どのような病気?
ポイツ・ジェガース症候群は、消化管(特に胃と腸)に多発するポリープと、くちびるや口の中(口唇・口腔)、指先などの皮膚や粘膜の色素斑を特徴とする遺伝性疾患です。ポリープは食道以外の全ての消化管に見られ、これを「過誤腫性ポリポーシス」といいます。ポリープの多発は、腹痛、嘔吐、出血、貧血、黒色便などにつながります。
また、大きいポリープができると、腸重積が起こりやすくなります。腸重積とは、腸の一部が腸管の中に入り込んで重なってしまう状態です。進行すると腸管の血流が低下し、腸が壊死して手術が必要になる場合があります。幼児期に、腸重積をきっかけにこの病気が発見される患者さんもいます。小腸ポリープによって腸重積が起こる人の割合は9歳以降に増加し、10歳までに15%、20歳までに50%程度にみられます。腸重積に対する開腹手術によって術後の癒着が生じると、その後、内視鏡による定期的な検査などが難しくなる場合があります。
口唇、口腔、指先などに見られる色素斑とは皮膚の色が変化した状態で、1~5 mmほどの大きさの色素斑が乳児期から見られます。目や鼻の穴付近、肛門周辺、手や足にも見られることがあります。色素斑は思春期頃まで増加し、成人後は目立たなくなる場合もあります。
そのほか、ポイツ・ジェガース症候群では消化管、乳房、膵臓、子宮、卵巣、肺、精巣などのがんの発症リスクが高くなり、がんの発症割合は40歳までで20%、70歳まででは80%とされています。
ポイツ・ジェガース症候群で見られる症状 |
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99~80%で見られる症状 口腔粘膜の色素沈着、消化器がん、ほくろ |
79~30%で見られる症状 消化管出血 |
29~5%で見られる症状 腹痛、胆嚢の異常、尿管の異常、貧血、胆管腫瘍、乳がん、子宮頸がん、多嚢胞卵巣、食道腫瘍、腸管壊死、腸閉塞、黒爪症、多発性嚢胞腎、鼻ポリープ、大腸腫瘍、肺腫瘍、鼻腫瘍、直腸腫瘍、小腸腫瘍、膵臓がん、直腸脱、腎細胞がん、胃がん、嘔吐 |
割合は示されていないが見られる症状 胆管異常、膀胱ポリープ、ばち状指、女性化乳房、過誤腫性ポリポーシス、高メラニン性色素斑、消化管出血、腸重積、鉄欠乏性貧血、口唇黒色斑、膵臓がん、口腔黒色斑、腫瘍性思春期早発症、子宮腫瘍 |
ポイツ・ジェガース症候群の有病率は2万5,000人~30万人に1人と推測されており、日本国内の患者さんは600人~2,400人と推計されています。また、ポイツ・ジェガース症候群は小児慢性特定疾病に指定されています。
何の遺伝子が原因となるの?
ポイツ・ジェガース症候群の原因遺伝子として、第19番染色体の19p13.3という位置に存在するSTK11遺伝子が見つかっています。この遺伝子は、LKB1遺伝子と呼ばれることもあります。
STK11遺伝子は、がん抑制遺伝子の仲間で、細胞が急速に、無秩序に増殖・分裂するのを防ぐ働きをしています。この遺伝子が変異し、STK11タンパク質の構造や機能が変化して細胞分裂を制御する機能が失われるとポイツ-ジェガース症候群が発症し、ポリープや腫瘍が形成されると考えられています。しかし、ポイツ・ジェガース症候群の発症の仕組みは、まだ完全にはわかっていません。また、STK11遺伝子に変異が認められず、原因不明なポイツ・ジェガース症候群の患者さんも、ごく少数います。
ポイツ・ジェガース症候群は、常染色体優性(顕性)遺伝形式で親から子へ遺伝します。両親のどちらかが変異した遺伝子を持つ場合、子どもがその遺伝子を受け継ぎ病気を発症する確率は50%です。しかし、患者さんの17~50%は両親からの遺伝ではなく、その患者さんの遺伝子に新しく変異が生じて発症する(新生変異による孤発例といいます)とされています。
どのように診断されるの?
「小児・成人のためのPeutz-Jeghers症候群診療ガイドライン(2020年版)」によると、ポイツ・ジェガース症候群は、以下の診断基準により診断されます。
まず、下記の【鑑別すべき疾患】に該当しないことが確認されます。
【鑑別すべき疾患】
家族性腺腫性ポリポーシス、若年性ポリポーシス症候群、Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群、結節性硬化症、炎症性ポリポーシス、鋸歯状ポリポーシス症候群、クロンカイト・カナダ症候群、遺伝性混合性ポリポーシス症候群、ロージェ・フィンツイカー・バラン症候群
次いで、下記の【症状】と【検査所見】について、以下の1~5のいずれかに該当する場合、ポイツ・ジェガース症候群と診断されます。
- 【症状】があり、【検査所見】の内視鏡所見および病理所見を満たす。
- 【症状】があり、近親者にポイツ・ジェガース症候群の家族歴がある。
- 【検査所見】の内視鏡所見および病理所見を満たし、近親者にポイツ・ジェガース症候群の家族歴がある。
- 【検査所見】の内視鏡所見を満たし、病理所見が複数の病変で認められる。
- 【遺伝学的検査】でSTK11遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアント(病的変異)が認められる。
【症状】
口唇、口腔、指尖部などに1-5mmほどの色素斑が認められる。
【検査所見】
- 内視鏡所見:上部消化管内視鏡検査、全大腸内視鏡検査、小腸内視鏡検査で食道を除く、いずれかの消化管に過誤腫性ポリープが認められる。
- 病理所見:過誤腫性ポリープが、粘膜上皮の過誤腫的過形成、粘膜筋板からの平滑筋線維束の樹枝状増生であると認められ、ポイツ・ジェガースポリープと診断できる。
【遺伝学的検査】
STK11遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアント(病的変異)が認められる。
どのような治療が行われるの?
現在までのところ、ポイツ・ジェガース症候群の根本的な治療法は見つかっていません。そのため、現時点ではその人の症状に合わせて対症療法がおこなわれます。
直径15mm以上のポリープは腸重積の原因となるので、内視鏡による切除が行われます。小腸ポリープによる腸重積は9歳以降に増加するので、8歳頃までに症状の有無にかかわらず、全ての消化管について内視鏡検査を受けます。
ポリープは一度切除しても、また新たに発生します。ポリープの増え方や大きくなり方は、患者さんごとに異なります。このため、定期的(おおむね6か月~数年ごと)に内視鏡検査とポリープの切除を受けます。この検査と切除は、成人期以降も続けて行われます。
腸重積に対する開腹手術を受けたことで術後の癒着が起こると、内視鏡の挿入が困難になることがあります。このため、家族歴や色素斑からポイツ・シェガース症候群であることが確実な(もしくは疑われる)場合には、症状が出現する前から全消化管のポリープ検査を定期的に受けることで、開腹手術となるリスクを下げることができます。
成人期以降は、消化管を含む各種のがんのリスクが上昇することから、定期的にがんの検査を受ける必要があります。
102回日本消化器内視鏡学会総会の市民公開講座で、自治医科大学内科学講座消化器内科学部門の坂本博次先生が、ポイツ・ジェガース症候群の概要について2020年に発表された診療ガイドラインをもとに説明をし、内視鏡治療の実際を解説した動画がコチラに公開されています。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でポイツ・ジェガース症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- 小児慢性特定疾病情報センター ポイツ・ジェガース(Peutz-Jeghers)症候群
- 小児・成人のためのPeutz-Jeghers症候群診療ガイドライン(2020年版)
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))