どのような病気?
シルバー・ラッセル症候群は、胎児の時からの成長の遅れ、特徴的な顔立ち、非対称な身体つきなど、さまざまな症状が見られる遺伝性疾患です。
この病気を持つ赤ちゃんは、胎児の頃から成長が遅く、多くの場合、低体重で生まれます。生まれてからも成長速度は遅く、平均的な成長マイナス2SD(標準偏差の値を2倍にしたもの)以下の低身長となる傾向があります。身長や体重以外にも、運動機能の発達や知的発達の遅れ(知的障害)、性発育不全が見られることもあります。食欲がなく、あまり食事がとれないことで低血糖を何度も引き起こすこともあります。また、この病気を持つ人は大人も低身長であることが多いとされます。
顔立ちは、広くて突き出た額にとがった小さな下あごといった逆三角の形が特徴です。頭が大きく見えるのは、他の部位が小さく比較したときに大きく見えるためであり、頭囲は正常であるとされます。また、患者さんの6~8割で、両手と両足の長さや太さが左右非対称もしくは不均一に成長します。これらの顔立ちや非対称性は、通常は年齢によって変化し、幼児期から青年期にかけて、次第に顕著ではなくなるとされています。
その他の特徴として、第5指(小指)の短縮または湾曲、消化器系の異常(胃食道逆流、食道炎)、嚥下障害や心合併症(肥大型心筋症、心奇形、不整脈)など、幅広い領域において症状が見られることがあります。
シルバー・ラッセル症候群で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 青色強膜(白目の部分が青く見える状態)、悪液質(食欲不振、体重減少、骨格筋量減少などが生じる状態)、摂食困難、子宮内胎児発育遅延、耳介低位(低い位置の耳)、発育遅延、前額部突出、相対的大頭症、低身長、逆三角形の顔 |
良く見られる症状 四肢骨格の形態異常、男性外性器異常、踵骨の形態異常、関節痛、左右非対称の成長、第5指(小指)の湾曲、便秘、停留精巣(精巣が陰嚢内に収まっていない状態)、筋肉量の減少、小精巣、頭蓋骨縫合閉鎖の遅延、骨格成熟の遅延、叢生(歯が重なりあって生える)、下がった口角、発育不良、胃食道逆流症、甲高い声、低い位置で後方に傾いた耳、下肢非対称、小顎症、運動発達遅滞、早発副腎皮質性第2次性徴、早産で生まれる、肩のくぼみ、睡眠障害、薄い口唇、上肢非対称 |
しばしば見られる症状 膣形態異常、心血管疾患、泌尿器系の異常、自閉症的行動、カフェ・オ・レ斑、新生児期の全身性筋緊張低下、多汗症、尿道下裂(尿道の開口部が陰茎の先ではなく下側にある)、軽度の知的障害、肥満、小頭症、思春期早発症、サンダルギャップ(足の親指と人差し指の間が広く開いている状態)、脊椎側弯症、出生後の小頭症 |
シルバー・ラッセル症候群の症状の程度は、個人によって大きく異なり、影響が軽度である場合もあれば、深刻な合併症を持つ場合もあります。可能性のある症状の範囲も幅広く、さまざまな体の部分に影響する場合もありますが、すべての人に全く同じ症状が見られるわけではありません。
この病気の正確な有病率はわかっていませんが、世界で3万人~10万人に1人の頻度で発生していると推定されています。難病情報センターの平成24年度の報告によれば、国内の患者数は約500人~1,000人程度(2009年インプリンティング関連疾患調査研究班報告)となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
シルバー・ラッセル症候群の原因として、これまでに多数の候補領域が報告されています。その中でも、よく知られている遺伝的要因は11番染色体の11p15.5領域と7番染色体の領域です。
この2つの領域にはどちらも、ゲノムインプリンティングとよばれる現象が起こる遺伝子のグループが含まれています。ゲノムインプリンティングとは、両親から受け継いだどちらかの遺伝子が働かないように化学変化(主にメチル化)が起こることで、遺伝子の配列自体は変化せずに片方の親由来の遺伝子だけが働く仕組みです。ヒトの染色体は通常、父親と母親から1本ずつ受け継ぎ、ほとんどの遺伝子では、両方由来の遺伝子が細胞内で働く(発現する)状態になっています。しかし、一部の遺伝子では、父親から受け継いだものだけ、あるいは母親から受け継いだものだけが発現する必要があります。ゲノムインプリンティングは、父母由来のそれぞれ決められた特定の場所で、遺伝子の働きが調節される、重要な仕組みです。
11p15.5の領域におけるこの病気の原因として、ゲノムインプリンティングを受ける遺伝子のメチル化状態が足りないこと(低メチル化)が報告されており、シルバー・ラッセル症候群の患者さん全体の約30〜50%がこの原因を持つとされています。この領域に含まれる、H19遺伝子、IGF2遺伝子は成長に重要な役割を持つと考えられており、低メチル化によって、これらの遺伝子の調節が正しく働かなくなることが、この病気の症状を引き起こすと考えられています。
また、7番染色体に母親性2倍体と呼ばれるタイプの片親性2倍体(UPD)が起こることは、症例の約7~10%の原因として知られます。母親性2倍体とは、ある染色体において、何らかの理由でぞれぞれの親から1本ずつ引き継がれるのではなく、母親だけから両方のコピーを引き継いだ状態で、これも原因として知られています。7番染色体領域においても、ゲノムインプリンティングを受ける遺伝子は、父母由来に応じて正しく調節されている必要がありますが、UPDによって母親由来の2つの働く遺伝子コピー、もしくは2つの働かない遺伝子コピーをもつことになり、遺伝子調節のバランスが崩れ、病気の発症を引き起こすと考えられています。
しかし一方で、この病気の人の約40%において、これらの2つとは別の遺伝要因が報告されており、まだはっきりとした原因は不明となっています。
シルバー・ラッセル症候群はほとんどの場合、孤発例で両親からの遺伝とは関係なく発症します。しかし、まれにシルバー・ラッセル症候群が家族性で認められることもあります。この場合、常染色体優性(顕性)遺伝形式または常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。常染色体優性(顕性)遺伝では、両親のどちらかがシルバー・ラッセル症候群だった場合、子どもは50%の確率でシルバー・ラッセル症候群を発症します。常染色体劣性(潜性)遺伝の場合、両親がともに遺伝子の片方に変異を持つ(保因者)場合、子どもは4分の1の確率でシルバー・ラッセル症候群を発症します。また、2分の1の確率で保因者となり、4分の1の確率でこの遺伝子の変異を持たずに生まれます。
どのように診断されるの?
米国のワシントン大学を中心としたスタッフが運営している遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」によれば、この病気を持つ人は多くの場合、遺伝的要因がさまざまであることが多いため、診断は基本的に共通する特徴、特に出生前や出生後の発育遅延があり、頭囲が正常であることをもとにして行われると記載されています。
また、臨床的診断において、国際的にコンセンサスのあるNetchine-Harbison臨床スコアリングシステム(NH-CSS)では、1)妊娠週数よりも胎児が小さいこと、2)出生後の成長が遅れる、3)出生時に頭囲が相対的に大きいこと、4)前頭の隆起もしくは額が目立つ、5)体に非対称性があること、6)摂食困難またはBMIが低い、といった内容の6つの基準のうち少なくとも4つを満たしている場合において、臨床的診断でこの病気の疑いありとなり、遺伝学的検査の結果とあわせて診断が確定されます。
国内においてはまだ確立した診断基準がありませんが、難治性疾患等政策研究事業の研究班が作成したシルバー・ラッセル症候群の診断基準の主症状、副症状、重症度分類は以下のように公開されています。
【主症状】
- 胎児発育遅延
- 生後成長障害
- 特徴的顔貌(相対的大頭、突出した前額、逆三角形の顔など)
【副症状】
- 骨格の左右非対称
- 第5指の短小、内湾(湾曲)
- 合指症
- 言語発達の遅れ
- 摂食障害
- 口角の下降
- 筋緊張低下
- 運動発達(運動技能)の遅れ
- 不整な歯(叢生など)
- 猿線(独特な手のひらのしわ)
【重症度分類】
- コントロール不能な糖尿病もしくは高血圧
どのような治療が行われるの?
シルバー・ラッセル症候群を治す根本的な治療法はまだなく、発育の遅延や低成長に対して成長ホルモン製剤による治療が行われるなど、対症療法が中心となります。この病気は、胎児の頃から広い範囲の身体的、機能的な異常が見られるため、さまざまな関係する診療科が連携し、病気に伴う影響や合併症を予防・軽減する治療が行われます。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でシルバー・ラッセル症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
シルバー・ラッセル症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- NORD
- GeneReviews
- 医薬基盤・健康・栄養研究所 難病情報資源研究室「先天性異常疾患の年齢別診療の手引き」