神経線維腫症II型

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Neurofibromatosis type 2
別名 NF2、両側性聴神経線維腫症、BANF、中枢神経線維腫症
発症頻度 3万3,000〜6万人に1人と推定されている
子どもに遺伝するか 遺伝する(常染色体優性遺伝)が、半数以上は孤発例
発症年齢 さまざまだが多くは10~20歳代
性別 男女とも
主な症状 聴神経鞘腫による難聴、めまい、ふらつき、耳鳴りなど
原因遺伝子 NF2遺伝子
治療 対症療法(国内でベバシズマブ、VEGFRワクチンの臨床試験を準備/実施中)
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どのような病気?

神経線維腫症II型(NF2)は、左右両側に聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が発生することを特徴とする、遺伝性疾患です。聴神経腫瘍とは、脳神経のうち「聴神経」から発生する良性の腫瘍です。聴神経には聴覚を伝える「蝸牛神経」と平衡感覚を伝える「前庭神経」があり、前庭神経鞘腫は前庭神経の周囲を鞘のように覆っている細胞(シュワン細胞)から発生します。

NF2では、前庭神経鞘腫以外にも、各種の中枢神経腫瘍が多数生じます。最も多い腫瘍は脳神経、脊髄神経、末梢神経の「神経鞘腫」で、聴神経鞘腫はほとんどの人に、脊髄神経鞘腫も多くの人に見られます。顔の感覚を伝える三叉神経から発生する三叉神経鞘腫もしばしば伴います。また、脳や脊髄を取り囲む髄膜から発生する良性腫瘍である髄膜腫は約半数の人に見られ、しばしば頭蓋内や脊椎管内に多発します。脊髄内神経膠腫も伴うことがあります。また、皮下や皮内の神経鞘腫も合併することがあります。

最も多い症状は、ほとんどの人に見られる聴神経鞘腫による症状です。具体的には、難聴、めまい、ふらつき、耳鳴りなどです。次に多いのは脊髄神経鞘腫の症状で、これは、手足のしびれ、知覚低下、脱力などです。三叉神経鞘腫の症状は、顔面のしびれや知覚低下などです。その他、けいれんや半身まひ、頭痛を伴うことや、若年性白内障による視力障害を伴うこともあります。白内障は、小児期から起こることもあり、片目の場合も、両目の場合もあります。

神経線維腫症II型の主な症状(Asthagiri AR et al. Lancet. 2009; 373(9679) :1974-86.を参照に作成)

治療を受けずに両側聴神経鞘腫を放置していると、難聴の他に歩行障害や手足のまひが進行し、命に関わります。また、脊髄神経鞘腫を放置すると、腫瘍ができた場所によって、両足のまひや、手足のまひが進行します。

腫瘍は、ゆっくり大きくなる場合と比較的速く大きくなる場合があります。したがって、腫瘍があっても何年も無症状の人もいれば、急速に難聴、めまい、ふらつき、手足のしびれ、脱力などの神経症状が進行する人もいます。

人種や男女でNF2の発症しやすさに差はありません。発症年齢は10歳以下から40歳以上まで、まちまちですが、多くは10~20歳代で発症します。この病気は3万3,000〜6万人に1人の頻度で発症すると推定されています。また、2009年〜2013年に、日本で特定疾患に関する臨床調査個人票を提出・登録した人は、約800人でした。

NF2は、国の指定難病対象疾病になっています(指定難病34)。なお、神経線維腫症I型という、名前のよく似た病気が同じ指定難病34にあるのですが、これは、NF2とは原因や症状が異なる別の病気です。

何の遺伝子が原因となるの?

NF2の原因遺伝子は、22番染色体の22q12.2という位置に存在する「NF2遺伝子」であるとわかっています。この遺伝子は「マーリン(Merlin)」というタンパク質の設計図となる遺伝子です。

マーリンは、細胞の形、細胞の成長、細胞同士の接着などを制御する細胞内の情報伝達に関わる重要なタンパク質です。腫瘍抑制因子としての機能を持ち、細胞が急速に成長したり分裂したりするのを防いでいます。ヒトが2本セットでもつNF2遺伝子のうちの1本に変異を持って生まれると、やがて神経のシュワン細胞やその他の細胞で、生まれたときには正常だったもう1本のNF2遺伝子にも変異が入り(体細胞突然変異といわれます)、2本ともNF2遺伝子が変異した細胞で正常なマーリンが作られなくなると、NF2に特徴的な腫瘍が発生すると考えられています。

NF2は常染色体優性遺伝形式で、親から子へ遺伝します。変異したNF2遺伝子を持っていた場合、ほぼ100%が生涯のうちにNF2を発症するため(浸透率100%といいます)、両親のどちらかがこの病気だった場合、子どもが病気を発症する確率は50%となります。一方で、患者さんの半数以上は、親から遺伝するのではなく、子どもに新たな変異が起こり発症しています(このような発症パターンは、孤発例といいます)。この場合、両親のNF2遺伝子に変異はないため、NF2患者さんのきょうだいには、NF2は遺伝していません。また、孤発例の30%程度は、変異をもつ細胞と正常な細胞が混在している「モザイク型」だとわかっています。

常染色体優性遺伝

どのように診断されるの?

NF2には、医師がNF2と診断するための「診断基準」があります。したがって、病院へ行き、必要な問診や検査を受けた後、主治医の先生がそれらの結果を診断基準に照らし合わせ、結果的にNF2かそうでないかの診断をすることになります。

MRIあるいはCTで両側に聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が見つかれば、NF2と確定診断されます。また、親、子ども、きょうだいの誰かがNF2で、本人に「片側性の聴神経腫瘍」、または「神経鞘腫、髄膜腫、神経膠腫、若年性白内障のうちいずれか2種類」が存在する場合にも、診断が確定します。

家族歴がない場合も、「片側性聴神経腫瘍」「多発性髄膜腫」「神経鞘腫、神経膠腫、若年性白内障のうちいずれか1種類」、のうち2つが見られる場合にはNF2の可能性があります。

患者さんは、毎年1~2回の定期検査を受けます。特に頭部造影MRI(各脳神経鞘腫、髄膜腫、脳室内髄膜腫、眼窩内腫瘍などを調べる検査)と聴力検査(純音聴力検査、語音聴力検査、聴性脳幹反応検査)は重要で、そのほかにも、神経学的検査、脊髄MRI、眼科的検査(白内障検査、視力検査)などを受けます。

遺伝性の病気なので、患者さんの家族も検査を受けることが推奨されます。比較的若年で発症する家系と比較的晩年に発症する家系があることがわかっています。そのため、ご自身の家系の発症年齢時期がわかっていれば、その時期に専門病院で検査を受けましょう。発症年齢時期を大幅に過ぎても異常が起こらなければ、遺伝した可能性は低いと考えられます。

どのような治療が行われるの?

今のところNF2を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。しかし、海外では、日本でがんの治療に使われている「ベバシズマブ」という薬を点滴すると、約半数で腫瘍の縮小や、有効聴力が残っているときには聴力の改善が認められたという報告がなされています。日本でも、2019年から、NF2患者さんを対象に、ベバシズマブの有効性および安全性を検討する第II相臨床試験が始まり、2021年までを予定試験期間としています。

ベバシズマブは、「血管内皮増殖因子(VEGF)」というタンパク質を抑える薬なのですが、NF2の神経鞘腫は、細胞の表面でVEGFを受け止める働きをする「血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)」というタンパク質をたくさん発現しています。慶應義塾大学を中心とした研究グループはこれに着目し、ベバシズマブと違った角度からのNF2治療法として、VEGFRワクチンを開発し、2019年に論文報告をしました。VEGFRワクチンを注射すると、VEGFRを発現している細胞を攻撃する免疫細胞(細胞傷害性T細胞)が体内で増え、腫瘍を攻撃して小さくするという原理です。現在、国内で、このワクチンの探索的臨床試験が実施されています。

この病気に伴う腫瘍はほとんどが良性腫瘍ですが、症状の原因となっている腫瘍や、明らかに大きくなってきており症状を引き起こす可能性の高い腫瘍には、腫瘍を摘出する手術やガンマナイフ治療(定位放射線治療)などが行われます。腫瘍が多発するため、こうした治療は繰り返し必要になります。

聴神経鞘腫は、摘出せずに経過を見ると、多くの場合、いずれ聴力がなくなり、腫瘍が大きくなると命の危険があります。一方、手術して腫瘍を摘出した場合でも、多くの場合で聴力がなくなり、術後顔面神経麻痺などの後遺症が起こる可能性もあります。腫瘍が小さいうちに手術をすれば、後遺症の可能性は低く聴力が温存できる可能性もありますが、無症状の聴神経鞘腫を手術すべきかどうかは、医師が経過をよく見て慎重に治療方針を決めます。ガンマナイフ治療も小さな腫瘍には有効で、多くの場合腫瘍の成長を抑えることができますが、聴力の温存率は高くありません。専門医と相談して適切な治療を続けることが、症状の進行を防ぐことにつながります。

難聴に対する治療としては、補聴器、人工内耳、聴性脳幹インプラント、言語聴覚士の紹介を受けて手話や読唇術などの指導を受ける、といったことが行われます。手話は、聴覚を失う前の方がより効果的に習得できます。また、読唇術は訓練によって上達できます。

どこで検査や治療が受けられるの?

患者会について

NF2の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

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参考サイト