どのような病気?
原発性免疫不全症候群(PID)は、病原体などの外敵から体を守る免疫の仕組みのどこかに、生まれつき何らかの問題がある病気の総称です。さまざまな免疫担当細胞や免疫関連物質の不具合がPIDの原因となり得るため、PIDには異なる400以上の疾患が含まれます。
原発性免疫不全症候群に含まれる疾患
※国際免疫学会の分類に準ずる(出典:難病情報センター)
(1) 複合免疫不全症
- X連鎖重症複合免疫不全症
- 細網異形成症
- アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症
- オーメン(Omenn)症候群
- プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症
- CD8欠損症
- ZAP-70欠損症
- MHCクラスI欠損症
- MHCクラスII欠損症
- 1から9までに掲げるもののほか、複合免疫不全症
(2) 免疫不全を伴う特徴的な症候群
- ウィスコット・オルドリッチ(Wiskott-Aldrich)症候群
- 毛細血管拡張性運動失調症
- ナイミーヘン染色体不安定(Nijmegen breakage)症候群
- ブルーム(Bloom)症候群
- ICF症候群
- PMS2異常症
- RIDDLE症候群
- シムケ(Schimke)症候群
- ネザートン(Netherton)症候群
- 胸腺低形成(DiGeorge症候群、22q11.2欠失症候群)
- 高IgE症候群
- 肝中心静脈閉鎖症を伴う免疫不全症
- 先天性角化不全症
(3) 液性免疫不全を主とする疾患
- X連鎖無ガンマグロブリン血症
- 分類不能型免疫不全症
- 高IgM症候群
- IgGサブクラス欠損症
- 選択的IgA欠損症
- 特異抗体産生不全症
- 乳児一過性低ガンマグロブリン血症
- 1から7までに掲げるもののほか、液性免疫不全を主とする疾患
(4) 免疫調節障害
- チェディアック・東(Chédiak-Higashi)症候群
- X連鎖リンパ増殖症候群
- 自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)
- 1から3に掲げるもののほか、免疫調節障害
(5) 原発性食細胞機能不全症および欠損症
- 重症先天性好中球減少症
- 周期性好中球減少症
- 1および2に掲げるもののほか、慢性の経過をたどる好中球減少症
- 白血球接着不全症
- シュワッハマン・ダイアモンド(Shwachman-Diamond)症候群
- 慢性肉芽腫症
- ミエロペルオキシダーゼ欠損症
- メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症
- 4から8に掲げるもののほか、白血球機能異常
(6) 自然免疫異常
- 免疫不全を伴う無汗性外胚葉形成異常症
- IRAK4欠損症
- MyD88欠損症
- 慢性皮膚粘膜カンジダ症
- 1から4に掲げるもののほか、自然免疫異常
(7) 先天性補体欠損症
- 先天性補体欠損症
- 遺伝性血管性浮腫(C1インヒビター欠損症)
- 1および2に掲げるもののほか、先天性補体欠損症
※PIDは、HIV感染により免疫力が低下するエイズなど、生まれつきではない「後天的免疫不全症候群」とは区別されます。
PIDでは、感染に対する抵抗力が低いため、風邪症状(咳や鼻水など)がなかなか治らず、発熱、肺炎、中耳炎、膿瘍(膿が溜まった状態)、髄膜炎などを繰り返し起こします。重篤な感染症は、入院治療が必要なだけでなく、命に関わることもあり、また、繰り返す中耳炎による難聴、繰り返す肺炎による気管支拡張症なども起こり得ます。好中球に問題がある場合や、抗体産生に問題がある場合(液性免疫不全)には「細菌感染」が多く、T細胞などの異常では「ウイルス感染」「真菌感染」が多い傾向があるとされています。また、感染症を起こしやすいのではなく、炎症、湿疹、自己免疫症状、リンパ節腫大、悪性腫瘍(がん)、アレルギーなどが見られるような疾患も、PIDとして多数発見されています。
難病情報センターのウェブページには、PIDを疑う10の兆候として、以下が挙げられています。
- 乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良が見られる。
- 1年に2回以上肺炎にかかる。
- 気管支拡張症を発症する。
- 2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎(ほうかしきえん、皮膚とその下の組織の細菌感染症)、敗血症、皮下膿痬、臓器内膿痬などの深部感染症にかかる。
- 抗菌薬を服用しても2か月以上感染症が治癒しない。
- 重症副鼻腔炎を繰り返す。
- 1年に4回以上、中耳炎にかかる。
- 1歳以降に、持続性の鵞口瘡(がこうそう、口の中にカンジダという白いカビが感染した状態)、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅(ゆうぜい、いぼのこと)が見られる。
- BCGによる重症副反応(骨髄炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貧食症候群に罹患したことがある。
- 家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、PIDを疑う家族歴がある。
これらのうち1つ以上が当てはまる場合は、PIDが疑われる場合は、主治医を通して診断、治療について専門家(専門施設)に相談するようにしてください。
原発性免疫不全症候群の個々の疾患は、希少疾患であり、その経過は疾患や重症度により大きく異なるため、専門の施設で診断、治療、経過観察を受けることが重要となります。軽症な場合、抗菌薬の予防内服やヒト免疫グロブリンの定期補充療法などを受けることで、通常の日常生活が送れている人もいます。一方、重症複合免疫不全症では造血幹細胞移植を受けなかった場合、多くは2歳を待たずに命を落とすことになります。予防内服をしていても、一定の年齢を超えると予後不良になる疾患もあります。例えば、予防内服をしていても30歳以上で予後不良となる慢性肉芽腫症などは、造血幹細胞移植が行われる場合もあります。
PIDの患者さんは、出生約1万人に1人の割合で生まれます。中でも比較的頻度が高いX連鎖無ガンマグロブリン血症と慢性肉芽腫症は、それぞれ国内に500~1,000人いると推定されています。最も重症とされる、重症複合免疫不全症の患者さんは、出生約5万人に1人の割合で生まれるとされており、日本では1年に200人ほど生まれていると考えられています。発症年齢は、X連鎖無ガンマグロブリン血症など、抗体が作られない疾患では、母親から胎盤を通して受け取っていた抗体がなくなる生後3か月~2歳頃から発症する傾向があります。また、好中球やT細胞の機能異常による免疫不全症の場合、生後早期に発症する傾向があります。
PIDは、国の指定難病対象疾患(指定難病65)、および、小児慢性特定疾病の対象疾患(疾患群10.免疫疾患)です。医療費助成の対象とならないケースもあるため、主治医とよく相談するようにしてください。
PIDの個々の疾患の特徴などについて、患者さん・ご家族に向け、簡単に説明された資料がPIDJ(Primary Immunodeficiency Database in Japan)により公開されています。
何の遺伝子が原因となるの?
PIDに含まれる疾患の多くは、免疫の仕組みに関して働いているタンパク質の設計図となる遺伝子の変化が原因で発症します。近年、遺伝子解析が急速に進んだことで、代表的なPIDの原因遺伝子はほとんどが解明されており、確定診断や治療に役立っています。PIDに含まれる、極めてまれな疾患の原因遺伝子も次々と発見されており、その数は400以上になっています。一方、乳児一過性低ガンマグロブリン血症や自己免疫性好中球減少症など、遺伝性ではなく、一時的な免疫系の未熟性や自己抗体により発症すると考えられている疾患も、PIDには含まれています。
PIDに含まれる疾患は、原因遺伝子も多岐にわたるため、遺伝形式もさまざまです。比較的、X連鎖性の遺伝形式をとる疾患が多く(X連鎖無ガンマグロブリン血症、X連鎖重症複合免疫不全症、X連鎖高IgM症候群、X連鎖慢性肉芽腫症、ウィスコット・アルドリッチ症候群など)、これらは基本的に男児にのみ発症します。常染色体劣性(潜性)、または、常染色体優性(顕性)遺伝形式を取る疾患では、発症者に男女差はありません。常染色体優性(顕性)遺伝形式の疾患では、親子で同じ疾患を発症しても、症状や発症年齢などが異なる場合もあります。また、親には遺伝子変異がなく、子どもで初めて発症する「孤発例」の場合もあります。
どのように診断されるの?
PIDの各疾患は、国際免疫学会の原発性免疫不全症分類専門委員による分類(上記「どのような病気?」参照)に準じ、原発性免疫不全症候群の診断基準・重症度分類および診療ガイドラインの確立に関する研究班、および、日本免疫不全症研究会の作製した診断基準を用いて診断されます。個々の疾患の診断基準は、難病情報センターのウェブサイト「原発性免疫不全症候群(指定難病65)、概要・診断基準等(厚生労働省作成)」に記載されています。
自治体によっては、PIDの新生児スクリーニングを、オプショナル検査として受けることができます。詳しくは、こちらからご確認ください。
どのような治療が行われるの?
疾患の種類や重症度により治療法はさまざまで、その人の疾患に適切な治療法が選択されます。
感染症が問題になる軽症例では、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬の予防内服が効果的です。抗体が作られない免疫不全症では、月1回ほどのヒト免疫グロブリン製剤の定期補充(月に約1回の静脈注射、あるいは、1~2週に1回の皮下注射)が、感染予防に効果的です。また、好中球減少症ではG-CSFの定期投与が、慢性肉芽腫症ではIFN-γの定期投与が効果的です。
重症複合免疫不全症などの重症なタイプでは、早期に臍帯血や骨髄による造血幹細胞移植が選択されます。ドナーがみつからない場合、海外では、疾患によって遺伝子治療が考慮されます。
疾患によっては、免疫抑制剤やステロイドなどの治療が行われる場合もあります。
日常生活では、感染症にかからないように気を付けます。手洗い、うがいなど、しっかり行いましょう。また、風邪やその他の感染症に罹患している人には、その期間は会わないようにしましょう。生肉、生魚、生卵も、通常は食べないようにします。疾患によっては、泥遊び、滅菌していない水を飲む、プールに入る、直射日光を浴びる、CT検査を受ける、なども避けた方がいい場合があります。何をどの程度気を付けるかは、疾患によって異なるため、日常生活上の注意点についても、主治医とよく相談するようにしましょう。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で原発性免疫不全症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 東北大学病院小児科
- 筑波大学医学医療系小児科
- 防衛医科大学校病院小児科
- 東京医科歯科大学小児科
- 国立成育医療研究センター免疫科
- 岐阜大学大学院医学系研究科小児科学教室
- 広島大学病院 小児科
- 九州大学医学部 小児科
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
原発性免疫不全症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター 免疫疾患の疾患一覧
- 原発性免疫不全症候群の診療ガイドライン改訂、診療提供体制・移行医療体制構築、データベースの確立に関する研究
- 患者・家族のための原発性免疫不全症候群疾患概説書
- 一般社団法人日本免疫不全・自己炎症学会 PID新生児スクリーニング