ヌーナン症候群

遺伝性疾患プラス編集部

ヌーナン症候群の臨床試験情報
英名 Noonan syndrome
別名 NS
発症頻度 出生1,000~2,500人に1人
日本の患者数 600人程度と推定(令和4年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数46人)
子どもに遺伝するか 遺伝する[常染色体優性(顕性)遺伝形式]および[常染色体劣性(潜性)遺伝形式]
発症年齢 胎児期~小児期
性別 男女とも
主な症状 特徴的な顔立ち、目の異常、低身長、筋緊張低下、先天性心疾患など
原因遺伝子 PTPN11、SOS1、RAF1など
治療 対症療法
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どのような病気?

ヌーナン症候群はRas/MAPKシグナル伝達系と呼ばれる細胞内の反応に関与する遺伝子の異常によって起こる疾患で、特徴的な顔立ち、先天性心疾患、低身長、知的障害などを生じます。Ras/MAPKシグナル伝達系は、1)細胞の成長と分裂を調整、2)特定の遺伝子の発現を制御して適切な細胞への分化を促進、3)アポトーシス(プログラムされた細胞死)を抑制して、細胞の生存や回復に関与、4)細胞の運動(移動)に関わる機能を調節、などの役割を持っています。

ヌーナン症候群で見られる症状としては、眼の異常、低身長、筋緊張低下、関節の過伸展(関節が正常範囲を超えて伸展すること)、胸郭奇形(鳩胸:胸郭が前に出ている状態、漏斗胸:胸郭がへこんでいる状態)、停留精巣(睾丸が陰嚢に降りずに停滞している状態)、先天性心疾患(肺動脈弁狭窄など)、難聴、肥大型心筋症、学習障害、知的障害、腎奇形などがあります。各症状の頻度としては、眼の異常は95%、低身長は50~70%、筋緊張低下・関節過伸展、胸郭奇形はいずれも大多数、停留精巣は60~80%、先天性心疾患は50~80%とされています。

ヌーナン症候群の発症頻度は出生1,000~2,500人に1人とされ、国内の患者数は600人程度と推定されています。

ヌーナン症候群は指定難病対象疾病(指定難病195)および小児慢性特定疾病に指定されています。

何の遺伝子が原因となるの?

ヌーナン症候群やその類縁疾患の原因遺伝子として、RAS/MAPKシグナル伝達経路に関与するタンパク質の産生に関与するPTPN11、SOS1、RAF1、RIT1、KRAS、BRAF、NRAS、SHOC2、CBL、SOS2、MRAS、RRAS、RRAS2、LZTR1、PPP1CB遺伝子の変異が報告されています。これらの遺伝子のうちPTPN11の変異は患者さんの50%程度で認められるとされています。また、米国の遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」では、ヌーナン症候群に関連する遺伝子として、上記のほかにMAP2K1、RASA2、SOS2遺伝子が提示されています。しかし、これらのいずれの遺伝子にも変異が見られない患者さんが他にも多くいることから、他の原因遺伝子の関与も考えられています。ヌーナン症候群で見られる症状と、これらのRAS/MAPKシグナル伝達系に関わる遺伝子の変異との関係についてはまだよくわかっていません。

ヌーナン症候群は、両親から変異した遺伝子を受け継いで発症する場合と、両親には遺伝子に異常はなく新規変異によって発症する場合があります。ヌーナン症候群の原因遺伝子のうち、LZTR1以外の遺伝子は常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。ヌーナン症候群がLZTR1遺伝子の変異による場合は常染色体優性(顕性)遺伝形式および常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。常染色体優性(顕性)遺伝では、両親のどちらかがヌーナン症候群だった場合、子どもは50%の確率でヌーナン症候群を発症します。また、常染色体劣性(潜性)遺伝の場合、両親がともに遺伝子の片方に変異を持つ(保因者)場合に、子どもは4分の1の確率でヌーナン症候群を発症します。また、2分の1の確率で保因者となり、4分の1の確率でこの遺伝子の変異を持たずに生まれます。

Autosomal Dominant Inheritance

Autosomal Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

国内において、ヌーナン症候群の診断基準が作成されています。下記の診断のカテゴリーにおける「確実なヌーナン症候群」および「確定診断されたヌーナン症候群」に該当する場合にヌーナン症候群と診断されます。

症状

A:主症状

B:副次的症状

1.顔貌

典型的な顔貌

本症候群を示唆する顔貌

2.心臓

肺動脈弁狭窄、閉塞性肥大型心筋症および/またはヌーナン症候群に特徴的な心電図所見

左記以外の心疾患

3.身長

3パーセンタイル未満

10パーセンタイル未満

4.胸郭

鳩胸/漏斗胸

広い胸郭

5.家族歴

第1度親近者に確実なヌーナン症候群の患者あり

第1度親近者にヌーナン症候群が疑われる患者あり

6.その他

次のすべてを満たす(男性):精神遅滞、停留精巣、リンパ管形成異常

精神遅滞、停留精巣、リンパ管形成異常のうち1つ

<診断のカテゴリー>

確実なヌーナン症候群

a.1Aと、2A~6Aのうち1項目以上を満たす場合

b.1Aと2B~6Bのうち2項目以上を満たす場合

c.1Bと、2A~6Aのうち2項目以上を満たす場合

d.1Bと、2B~6Bのうち3項目以上を満たす場合

確定診断されたヌーナン症候群

上記の確実なヌーナン症候群の要件を満たし、PTPN11などのRAS/MAPKシグナル伝達経路のヌーナン症候群責任遺伝子群に変異が同定された場合

どのような治療が行われるの?

ヌーナン症候群では各患者さんの症状に対する対症療法が行われます。心疾患は早期発見と早期治療が重要です。また、-2SD以下の低身長(平均身長に対して標準偏差の2倍以上乖離した低身長)に対しては3歳から成長ホルモン治療が考慮されます。GeneReviewsでは以下の治療が示されています。

・低身長に対する成長ホルモン療法

・摂食障害:経鼻胃管栄養を考慮

・発達遅滞/知的障害:作業療法、理学療法、言語療法

・精神/行動:精神神経兆候や問題行動に対する標準的治療

・肥大型心筋症:心臓病専門医による標準的治療

・キアリ奇形(小脳や脳幹の一部が脊柱管の中に陥入する脳の奇形):脳神経外科による標準治療

・白血病/悪性腫瘍:腫瘍専門医による標準治療

・停留精巣/腎奇形/水腎症:泌尿器科医または腎臓内科医による標準治療

・視覚異常/斜視:眼科医による標準治療

・聴覚:耳鼻科医による標準治療、補聴器の使用

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でヌーナン症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

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