当事者へ必要な情報を届けるために、シルバー・ラッセル症候群ネットワーク

遺伝性疾患プラス編集部

成長の遅れ、低身長、特徴的な顔立ち、非対称な身体つきなど、多様な症状が現れるシルバー・ラッセル症候群。生じる症状の種類・重症度の度合いなどは、個人によって大きく異なります。

今回ご紹介するのは、当事者・ご家族支援を行うシルバー・ラッセル症候群ネットワーク。代表役員の近藤健一さんは、ご自身もシルバー・ラッセル症候群をお持ちです。20代の頃に経験した入院治療をきっかけに、病気のことを詳しく知りたいと強く感じるように。情報を調べる中で、シルバー・ラッセル症候群について明らかになっていないことが多くあると知りました。また、同じシルバー・ラッセル症候群の当事者であっても症状や重症度が異なるため、当事者同士で経験を共有するだけでは課題を解決できない現状も目の当たりにしました。

こうした背景から、近藤さんは現在、同ネットワークでさまざまな当事者の情報を集約しており、当事者に必要な情報を適切に届けることを見据えて活動をしています。そんな近藤さんに、ご自身の経験や同ネットワークの活動について、お話を伺いました。

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シルバー・ラッセル症候群ネットワーク代表役員 近藤健一さん
団体名 シルバー・ラッセル症候群ネットワーク
対象疾患 シルバー・ラッセル症候群
対象地域 全国
会員数 30家族
設立年 2012年
連絡先 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURL https://srsnet.web.fc2.com/
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主な活動内容 シルバー・ラッセル症候群の当事者が安心して治療を受け、生活できる社会を目指して活動中。シルバー・ラッセル症候群の実態把握、研究促進、エビデンスに基づいた情報発信を行っている。

病気は“個性”と教えられてきた幼少期、入院を経て「知りたい」と思うように

近藤さんがシルバー・ラッセル症候群と診断を受けられた経緯を、教えてください。

0歳時に診断を受けたと聞いています。現在37歳なので、生まれてからもう40年近く病気とともに生きてきました。低体重児として生まれた私は緊急を要する状態だったそうで、県立のこども病院に運ばれ、治療を受けていました。当時、私の手足の大きさが左右で異なることに母親が気付き、診断につながったそうです。シルバー・ラッセル症候群の場合、診断までに時間がかかる方もいるので、自分は奇跡的に早く診断がついたのだと思います。

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幼少期の近藤さん

また、幼少の頃から「シルバー・ラッセル症候群」という自身の病名は知っていたものの、病気の内容を詳しく知らずにいました。シルバー・ラッセル症候群が難病であることも、20歳を過ぎるまで知りませんでした。医師や家族からは、「他の人より少し体が小さいだけ。たくさんある“個性”の一つだよ」と教えられていたためです。そのため、低身長など、症状ごとに、それぞれの診療科で対症療法を受けてきました。

その後、ある出来事をきっかけに、病気との向き合い方が大きく変わっていきました。

病気との向き合い方が変わったのは、どういった出来事からですか?

23歳の頃に経験した、合併症の糖尿病発症とそれに伴う入院治療です。最初は、よく知らない糖尿病という病気になったことに対して、不安を感じていました。でも、医師から糖尿病がどんな病気であるかの説明を受けたことで安心できました。糖尿病について理解したことで、「この病気と共に生きていける」と自信がついたのだと思います。

一方、長く共に生きてきたシルバー・ラッセル症候群について、よくわかっていない自分にも気付きました。それまでも、働く中で「“個性”だけでは、説明できないのではないか…」と感じることはありました。症状を理由に、うまくいかないことが生じていたためです。しかし、この入院治療をきっかけに、「シルバー・ラッセル症候群のことを知りたい」と、考え方が変わっていきました。

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入院治療をきっかけに「シルバー・ラッセル症候群のことを知りたい」と、考え方が変わった(写真はイメージ)
シルバー・ラッセル症候群の情報は、どのように調べられましたか?

最初はインターネットで調べたり、国立国会図書館に行って資料を調べたりしていました。調べる中で、シルバー・ラッセル症候群について、まだわかっていないことが多くあることを知りました。

そこで次に、シルバー・ラッセル症候群を診ている病院を探して、医師に直接聞きに行くことにしました。電話で断られそうになりながらも、何とか医師につないでいただきました。そのことがきっかけで遺伝子検査を受け、改めてシルバー・ラッセル症候群だと確認することもできました。

当事者・ご家族の「わからない」を「わかる」に変えていく 

シルバー・ラッセル症候群ネットワーク設立のきっかけを、教えてください。

同じシルバー・ラッセル症候群を持つ当事者・ご家族にとって必要な情報を集めるために、団体が必要だと考えたためです。前身となるグループ(シルバー・ラッセル症候群のお子さんを持つ親御さん向けの会)を引き継ぐ形で、シルバー・ラッセル症候群ネットワークを設立しました。

立ち上げを決めた時、私の家族は心配していたそうです。団体の運営は簡単なことではないため、私自身に負担がかかることを心配していました。また、シルバー・ラッセル症候群を“個性”と捉えて育ててくれたので、病気として向き合うことも心配していたようです。今では活動のことを理解し、応援してくれています。

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シルバー・ラッセル症候群ネットワーク キャラクター
シルバー・ラッセル症候群の当事者・ご家族を取り巻く課題には、どのようなものがありますか?

現状、当事者が必要とする情報へアクセスができていないことが課題の1つだと感じています。それぞれの当事者ごとの経験ベースでの情報提供は、可能かもしれません。ただ、シルバー・ラッセル症候群の場合、重症度の度合いや症状の現れ方の個人差が大きいため、その方の経験が、必ずしもご自身に当てはまるとは限らないのです。そのため、さまざまな当事者の情報を集約することが大切だと考えています。

設立から10年目の節目に、運営体制・活動内容をリニューアルされたのはなぜですか?

当事者・ご家族の情報を記録し、集約するための活動を重点的に行っていくためです。情報が集まることで、当事者・ご家族はもちろん、これから新たに診断を受ける方々へのサポートにもつなげていきたいと思います。当事者・ご家族が「わからない」と感じていることを「わかる」に変えていくために活動したいと考え、リニューアルしました。

また、持続可能な活動を目指すことも理由の1つです。近年、私自身が体調を崩したことなどもあり、無理のない範囲で活動を続けたいと考えています。

現在の活動内容を教えてください。

まず、NPO法人ASridと一緒に行っている「J-RARE(ジェイレア)」の活動です。これは、シルバー・ラッセル症候群など、希少疾患の当事者の方々の情報を記録して集約する患者情報プラットフォームです。ここで集められた情報は、最終的に当事者・ご家族に還元されることを目的に専門家へ提供されています。シルバー・ラッセル症候群については、まだよくわかっていないことが多いため、私たちの情報をきっかけに研究が進んでくれたらと考えています。

次に、シルバー・ラッセル症候群を「指定難病」「小児慢性特定疾病」の対象疾患とするための活動です。これは、当事者・ご家族からの声がきっかけで始めました。シルバー・ラッセル症候群には根本的な治療法がなく、対症療法が必要となります。対症療法の一つに、成長ホルモン製剤による治療があります。自治体が設けている子ども医療費助成が終了する年齢になると、その分の治療費を負担しなければなりません。「指定難病」「小児慢性特定疾病」の対象疾患となることで、こういった治療費用の負担を少しでも軽減できないかと考えています。

その他、コロナ禍前は、学会へのブース出展や、講演会・交流会などのイベントも開催していました。今後は、自身の体調も考慮しながら、オンラインによるイベント開催なども考えていきたいと思います。

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講演会を開催した際の車座セッションの様子

「過去の自分」の記録が、「今の自分」を救ってくれることもある

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

ご自身やご家族の病気が遺伝性疾患や希少疾患であったりすることで、きっと心細い日々をお過ごしのことかと思います。ご自身の知りたい情報を思うように得られないことも、一つの理由かもしれません。私自身、シルバー・ラッセル症候群についてわからないことが多く、とても心細く感じています。けれど、当事者の方々とのつながりが励みになりますし、勇気をもらうこともあります。さらに、他の疾患の方々との交流を通じて、多くのことを学ばせていただきました。これからも、疾患を問わず、さまざまな当事者の方々とつながり、学ばせていただきたいと思います。

また、ご自身の疾患について、研究途中でわからないことが多い場合もあるでしょう。そんな時は、ぜひ記録をつけてみてください。時に、過去の自分の記録が今の自分を救ってくれることもあります。シルバー・ラッセル症候群ネットワークが参加している「J-RARE」のようなプラットフォームを活用するのも、選択肢の一つだと思います。

とはいえ、記録を残し続けることは決して簡単なことではありません。例えば、自動でさまざまな数値を記録できるようなシステムの開発など、当事者の負担が軽減されるような仕組みがつくられていくと良いですね。そして、当事者の情報が研究に役立てられ、私たちの疾患について、より多くが明らかになることを願っています。

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苦しかった時に書いた近藤さんのメモ 〜未来に希望を託して〜

0歳の頃に診断を受けていたものの、シルバー・ラッセル症候群のことを詳しく知らずに幼少期を過ごしたという近藤さん。成人後、入院治療をきっかけに、シルバー・ラッセル症候群を知るための活動が始まりました。

現在は、シルバー・ラッセル症候群ネットワークの活動を通じて、さまざまな当事者の情報集約に注力されています。個人によって症状や重症度が大きく異なるシルバー・ラッセル症候群。今後、当事者の情報集約が進むことで、当事者・ご家族が知りたいと思う情報へアクセスしやすくなることが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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