
3)脊柱側弯症
などが見られ、X線検査で初期の関節炎を伴う平らな骨端や軽度の短指症、二重の膝蓋骨(成人では消失する可能性がある)などが認められること、また、遺伝学的検査でSLC26A2遺伝子に変異が認められることなどから診断されます。
どのような治療が行われるの?
多発性骨端異形成症の治療は、症状に応じた対症療法が中心となります。
関節痛などの痛みには、鎮痛薬、抗炎症薬、理学療法などが用いられますが、痛みを抑えるのが難しい場合もあります。関節へ負担をかけないようにするために、関節に大きな負荷がかかるスポーツをしないことや、肥満にならないように注意することなども重要となります。関節などの症状に対して手術が行われることもあります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で多発性骨端異形成症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。