神経線維腫症II型のご家族から見た診断・治療、情報収集の大切さ

遺伝性疾患プラス編集部

佐藤さん(仮名)(男性/50歳/神経線維腫症II型(NF2)のご家族)

佐藤さん(仮名)(男性/50歳/神経線維腫症II型(NF2)のご家族)

18歳のお子さんがNF2と診断を受けた。

奥様も同じNF2の当事者だったため、ご家族の立場から、ともに病気と向き合ってきた経験を持つ。

神経線維腫症II型(以下、NF2)は、左右両側に聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)という良性腫瘍が生じることを特徴とする遺伝性疾患です。国の指定難病対象疾病です。特に多い症状は、難聴、めまい、ふらつき、耳鳴りなどです。その他、NF2では、前庭神経鞘腫以外にも、各種の中枢神経腫瘍が多数生じます。例えば、脊髄神経に腫瘍が生じると手足のしびれ、知覚低下、脱力などの症状が現れます。摘出する必要がある腫瘍が生じた場合は、手術やガンマナイフ治療(定位放射線治療)などが行われます。NF2では腫瘍が多発するため、こうした治療が繰り返し必要となります。なお、NF2は常染色体優性(顕性)遺伝という遺伝形式をとります。

今回お話をうかがった佐藤さん(仮名)は、NF2の当事者のご家族です。18歳(高校3年生)のお子さんが、2024年にNF2と診断を受けました。また、亡くなられた奥様もNF2を持っておられたという状況です。今回、お子さんにNF2の症状が現れ、改めて病気に関わる情報を探したという佐藤さん(仮名)。今回は、お子さんの診断までの経緯や現在の思いについて詳しくお話を伺いました。

お子さんとは「NF2の症状」を日頃から確認、早期診断へ

NF2の診断を受けた経緯について、教えてください。

子どもに主な症状が現れたのは、2024年の2月頃です。右耳で耳鳴りがあり、耳が詰まった感じがすると訴えており、以前と比べて「聞き取りづらさ」もあるとのことでした。亡くなった妻も同じNF2の当事者だったため、私自身、病気に関してはある程度の知識を持っていました。そのため、子どもに症状が現れてすぐに、耳鼻科を受診しました。

最初に受診した病院では、子どもの聴力が低下していたことがわかり、「突発性難聴」と診断を受けました。そのため、妻がNF2の当事者だったことを医師へお伝えし、MRI検査をお願いしました。検査の結果、「両側の聴神経の腫れ(腫瘍)を認める」と説明を受けました。その後、造影剤を用いたMRI検査を受け、NF2の確定診断を受けたという経緯です。今のところ症状は軽い段階であることに加え、高校卒業も近いため、学校側へは病気の詳細を伝えていません。

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高校生のお子さんがNF2と診断(写真はイメージ)
お子さんが診断を受けた時、どのようなお気持ちでしたか?

診断を受ける前、症状が出た時から相当なショックを受けていました。NF2が遺伝性の疾患とは理解しつつ、それでも「子どもには、何も症状が出ないでほしい」と毎日祈るような思いで育ててきたからです。また、亡くなった妻の時と同じようなつらさや苦しみを繰り返すのかと思うと、絶望しかなかったです。

お子さんの症状が現れる前から、ご家族ではNF2についてお話しされていましたか?

はい。子どもには、母親の病気がNF2というものであること、病気に関わる遺伝子が引き継がれる可能性があることなど、大まかに伝えていました。加えて、普段から子どもに「聞き取りにくさ」「ふらつき」「皮膚にこぶ状のもの(腫瘍)」がないか?を注意して見るようにしていました。子どもにも、こういったNF2を疑うような症状が認められたら、すぐ私に言うようにお願いしていました。

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普段からお子さんと症状を確認していた(写真はイメージ)

実は、子どもが中学2年生の頃、右腕の脱力を訴えたことがありました。NF2による神経症状なのではないかと思い受診し、MRI検査をお願いしました。しかし、その時は腫瘍が確認されず、終わっています。

開発中の治療も知りたい、ニュース記事を使って医師とコミュニケーションも

診断前にNF2の情報を探す中で、「知りたかったけど、見つけられなかった情報」はありましたか?もしあれば、詳細について教えてください。

当事者・ご家族のコミュニティを探すことには苦労しています。患者団体の活動へは参加したことがありません。妻がNF2と診断を受けた時にコミュニティを探していたのですが、なかなか見つかりませんでした。患者数が少ないからかな、と感じています。その当時は、mixiというSNSで当事者向けの会があり、参加した経験はあります。ただ、妻が亡くなった後はmixiをあまり利用しておらず、会にも参加していません。今後、もし当事者・ご家族とつながることができたら、NF2に関わる情報を共有できればうれしいです。

NF2の情報を探す中で、遺伝性疾患プラスを知ったと伺いました。どのような情報を参考にされましたか?

子どもに病気を疑うような症状が現れてから、改めて情報を探すようになり、遺伝性疾患プラスのニュース「神経線維腫症II型への免疫療法、臨床試験で腫瘍の増大を制御」を見つけました。この遺伝性疾患プラスの記事を使って、医師に直接「治験の内容は、現状、有効性が高そうですか?」「今後の見通しはどうですか?」など、質問してみました。医師からは改めて、「承認前の治験段階の治療です。そのため、有効性などの詳細はまだ明らかになっていません」と説明を受けました。そして、治療手段としてはまだ現実的ではなく、現時点で治療の選択肢とはならないというお話でした。NF2の当事者だった妻が幾度となく手術治療を受けていた姿を見てきたため、体への負担が少ない治療が開発されることを期待しています。その一つとして、引き続き、免疫療法の開発の進捗は知りたいと考えています。

亡くなった妻がNF2の当事者だったため、私は以前から個人的にNF2の情報は調べていました。そのため、一般の方と比べて病気の知識はあるほうだと感じています。それでも、遺伝性疾患プラスの記事を用いて医師に質問したことで、コミュニケーションはよりスムーズだったのではないかと感じています。

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遺伝性疾患プラスの記事を用いて、医師に質問も(写真はイメージ)

手術治療を繰り返し受けていた奥様「代われるものなら、代わりたい」と思った

現在のお子さんへの治療については、どのような説明を受けていますか?

とても早期の段階での診断だったと聞いており、主治医の先生からは「今は手術をする段階ではない」と言われています。摘出する必要がある腫瘍の場合は、今後、ガンマナイフ治療(定位放射線治療)などを行うと聞いています。来年4月に受ける予定の検査までは、様子を見るとのことでした。

奥様が治療を受けていた頃の状況について、教えてください。

妻の場合、腫瘍の再発速度が極めて速い状況だったそうです。体力低下と聴力喪失などが次々と起こり、本人も家族も苦労の連続でした。介護する側の私から見ていても、妻の出来ることが日に日に減っていく姿を見ているのは相当こたえました。また、手術治療が続く状況は、きっと本人にとって精神的にも肉体的にもつらかっただろうと思います。それは、立ち会う家族にとっても、大変な状況だったと振り返ります。

繰り返しになりますが、身内が幾度となく手術治療を受けている姿をそばで見ていることは本当につらかったです。「自分が代われるものなら、代わりたい」とさえ思っていました。今後、もし薬による治療を受けられるようになれば、救われる当事者やご家族は多いのではないでしょうか。そして、その先に、NF2を根治できる治療法が開発されることを望んでいます。

患者さんへの負担軽減、新しい治療開発に期待したい

遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

今、私の周りには我が子以外に同じ疾患の方はいません。希少性の高い病気とはいえ、きっと同じようにNF2と向き合い、苦しんでいる当事者やご家族が多くいらっしゃるのではないかと思います。

私の妻の時は、命をつなぐためには手術しか治療法がなく、つらい思いをしていました。ただ、遺伝性疾患プラスの情報をきっかけに、現在は新しい治療法の開発が進んでいることを知り、希望が見えてきたと感じています。医療従事者や研究開発に携わっている方々のご尽力には、深く感謝しています。1日でも早く、患者さんへの負担が軽減される新しい治療方法が承認されことを心より願っています。


お子さんにNF2を疑う症状が現れた時、「絶望しかなかった」とお話してくださった、佐藤さん(仮名)。その背景には、亡くなった奥様とともにNF2と向き合ったご経験がありました。そのため、繰り返すNF2の腫瘍に対して、少しでも当事者への負担が軽減される新しい治療の開発を願っておられます。また、さまざまな情報を調べる中で、遺伝性疾患プラスの記事をご覧いただき、医師とのコミュニケーションでも使っていただいたとのこと。遺伝性疾患プラスでは今後も、当事者やご家族が医療従事者とお話しする際にもご活用いただけるよう、わかりやすく正しい情報をお届けしていきます。

最後に、もし病気によってつらい思いや不安な気持ちを抱えている方がいらっしゃったら、認定遺伝カウンセラー(R)などに相談できる「遺伝カウンセリング」という選択肢があることを知ってみてください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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