当事者が正しく診断を受けられる環境を整える、日本オスラー病患者会

遺伝性疾患プラス編集部

オスラー病は、別名「遺伝性出血性末梢血管拡張症」などと呼ばれ、全身の血管に異常が生じる遺伝性疾患です。主な症状は、繰り返す鼻出血(以下、鼻血)、動静脈奇形、毛細血管拡張症などで、他にもさまざまな症状が見られます。また、病型ごとに症状や経過が少しずつ異なります。

今回ご紹介するのは、オスラー病の当事者・ご家族を支援するNPO法人日本オスラー病患者会です。理事長の村上匡寛さんも当事者の一人で、幼少の頃から症状が現れていたものの、オスラー病の診断に至ったのは50代の頃。いくつもの病院を受診していましたが、なかなか原因のわからない日々を過ごされたと言います。そこで現在は、当事者が正しく診断を受けられる環境整備を目指し、医療従事者と連携して支援活動を行っています。村上さんのご経験や、同会の活動について詳しくお話を伺いました。

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NPO法人日本オスラー病患者会理事長 村上匡寛さん
団体名 NPO法人日本オスラー病患者会
対象疾患 オスラー病
対象地域 全国
会員数 約130人(非会員 約500人)
設立年 2012年
連絡先

公式ウェブサイト「お問い合わせフォーム

「メール」info@hht.jpn.com

「電話」050-3395-3927(受付時間11:00-17:00)

「FAX」050-3737-5059
サイトURL https://www.hht.jpn.com/
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主な活動内容

オスラー病の当事者・ご家族への支援活動を行う。交流会や専門医による勉強会などを開催中。その他、オスラー病に関わる情報発信を行い、疾患啓発を行う。

幼少期の頃から症状が現れていたものの、確定診断に至ったのは51歳

村上さんが診断に至った経緯について、教えていただけますか?

3歳頃から鼻血が出やすかったので、さまざまな病院を受診し、いくつも検査を受けてきました。しかし、「虚弱体質」や「鼻を触りすぎ」といった説明に留まり、診断には至りませんでした。1日に何回も鼻血が出ることもありましたが、「これは体質だから、慣れるしかない」と考えるしかなかったのです。その後、社会人になっても症状は続いていました。下を向いていると鼻血が出ることがきっかけとなり、さまざまな職業を転々としました。

そして、51歳の頃に脳梗塞を発症したことで、ようやく確定診断に至りました。ただ、これも最初、脳梗塞で入院した病院ではオスラー病だとはわからなかったんです。入院生活中に、インターネットで症状などを検索して情報を探している時、たまたま見つけたのが小宮山先生のおられる病院でした。小宮山先生は、現在も患者会の活動でお世話になっている先生です。小宮山先生に話を聞いていただくと、「あなたは、オスラー病という病気かもしれない」とのことでした。退院して小宮山先生に診ていただいたところ、オスラー病と診断されました。

オスラー病だとわかった時、どのようなお気持ちでしたか?

「オスラー病」という病名を聞いたのが初めてだったので、「どのような病気なんだろう?」と思ったのが最初です。先生のお話を伺い、自分でも情報を調べる中で、幼少の頃から起こっていたあらゆることがオスラー病によるものだとわかり、靄が晴れたような感覚でした。長く悩まされていた鼻血などの症状が、オスラー病によるものだと理解することができました。

それと同時に、家族に関わることもわかってきました。私は、自身の子どもを生まれて2週間ほどで亡くす経験をしています。当時は、乳幼児突然死症候群だと説明を受けていました。恐らく、オスラー病による症状だったのではないかと考えています。また、振り返ってみると、父親も自分と同じような症状が現れていたので、同じオスラー病だったのではないかと思います。これまで、よくわからずにモヤモヤしていたことが、自身の診断により詳細が見えてきたような気持ちでした。

患者会の立ち上げに対し、さまざまな反響が

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

小宮山先生から、「村上さん、患者会をつくりませんか」と声をかけていただいたことがきっかけです。すぐに患者会のウェブサイトを制作し、大阪での集まりを呼びかけた所、全国各地から約80人が集まりました。遠方の方だと、北海道、九州にお住いの方もいらっしゃいました。私も先生もそれだけの反響があるとは思っていなかったので、驚いたことを覚えています。オスラー病に関わる皆さんが、それだけ患者会という場所を求めていることを痛感したのです。

集まった方の中には、オスラー病と診断は受けていないものの症状から「自分はオスラー病なのではないか」と考えている方や、「虚弱体質」とだけ説明を受けている方もいらっしゃいました。皆さんのお話を伺う中で、希少疾患であるからこそ医療従事者向けにも疾患啓発が必要だと感じました。その後2013年には、オスラー病の診断・治療の向上と当事者支援を目的とした医療従事者主体の「日本HHT研究会」が立ち上がり、現在は約230人が所属しています。

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コロナ禍前のイベントの様子
患者会を立ち上げたことで、さまざまな反響があったのですね。

そうですね。オスラー病の患者会が立ち上がったことに対して、喜んでくださる方がたくさんいらっしゃいました。一方で、厳しいお言葉をいただく機会もありました。「この病気のことを広げないでくれ」というものです。

オスラー病は、原因となる遺伝子がお子さんへ引き継がれる可能性のある病気です。そのため、立ち上げた当時は「自分は病気のことを必死に隠しているのに、どうしてこんな活動をするんだ」などといった声が寄せられることもありました。そういった厳しいお言葉をいただく中でも活動を続けることができたのは、「一人でも多くのオスラー病の当事者が、正しい診断を受けられるようにしたい」と考えてきたからです。正しく診断を受けないことには、適切な治療を受けることができません。それは最悪の場合、命に関わる可能性もあります。また、遺伝の可能性があることも、当事者やご家族は知る権利があると思います。当事者の皆さんには、全てを正しく知った上でどのような選択をするか決めて欲しいと思い、この活動を続けています。

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コロナ禍前のイベントの様子

交流会や勉強会などを定期開催、医師との連携も強み

活動内容の1つ「交流会」の開催場所・頻度について、教えてください。

開催場所は、東京、中部地方、大阪、九州地方が中心です。各地で年に2回ほど、開催しています。基本的に、会員でない方も含めてオスラー病に関わりのある方であれば、どなたでも参加していただくことができます。ここ数年は、コロナ禍で直接お会いする機会がなかったので、会員限定で直接お会いする機会などを設けていることもあります。

その他、最近はオンラインミーティングを毎月開催し、どこにお住まいの方でも気軽にご参加いただけるような場も設けています。

オンラインミーティングでは、どのようなことを行っていますか?

交流会が中心です。会場もオンラインも、同じオスラー病の当事者で話すことができるという部分に安心してくださっている方が多い印象です。当事者同士だからこそ、話せることも多いですからね。交流会に参加することで、「今まで誰にも話せなかったことを話すことができて、気持ちが楽になった」とおっしゃる方もいます。ですから、交流する場は今後もつくっていきたいと考えています。

医師をお呼びした勉強会では、どのようなことを行っていますか?

オスラー病に関わる最新情報や知識を学ぶ機会として、先生方にお話しいただきます。日本オスラー病患者会の特徴の1つとして、「日本HHT研究会」との連携があります。勉強会は、私たちが先生方に教えていただく機会でもありますし、先生方が私たち当事者の話を聞くことで気付きを得ていただく機会でもあります。

オスラー病は当事者によって症状がさまざまです。そのため、先生方にも実際の当事者のリアルな話に触れていただくことで、より理解を深めていただけたらと考えています。そうした医師との連携の1つに、「オスラー病Q&A50」の作成もあります。

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コロナ禍前のイベントの様子
「オスラー病Q&A50」とは何ですか?

ご自身やご家族がオスラー病と診断された時に、まずはご覧いただきたいQ&Aの一覧が「オスラー病Q&A50」です。診断を受けた時、きっと皆さんはさまざまな疑問や心配ごとを抱くと思います。その中でも代表的な50の質問に対して、日本HHT研究会の先生方がわかりやすく解説しています。

恐らく、診断を受けた時に初めて「オスラー病」という名前を知る当事者やご家族が多くいらっしゃると思います。通院の際、主治医の先生に質問できる時間は限られていますので、ぜひ、こういった資料を活用していただきたいですね。また、当事者目線でつくったわかりやすい解説動画も公開しています。ぜひ、ウェブサイトから確認してみてください。

ウェブサイトの会員専用ページでは、どういった情報をやり取りされていますか?

交流会では話しづらいような、個人的なお話をしています。交流会は、基本的に会員さんでない方も参加可能です。そのため、気心の知れた会員さん同士で話したいという声にお応えして、会員専用ページを設けています。

まずは、各地やオンラインで開催されている交流会に参加されてみて、もっと話したいという方はぜひ会員専用ページも利用してみてください。ご自身にあった形で、活動に参加していただけたらうれしいですね。

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日本オスラー病患者会 ウェブサイトより
相談対応では、どのような声が寄せられていますか?

全て私がお話を伺っており、さまざまな声が寄せられています。例えば、ご家族への遺伝に関わるお悩みなどがあります。お子さんへ伝えるべきか、伝えるとしたらどのタイミングで…など、お悩みの内容は多岐にわたります。遺伝に関わるお悩みは、遺伝カウンセリングを利用されることが大切です。一方で、遺伝カウンセリングを受けた場合でもなかなかお悩みが尽きないという場合もあると伺います。

今は、インターネットやSNSで気軽に情報が手に入る時代です。実際に、若い方で「親は自分にオスラー病のことを隠しているみたいだけど、症状などを調べて、自分は恐らくオスラー病だろうと思っている」と、連絡をくださる方もいらっしゃいます。このようなご連絡をいただく度に、やはり正しく診断を受けることが大切だと感じます。特に、オスラー病では、1型(HHT1)、2型(HHT2)、3型(HHT3)、4型(HHT4)があり、最近若年性ポリポージスと関連のあるタイプも発見されています。ご自身がどの病型のオスラー病なのかということまで知ることで、より適切な治療を受けることにつながります。

一人でも多くの当事者が、正しく診断を受けられるように

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

当事者が、正しく診断を受けられる環境を整えることが大切だと思います。オスラー病であれば、ご自身が何の病型かによって治療方針も変わってきます。正しい診断を受けることで初めて、適切な治療を受けることができることを知っていただきたいですね。

そして、正しい診断は、ご自身だけでなくご家族のためにもなると思います。遺伝という言葉の影響で、偏見を受けるのではないかと不安なお気持ちを持たれている方がいらっしゃると思います。しかし、正しく診断を受けることができなければ、いつまでも適切な治療を受けられません。もし、ご家族にも同じオスラー病の方がいらっしゃる場合は、それはご自身だけの問題ではなくなると思うのです。

ですから、一人でも多くの当事者が正しくオスラー病の診断を受けられるように、私たちはこれからも活動していきます。もし、ご自身だけで不安を抱えきれなくなった時には、私たち日本オスラー病患者会という場所があることを思い出していただけたらうれしいです。


オスラー病の診断を受けるまでに50年近くの時間を要したと言う、村上さん。同じような経験をした当事者・ご家族のお話を伺い、一人でも多くの当事者が診断につながるように、10年以上も患者会の活動を続けてこられました。正しい診断が、適切な治療を受けるために大切だからです。

日本オスラー病患者会の活動もあり、少しずつ医療従事者の中でもオスラー病への理解が深まってきたそうです。一方で、まだまだ疾患啓発活動が必要だと感じられる場面もあるとのこと。これからも、同会による活動は続いていきます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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