神経線維腫症II型への免疫療法、臨床試験で腫瘍の増大を制御

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 開発中の「VEGFRペプチドワクチン」、標的細胞破壊+長期治療効果に期待
  2. 進行性神経鞘腫があるNF2患者さん対象、VEGFRペプチドワクチンの第1/2相臨床試験
  3. 多くの患者さんで腫瘍増大を制御、安全性も確認

NF2神経鞘腫、制御が難しい一方で良性→悪性腫瘍のリスクも

慶應義塾大学は6月12日、神経線維腫症II型(NF2)の神経鞘腫に対する世界初の免疫療法ペプチドワクチンの第1/2相臨床試験の結果、安全性、有効性について有望な感触を得たと発表しました。

NF2は、左右両側に前庭神経鞘腫という腫瘍が生じることを特徴とする遺伝性疾患。国の指定難病対象疾病です。NF2では、前庭神経鞘腫以外にも、各種の中枢神経腫瘍が多数生じます(以下、多発腫瘍)。神経鞘腫への治療手術では神経を損傷する可能性が高いとされ、多発腫瘍に対して積極的に手術を行うことはできません。なお、放射線治療は一定の成績を示していますが、大きな腫瘍には適応されていません。このように多発腫瘍は制御することが難しい一方で、良性腫瘍から悪性腫瘍となるリスクが報告されています。そのため、多発腫瘍に対する新たな治療法の開発が求められています。

VEGFRを標的とするペプチドワクチンを開発

近年、NF2の神経鞘腫は血管新生因子「VEGF-A」を高発現しており、分子標的薬ベバシズマブの有効性が示されました。NF2の神経鞘腫では、血管内皮細胞だけでなく、腫瘍細胞に血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)が高発現しています。このことから研究グループは、VEGFRを標的とするペプチドワクチン(以下、VEGFRペプチドワクチン)の開発を進めています。

VEGFRペプチドワクチンによって誘導された細胞傷害性T細胞は、VEGFRを発現している標的細胞を破壊します。また、体内では細胞傷害性T細胞が持続するため、長期の治療効果が期待されています。

患者さん16人、VEGFR特異的な細胞傷害性T細胞の誘導と腫瘍増大の制御を確認

研究グループは、進行性神経鞘腫があるNF2患者さんを対象に、VEGFRペプチドワクチンの第1/2相臨床試験を実施しました。試験の結果、ペプチドワクチンの投与が終了したNF2患者さん16人で、VEGFR特異的な細胞傷害性T細胞が良好に誘導され、多くの患者さんで腫瘍増大が制御されました。なお、同ワクチンに関連する重篤な合併症はありませんでした。

今後の医師主導治験、HLA-A*2402型の患者さん対象予定

研究グループは今後、プラセボ群を対照とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験を行う予定です。VEGFRペプチドワクチンは、特定のヒト白血球抗原(HLA)の型に対して効力を発揮します。医師主導治験では、まずHLA-A*2402型の患者さんを対象とする予定だとしています。

NF2は希少疾患でもあり、治療薬開発に焦点が当てられる機会は多くありません。研究グループは、NF2患者さんに、一刻も早く新しい治療薬を届けられるよう、今後も一層尽力していく、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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