どのような病気?
オスラー病は、遺伝性出血性末梢血管拡張症(いでんせいしゅっけつせいまっしょうけっかんかくちょうしょう)とも呼ばれ、全身の血管に異常が起こり、皮膚・粘膜・消化管などに存在する毛細血管の拡張による出血、さまざまな臓器(肺、脳、消化管、肝臓など)の血管の異常によって引き起こされる症状を特徴とする遺伝性疾患です。
この病気において最もよく見られる症状の一つに繰り返す鼻血(鼻出血)があり、全体の8~9割に見られ、症状が重い場合には鉄欠乏性貧血を引き起こすこともあります。これは、「毛細血管拡張」と呼ばれる毛細血管の異常によるものであり、鼻以外にも口や顔、指などに発生し皮膚に赤い湿疹(皮疹)が現れたり、破れて出血したりすることもあります。また、消化管に発生した毛細血管拡張が破れて出血し鉄欠乏性貧血の原因となることもあります。
また、「動静脈奇形」と呼ばれる、血管の動脈と静脈が直接つながってしまう血管の異常も生じることがあります。動静脈奇形はさまざまな臓器に発生する可能性があり、発生したそれぞれの臓器ごとに症状が現れます。肺に発生すると、静脈内に発生した血栓や、静脈内に入り込んだ細菌が肺動静脈奇形を通過して脳や心臓などの臓器で塞栓(血管が詰まること)を起こす「奇異性塞栓症」が発症し、脳梗塞、脳膿瘍、心筋梗塞につながる可能性もあります。肺動静脈奇形は他にも低酸素血症、妊娠中の血管破裂による血胸(けっきょう・胸の中に血が溜まる)や喀血(かっけつ・肺や気管から出血する)などを引き起こすことがあります。他にも、脳の動静脈奇形による脳出血、けいれん、肝臓の動静脈奇形による心不全、肝機能障害、肝性脳症などのほか、脊髄の動静脈奇形によって下肢麻痺・四肢麻痺(足のまひ・手足のまひ)などが起こる場合もあります。
オスラー病は、いくつかの病型(HHT1、HHT2、若年齢ポリープ症/遺伝性出血性毛細血管拡張症候群など)に分かれており、症状や経過が少しずつ異なります。HHT1では、HHT2よりも早期に発症し、肺や脳における動静脈奇形が多く見られる傾向があり、女性は男性より肺の動静脈奇形が発症しやすいとされます。また、HHT2は肝臓において動静脈奇形が起こる頻度が高いとされます。若年齢ポリープ症/遺伝性出血性毛細血管拡張症候群では、動静脈奇形などの症状に加えて消化管におけるポリープの発生リスクが高くなります。
しかし、全体としてこの病気の経過は、肺動静脈奇形やその他の臓器の動静脈奇形による重篤な症状、もしくは慢性的な鉄欠乏性貧血による心不全などの重篤な合併症などが発症していない場合に、適切な治療がなされていれば、予後は比較的良好であるとされます。
オスラー病の正確な発症頻度はわかっていませんが、欧米においては1万人に1人、日本では5,000~8,000人に1人がこの病気の原因となる遺伝子の変異を持っていると考えられています。しかし、このような遺伝子を持っていたとしても必ず発症するわけではないため、実際の患者さんは少ない可能性があります。日本における患者数は1万人程度と推定されています。
オスラー病は国の指定難病対象疾病(指定難病227)、および「遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病)」として小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
オスラー病の原因遺伝子として、9番染色体の9q34.11と呼ばれる領域に存在するENG(Endoglin)遺伝子、12番染色体の12q13.13領域に存在するACVRL1(ALK1)遺伝子、18番染色体の18q21.2領域にあるSMAD4遺伝子の3つが明らかにされています。ENG遺伝子はHHT1、ACVRL1遺伝子はHHT2、SMAD4遺伝子は若年齢ポリープ症/遺伝性出血性毛細血管拡張症候群の原因遺伝子となります。
これら3つの遺伝子は、どれも血管の内側の層に存在して、血管の発達を制御する成長因子と一緒に働くタンパク質の設計図です。これらの遺伝子に変異が起こることで、タンパク質が作られない、もしくは正しく機能しないタンパク質が作られることにより、血管の内側において正常な機能を維持することができず、この病気を発症すると考えられています。
一方で、これらの遺伝子に変異があると必ず病気を発症するというわけではなく、発症するメカニズムについての詳細はまだ明らかにされていません。また、この3つ以外にもこの病気に関連する遺伝子がいくつか報告されていますが、原因遺伝子かどうかはまだ確定していません。
オスラー病は、常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、父親と母親から引き継いだ遺伝子のうち、どちらか1つに病気の原因となる変異を受け継いだ場合に発症します。つまり、両親のどちらかがオスラー病である場合、子どもは50%の確率で発症します。
どのように診断されるの?
オスラー病の診断基準として、
1)鼻出血が自然かつ反復性に出現する
2)末梢血管拡張症が見られる:鼻腔、眼瞼(がんけん、まぶたのこと)、口唇、口腔、手指などに出現する拡張性小血管病変(圧迫により退色)
3)内臓の病変が見られる:胃腸末梢血管拡張、肺、脳、肝、脊髄の動静脈奇形
4)家族歴(遺伝性):HHTと診断されている1親等の血縁者がいる(兄弟、姉妹は1親等の血縁者に含まれる)
上記の1)~4)の症状や検査所見のうち3つ以上を満たし、遺伝性ではない各臓器の単純性動静脈奇形(単純性肺動静脈奇形など)ではないことを確認(鑑別診断)した場合、もしくは遺伝学的検査によってENG、ACVRL1、SMAD4遺伝子の変異を認めた場合に、この病気であると診断されます。
また、1)~4)の症状や検査所見のうち2つ、もしくは1つを満たし、鑑別診断が行われた場合にはこの病気の疑い、もしくは可能性ありとなり、経過観察もしくは遺伝学的検査などにより診断が進められます。
どのような治療が行われるの?
オスラー病を治す根本的な治療法はまだ確立されていません。そのため、それぞれの症状に応じた治療が行われます。
鼻出血がひどい場合には、レーザーなどによる粘膜焼灼術のほか重症例には鼻粘膜皮膚置換術や鼻腔閉鎖術などの手術が行われる可能性があります。
肝臓以外の臓器に血管の異常(動静脈奇形)が起こった場合、カテーテルを用いて金属でできたコイルやプラグを留置する治療(血管塞栓術)が行われることもあります。特に肺に動静脈奇形が見つかった場合には、大きさに関係なく治療が検討されます。脳血管奇形の場合には外科的摘出や定位放射線療法などの方法がとられることもあります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でオスラー病の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
また、NPO法人日本オスラー病患者会および日本HHT研究会のウェブサイトにも、医療施設のリストが掲載されています。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
オスラー病の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター 遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病)
- MedlinePlus
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- orphanet
- NORD