「認定遺伝カウンセラー」とは?認定制度から患者さんサポートの現場まで

遺伝性疾患プラス編集部

遺伝子検査やゲノム医療という言葉を、病院のみならず、インターネットやテレビなどでも、日常的に見かけるようになりました。大きな病院では、遺伝診療部という遺伝専門の診療部も設置されるようになり、「遺伝」は医療の中で、もはや考えるのが当たり前になりつつあると感じます。一方で、もしも自分が遺伝的な疾患を持っているとわかったら…そう考えると、生まれてくる子どものことなど、さまざまな不安が浮かんできます。このような不安の相談に乗ってくれたり、さまざまなサポートをしてくれたりするのが、「認定遺伝カウンセラー」です。ここでは、認定遺伝カウンセラーで看護師の資格も持つ、聖路加国際大学遺伝診療部/遺伝看護学の青木美紀子先生に、認定遺伝カウンセラーの制度やお仕事の内容などについて、いろいろお伺いしました。

聖路加国際大学遺伝診療部青木美紀子先生

 

認定遺伝カウンセラーとは、どのような資格なのでしょうか?

認定遺伝カウンセラー®(2019年1月付で商標登録)は、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定する資格で、2005年に制度が開始されました。認定遺伝カウンセラーには規則(認定遺伝カウンセラー制度規則)があり、その中で「質の高い臨床遺伝医療を提供するために臨床遺伝専門医と連携し、遺伝に関する問題に悩むクライエントを援助するとともに、その権利を守る専門家」と記載されています。実際に、認定遺伝カウンセラーの資格を持って活動している人たちは、まさに、この文字通りの活動を心がけているのだと思います。

”クライエント”というのは、あまり馴染みのない言葉だと思いますが、遺伝カウンセリングの来談者、つまり、患者さんとそのご家族のことです。ここでの家族とは、「もしかしたら遺伝性疾患の当事者になるかもしれない家族」、つまり、血縁者も含みます。クライエントには、すでに病気になっている人だけではなく、「今は病気を発症していないけれど発症する可能性がある人」や、「自分は発症していないけれど子どもに病気の体質を受け継ぐ可能性がある人」なども含まれます。

認定遺伝カウンセラーになるために、持っていなくてはいけない資格はありますか?

看護師や臨床検査技師など、特定の「資格」は必須ではありませんが、「大学院の修士課程に設置された遺伝カウンセラー養成専門課程を修了し、認定試験に合格する必要」があります。養成専門課程が設置されている大学院は、今のところ20校くらいで、やや東京に集中していますが、全国にあります。もっと詳しく知りたい方は、認定遺伝カウンセラー制度委員会のホームページに掲載されているので、そちらをご覧ください。

認定遺伝カウンセラー制度委員会のホームページでは「基盤として考えられる職種」として、看護師、助産師、薬剤師などのメディカルスタッフに加え、生物学などの遺伝医学研究者、人文・社会福祉系などの専門職を挙げています。しかし、実際に活動しているカウンセラーを見ても、看護師の資格を持つ人、医療とは別の仕事をしていた人、大学は文系だったけれど大学院で遺伝カウンセリングを学んだ人など、本当にさまざまです。

制度が始まったばかりの頃は、遺伝カウンセラー養成課程を修了する以外に、「経過措置」というものがありました。これは、専門課程修了者と同じくらいの経験と実力があると見なされた場合に受験資格を得ることができるというものです。私は、認定遺伝カウンセラー制度が開始された3年後の2008年に、経過措置の対象として受験し、認定されました。経過措置は、平成22年度の受験申請を最後として、終了しました。

受験対象者が幅広いということですが、カウンセラーの年齢層も幅広いのでしょうか?

そうですね。制度が始まった当初は、社会人経験のある方が次のキャリアとして認定遺伝カウンセラーという職種を選択しているような印象でしたが、今は、大学卒業後にすぐに大学院の遺伝カウンセラー養成課程に入学している方もいます。現在、認定遺伝カウンセラーとして活動している方は、ある程度年齢を重ねた方や他の職種での社会人経験のある方もいれば、20代の方もおり、幅広い年齢層だと思います。

「臨床遺伝専門医」という医師の資格は、どのような資格なのでしょうか?

臨床遺伝専門医も、認定遺伝カウンセラーと同じく、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が設けている制度です。この臨床遺伝専門医は、単独で持つものではなく、日本専門医機構が定める基本領域(小児科、産婦人科など)の学会の専門医(認定医)、または、専門医制度委員会が認める専門医(認定医)の資格を持つ医師が、一定期間の研修や学術活動など、定められている要件を満たすと、受験資格が認められるというものです。つまり、臨床遺伝専門医のみを持っている人はおらず、産婦人科や小児科など、いろいろな専門医資格を持つ人が、さらに臨床遺伝専門医資格を取得して活動しています。

臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーはどのように連携しているのでしょうか?

臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーの連携に限らず、また、遺伝医療の領域に限らず、医療は多職種が協働して展開するものです。ですので、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーに特別な連携があるというよりは、つねに行われているチーム医療の中の一部としての連携、という位置づけです。

遺伝性疾患をもつ人やその家族は、診断後、いつもいつも遺伝のことだけを考えて生活しているわけではないと思います。ですが、生活していく中で「遺伝的な体質」をもつということがその人にもたらす意味は変化することがあります。進学や就職、結婚とか、妊娠・出産などライフイベントをきっかけに変化することもあれば、ふとした瞬間に気になってくることもあるでしょう。改めて考えたいテーマや気になること、不安なこと、確認したいことが出てきたときに、それをしっかりキャッチして、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーだけでなく、他の医療者たちも交えて、チームとして連携しながら、その人の課題に対して一丸となって対応していきます。これがチーム医療です。チーム医療により、各専門職のケアが統合されることで、クライエントや家族の生活に対し、より豊かな支援を行うことができるのです。

「チーム医療としてさまざまな職種が協働して支援していきます」(青木先生)
認定遺伝カウンセラーは、遺伝性疾患を診療している病院に必ず配置されているのでしょうか?

遺伝性疾患という言葉は、単一遺伝子疾患・多因子遺伝疾患・染色体異常など、幅広い疾患や体質を含みます。特定の医療機関のみに遺伝性疾患の方がいるわけではなく、どこの病院にも遺伝性疾患をもつ方、その可能性がある方はいらっしゃいます。しかし、認定遺伝カウンセラーは2020年2月現在、全国で267人しかいません。日本全国の医療機関に必ず配置されているとは言えません。

では、遺伝子医療部門が設置されているような医療機関ならば必ず設置されているのかというと、これも、必ずとは言い切れません。全国遺伝子医療部門連絡会議は、「遺伝子医療部門」をもつ高度医療機関の代表者が会員となり、日本の遺伝子医療(遺伝学的検査や遺伝カウンセリングなど)の充実・発展のために活動をしていますが、ここに参加している医療機関は、2020年2月現在、大学病院を中心に125施設です。これらの施設の多くは認定遺伝カウンセラーが配置されていると思いますが、必須ではありません。

また、この連絡会議に参加している施設以外にも、例えば出生前検査などを専門としている医療機関やダウン症候群のある方を赤ちゃんから大人まで総合的にケアしている医療機関など、遺伝的な体質をもつ方々や家族に関わる医療機関はたくさんあります。私個人の意見としては、どの医療機関の医療者も遺伝性疾患がある方にかかわる可能性はあるので、どの病院にも認定遺伝カウンセラーや、あとでお話する遺伝看護専門看護師がいることは理想的ですが、それが難しい場合は、少なくとも遺伝的な課題をもつ方やその家族を適切な場所につなげることはすべての医療機関に求められる役割だと思います。

認定遺伝カウンセラーが配置されていない病院で遺伝の相談を希望する場合、誰に相談したらよいのでしょうか?

まず、身近にいる医療者に相談してみてください。1人で抱えないことが一番大切ですし、医療者には、相談者をその相談内容に適切な場や人につなげるという役割があるからです。

「相談しづらい」とか、「相談しても自分の求めていたことと違った」などという場合には、「全国遺伝子医療部門連絡会議」のホームページに、「登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム」という、全国で遺伝子医療を行っている施設が検索できるツールがありますので、ここで相談できる施設を探してみるのも一つの方法だと思います。気になる施設が見つかったら、まずはその施設に電話をしてみて、自分の悩みや不安、相談したいことに対応できる医療機関なのか、確認してみるとよいかと思います。

例えば、当院の遺伝診療部にも、「自分の病気は遺伝と関係があるのだろうか」といったような相談の電話がかかってきます。もちろん、「当院に来院してください」というケースもあるのですが、場合によっては、その人にとってもっと適切な医療機関がないかを検討して提案することもあります。物理的な距離、相談内容などケースバイケースになりますが。いずれにしてもその方にとって、よりよい方法がないかを一緒に検討しています。

認定遺伝カウンセラーへの相談料は、保険適用なのでしょうか?

認定遺伝カウンセラーへの相談料は、基本的に自費です。一部の遺伝学的検査は、遺伝カウンセリング加算を算定できるのですが、これは、「臨床遺伝学に関する十分な知識を有する医師によるもの」というのが要件になっています。ただ、病院では医療者が協働してチーム医療を行っていますので、保険適用となる医療の一部に認定遺伝カウンセラーが関わってくることは、しばしばあります。

患者さんから多く寄せられる相談には、どのようなものがありますか?

医療機関の特性によっても違ってくると思うのですが、当院においては、周産期や家族性腫瘍・遺伝性腫瘍に関する相談が多く寄せられます。

たとえば周産期の遺伝カウンセリングでは、出生前検査に関連した相談が多いです。おなかに赤ちゃんがいる方から「出生前検査を受けたい」という相談を受けた場合、出生前検査に関する説明ももちろんしますが、それだけではありません。クライエントのこれまでの人生、新たな命を迎えた今、そして新たな家族を迎える将来の生活の中で、「検査を受ける」または「検査を受けない」という選択がクライエントやパートナーにとってどんな意味をもたらすのかを考える場となるように心がけています。検査を受けることで、期待とは異なる結果に出会う可能性は誰にでもあり得ます。自分たちの「不安」や「期待」は、検査でわかることなのか、検査を受けることで解決できるのかを考えるプロセスのひとつに遺伝カウンセリングは位置づけられていると思っています。

そのほかにも、例えば遺伝性の神経筋疾患や循環器疾患など関連する診療科からの紹介なども含め、さまざまな遺伝性疾患の相談が寄せられます。当院の遺伝診療部は2006年に開設されました。私は当初から在籍していますが、相談の内容や件数は変化しています。最近では、今の病気の治療の選択肢を検討するために遺伝子を調べる場合もありますので、結果的に検査を検討する機会も以前より増えています。

今、遺伝学的検査の一部は保険適用ですが、そうでないものは基本的に自費になります。「今、知りたいこと」と「病状・経済状況」さらにその方の生活や人生で大切なことを考えながら、今、お金をかけて検査を受ける意味は何なのか、検査を受けるとしてもあとで受けるという選択肢はないのかどうか、など「その方にとってよいタイミング」を一緒に考えるようなケースもあります。また、検査に関する相談だけでなく、生活していく中で気になったこと、家族との情報共有、妊娠・出産に関すること、進学や就労に関することなど、さまざまな相談を受けることがあります。

相談の内容は、本当に幅広いため、私たちも国内外の文献やWeb情報など、情報の質を見極めながらいろいろな資料を常に調べ、新しい情報を吸収しています。遺伝医療に関する情報も日々変化しています。相談者の中には、自分にとって何がいいのか、他の人はどうしているのか、といった問いを投げかける方もいらっしゃいます。相談者の状況を多角的にとらえられるように、その方にとって何がよいのかを一緒に考えられるように、一緒に働く仲間とディスカッションをしたり、文献などを調べたり、学会やセミナー、勉強会などで新たな情報や視点に触れたり、私自身の選択肢を増やす機会を大切にしています。

「私自身の選択肢を増やして、相談者に還元できるように勉強し続けています」(青木先生)
最後に、先生が大学で教えておられる「遺伝看護学」について教えてください

看護師も医療に携わる上で、遺伝の知識が必要となる時代です。私は看護師でもあるのですが、大学教員として、看護を学ぶ人たちに「遺伝看護学」として遺伝についての教育をしたり、遺伝と看護に関する研究をしたりしています。

日本看護協会が認定している専門看護師という制度があります。がん看護や精神看護、母性看護などさまざまな領域の専門看護師が存在しますが、2017年の12月から、「遺伝看護専門看護師」の認定も始まりました。遺伝看護専門看護師も、認定遺伝カウンセラーと同じように、大学院の修士課程を修了後、書類審査や筆記試験などの認定審査に合格すると専門看護師になれます。さらに専門看護師になるには、看護師として最低5年以上の臨床経験が必須です。認定が始まったばかりの遺伝看護専門看護師は、まさに今、育ちつつある状況です。聖路加国際大学は遺伝看護専門看護師の教育課程として認定されています。遺伝に関連したスタッフが増え、チーム医療として遺伝性疾患の患者さんや家族を支えていくための体制が整っていくことを期待しています。

 


 

認定遺伝カウンセラーは、大学院で遺伝専門の知識と経験を積んだうえで、試験に合格した人が得られる資格で、まだ人数が少なく、全国に300人もいないということがわかりました。一方で、遺伝カウンセリングは認定遺伝カウンセラーが単独で行うものではなく、「チーム医療」として、患者さんの診療に当たるさまざまなスタッフが協働して行っていくものだということもわかりました。

青木先生は、とてもチャーミングで、終始にこやかにお話ししてくださいました。しかし、「クライエントの相談に対し、正しい情報を提供し、その人が自分の力で答えを導き出せるように、日々新しい情報の吸収に励んでいる」というお話をされたときの力強いまなざしから、相談を受ける側の責任感や覚悟が強く感じられるとともに、信頼感や安心感が得られました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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青木美紀子先生

青木美紀子先生

聖路加国際大学大学院遺伝看護学准教授、聖路加国際病院遺伝診療部認定遺伝カウンセラー・看護師。2001年に聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)を卒業。2012年に東京大学大学院医学系研究科にて博士(保健学)取得。武蔵野大学看護学部助手・助教、東京大学特任研究員、聖路加国際大学臨床准教授を経て、2015年より現職。2006年聖路加国際病院遺伝診療部開設時より遺伝診療部スタッフとして遺伝カウンセリングを担当し、遺伝性疾患や先天異常の当事者や家族のケアに関わっている。2008年に認定遺伝カウンセラー資格取得。