どのような病気?
掌蹠角化症(しょうせきかくかしょう)は手のひら(手掌)と足の裏(足蹠)の過角化を主症状とする疾患群です。手掌と足蹠を併せて掌蹠と呼びます。角化とは表皮の角化細胞(ケラチノサイト)が、皮膚表面に移行し、角質化することで、過角化は過剰な角化が生じることです。
角化症には遺伝子など先天性の要因で生じる先天性のものと後天性の角化症があり、掌蹠角化症にも先天性掌蹠角化症と後天性掌蹠角化症があります。一般に「掌蹠角化症」と呼ぶ場合は先天性のものを指し、この記事では遺伝性の掌蹠角化症について記載しています。また、掌蹠角化症は単一の疾患ではなく、さまざまな病態を含む疾患群で、掌蹠角化症の症状を示す遺伝性疾患の中には、心筋症やがん、知的障害などのさまざまな症状を合併する症候性の掌蹠角化症も含まれる場合がありますが、この記事では、症状が主に皮膚に現れる主要な11種類の病型を対象に説明します。
臨床的な病態の1つの分け方としては、過角化が生じる病巣の形として、びまん型、限局型、線状型、点状型があります。びまん型とは皮疹が広範囲に広がることです。掌蹠にびまん性に肥厚を伴う過角化がみられるのが最も一般的な掌蹠角化症の症状です。病型によっては掌蹠の範囲を超えて、近接した手首の内側、足、アキレス腱などへの病巣の拡大もみられます。
掌蹠角化症は臨床所見、病理組織像、遺伝歴、遺伝子変異などから病型が決定されます。主要な掌蹠角化症のタイプとして、フェネル(Vörner)型(ウンナー・トースト(Unna-Thost)型を含む)、長島型、ボスニア(Bothnnia)型、グライター(Greither)型、メレダ(Meleda)病、線状・限局型、先天性爪甲硬厚症、Cole病、点状掌蹠角化症、指端断節型掌蹠角化症、パピヨン・ルフェーブル(Papillon-Lefevre)症候群があります。多くの場合、掌蹠角化症は乳幼児期に診断されます。
掌蹠角化症の中心的な症状は掌蹠の過角化ですが、皮膚および皮膚以外にも下記のような症状・合併症がみられることがあります。
<主な症状・合併症>
過角化、潮紅、指趾の拘縮、爪甲の変化、掌蹠の多汗、足白癬、肘部/膝蓋部の潮紅、爪床部発赤、脱色素斑、角化性小丘疹、絞扼輪、感音性難聴
掌蹠角化症の発症頻度や国内の患者数ははっきりわかっていません。しかし、以前行われた国内の調査では有病率は人口100万人あたり1.2人とされています。また、掌蹠角化症のうち長島型はアジア人で最も頻度の高い掌蹠角化症で、日本では約1万人の患者さんがいると推定されています。
何の遺伝子が原因となるの?
掌蹠角化症の主要な病型の遺伝形式および原因遺伝子を下の表に示します。多くの病型において、原因遺伝子が特定されており、病型の診断が可能となっています。掌蹠角化症の原因遺伝子の多くは、表皮の構造に関わるタンパク質や、表皮の細胞が分化する過程に関与するタンパク質の産生に関与するものとなっています。
主要な掌蹠角化症の病型の遺伝形式および原因遺伝子
病型 | 遺伝形式 | 原因遺伝子 |
---|---|---|
フェルネル型(ウンナートースト型)掌蹠角化症 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | KRT1, KRT9 |
長島型掌蹠角化症 | 常染色体劣性(潜性)遺伝形式 | SERPINB7 |
ボスニア型掌蹠角化症 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | AQP5 |
グライター型掌掌蹠角化症 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | KRT1 |
メレダ病 | 常染色体劣性(潜性)遺伝形式 | SLURP-1 |
線状・限局型掌蹠角化症(限局型掌蹠角化症) | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | KRT6C, KRT16, DSG1, TRPV3 |
線状・限局型掌蹠角化症(線状掌蹠角化症1型) | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | DSG1 |
線状・限局型掌蹠角化症(線状掌蹠角化症2型) | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | DSP |
線状・限局型掌蹠角化症(線状掌蹠角化症3型) | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | KRT1 |
先天性爪甲硬厚症 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | KRT6A, KRT6B, KRT6C, KRT16, KRT17 |
コール病 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | ENPP1 |
点状掌蹠角化症 1A型 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | AAGAB |
点状掌蹠角化症 1B型 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | COL14A1 |
点状掌蹠角化症 2型 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | 不明 |
点状掌蹠角化症 3型 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | 不明 |
指端断節型掌蹠角化症 | 常染色体優性(顕性)遺伝形式 | LOR, GJB2 |
パピヨン-ルフェーブル症候群 | 常染色体劣性(潜性)遺伝形式 | CTSC |
主要な掌蹠角化症はいずれも常染色体優性(顕性)遺伝形式または常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。常染色体優性(顕性)遺伝形式は、両親のどちらかがこの病気だった場合、子どもは50%の確率で発症します。常染色体劣性(潜性)遺伝形式は、両親がともに遺伝子の片方に変異を持つ(保因者)場合、子どもは4分の1の確率で発症します。また、2分の1の確率で保因者となり、4分の1の確率でこの遺伝子の変異を持たずに生まれます。
どのように診断されるの?
日本皮膚科学会が作成した掌蹠角化症の診療の手引きには以下の診断基準が示されています。
<掌蹠角化症の診断>
下記の(1)a,bおよび(2)をすべて満たすものを掌蹠角化症と診断する。
(1)臨床的事項
a.手掌あるいは足蹠に過角化病変が存在する。過角化病変はびまん性のこともあれば限局性のこともある。ただし、鶏眼(俗称:ウオノメ)・胼胝(俗称:タコ)・ウイルス性疣贅(俗称:イボ)は除外する。
b.原則として乳幼児期に発症し、長期間にわたり症状が持続する。
(2)病理学的事項
病理組織像では通常、過角化、表皮肥厚をみとめる。不全角化や顆粒変性をともなう場合も伴わない場合もある。
<病型診断>
皮疹の分布パターン(びまん性、限局性、点状)、皮疹が掌蹠に限局するか、その範囲を超えて皮疹が拡大しているか、爪甲肥厚、水疱、疼痛、嚢腫、脱色素斑などの有無から、病型を判定する。
<確定診断>
問診による発症年齢および家族歴、皮膚病理組織検査、遺伝子検査によって確定診断を行う。
掌蹠角化症が遺伝性のものであった場合には患者とその家族に遺伝カウンセリングが推奨されます。遺伝カウンセリングとは、遺伝性疾患の患者さんやその可能性のある人、またそのご家族に対して、遺伝性疾患の医学的情報を分かりやすく伝えるとともに、悩み、不安、その他さまざまな話を十分にうかがい、社会的、心理的なサポートを行う医療行為です。
どのような治療が行われるの?
掌蹠角化症は、これまでに治療を受けてきた患者さんの数が少なく、大規模な臨床研究が困難なために各治療の有効性と安全性は十分に確立されていません。日本皮膚科学会による掌蹠角化症診療の手引きには、掌蹠角化症の治療としては、外用療法、内服療法、皮膚切削術、患者さん自身によるケアなどが示されています。外用療法としては、角質溶解作用のるワセリンや尿素軟膏や皮膚の角化を抑制する活性型ビタミンD3製剤であるカルシポトリオール軟膏が用いられます。内服療法としては、角化症治療剤でビタミンA誘導体のレチノイドが用いられます。皮膚切削術は医療用の剪刀などで肥厚した角質を除去するものです。患者さん自身によるケアとしては、角質を削り、就寝時にワセリンを塗り、その部位をポリエチレンなどのラップフィルムで覆う密封療法があります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で掌蹠角化症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 日本皮膚科学会、掌蹠角化症診療の手引き
- Schiller S, et al., Palmoplantar keratoderma (PPK): acquired and genetic causes of a not so rare disease., J Dtsch Dermatol Ges.
- Dev T, et al., Hereditary Palmoplantar Keratoderma: A Practical Approach to the Diagnosis., Indian Dermatol Online J.