スミス・マギニス症候群

遺伝性疾患プラス編集部

スミス・マギニス症候群の臨床試験情報
英名 Smith-Magenis syndrome
別名 スミス・マゲニス症候群、SMS、17p11.2モノソミー、染色体17p11.2欠失症候群
海外臨床試験 海外で実施中の試験情報(詳細は、ページ下部 関連記事「臨床試験情報」)
発症頻度 約1万5,000人に1人と推定
日本の患者数 30~50人と推定(令和4年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数4人)
子どもに遺伝するか ほとんど遺伝しない(孤発例)が、まれに遺伝する場合もある
発症年齢 乳児期から
性別 男女とも
主な症状 特徴的な顔立ち、行動特性、発達遅延、睡眠障害など
原因遺伝子 17番染色体にあるRAI1遺伝子
治療 対症療法(手術、てんかんに対する薬物療法、発達遅滞に対する言語療法、理学療法、作業療法など)
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どのような病気?

スミス・マギニス症候群は、体のさまざまな部分や行動において症状がみられる病気です。主な症状として、特徴的な顔立ち、言語能力の発達の遅れ、睡眠障害、軽度から中等度の知的障害、および行動上の特性があります。必ずしもすべての症状が現れるというわけではなく、これらの症状の多くをもつ病気とされています。ほとんどの場合家族内にスミス・マギニス症候群の方はおらず、偶発的に生まれるとされています。

症状の一つである顔立ちの特徴として、深くくぼんだ目にふっくらした頬、目立つ下顎、幅の広い正方形の顔、顔の真ん中と鼻筋は低く、口元は上唇が外側に湾曲して下向きになるという傾向が知られています。これらの顔の特徴は、通常幼児期にはそれほどはっきりせず、成長するとだんだん顕著になるといわれています。

過眠や不眠などの睡眠障害はスミス・マギニス症候群の特徴的な症状の一つで、幼い頃から現れます。また、行動上の問題も抱えることが多いとされ、気分が変化しやすい、攻撃的、不安症、衝動的、不注意だけでなく、頭をたたく、皮膚をつまむなどの自傷行為などもみられます。

その他には、聴力障害、中耳炎、斜視、先天性心疾患、腎奇形、脳奇形、低身長、内分泌障害、側弯症などがみられます。難治性てんかんや心疾患の合併症が認められた場合には、命に関わることもあるとされます。一方で、スミス・マギニス症候群の症状には個人差があり、経過についても患者さんによってさまざまです。

スミス・マギニス症候群で見られる症状

高頻度に見られる症状

気管・気管支形態異常、不安症、注意欠如・多動症(ADHD)、短頭症、短指症、広い額、皮質性脊髄路形成不全、深くくぼんだ目、乳歯萌出遅延、言語発達遅滞、低い/広い鼻梁、前頭隆起、全般的な発達遅延、しゃがれた声、反射低下、筋緊張低下、知的障害、大きい顔、顔面中部後退、神経学的な発語障害、肥満、自傷行動、睡眠障害、常同行動(同じ動きを繰り返す行動)、眉毛叢生(両側の眉毛がつながっている状態)、長胴歯、テント状の上口唇、眼瞼裂斜上(眼がつり上がっている状態)

よく見られる症状

椎体骨異常、心血管系形態異常、上向きの鼻孔、脳梁無形性/低形成、慢性中耳炎、第5指湾曲、伝音難聴、便秘、(胎児期の)胎動減弱、乳児期の成長障害、乳児期の摂食障害、歩行障害、胃食道逆流症、聴覚過敏、両眼隔離、痛覚障害、下顎突出、小さい角膜、小顎症、近視、開いた口、末梢神経障害、偏平足、脊椎側弯症、低い鼻、短い人中(唇上部の溝)、低身長、斜視、つま先の合趾症(隣り合う指がくっついている状態)、脳室肥大

しばしば見られる症状

腎位置異常、尿管異常、口蓋裂(上顎が割れている状態)、口唇裂(上唇が割れている状態)、思春期遅発症、多指症、甲状腺機能低下症、関節拘縮、小頭症、思春期早発症、腎形性不全、網膜剥離、てんかん発作

スミス・マギニス症候群は、世界で少なくとも2万5,000人に1人の頻度で発生していますが、この病気であると気付かれず、診断を受けていない人が多くいると考えられていることから、実際は、およそ1万5,000人に1人の頻度に近いのではないかと推定されています。難病情報センターによれば、国内の患者数は30~50人と推定されています。

スミス・マギニス症候群は指定難病対象疾病(指定難病202)および小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

スミス・マギニス症候群の原因は、17番染色体の17p11.2に位置する、レチノイン酸誘導遺伝子1(RAI1)の欠失や変異によると考えられています。多くはRAI1を含む17p11.2の染色体部分が欠失していることが原因となる場合が多いですが、RAI1遺伝子に変異が入っている場合もあります。ヒトの各遺伝子は2コピーあり、その一方に異常があっても、正常な遺伝子のみで十分に機能する場合もありますが、RAI1遺伝子の場合は、片方の遺伝子の変異や欠失などで正常な遺伝子が1個のみとなった場合、1つの正常タンパク質のみではうまく機能を補うことができず(ハプロ不全)、この病気が引き起こされます。

01 ハプロ不全 220128
ハプロ不全の模式図。遺伝性疾患=スミス・マギニス症候群の場合、遺伝子は「RAI1遺伝子」、タンパク質は「RAI1タンパク質」。

RAI1遺伝子は、他の遺伝子の発現を制御するタンパク質であるRAI1タンパク質の設計図となる遺伝子です。RAI1タンパク質によって調節される遺伝子の多くはまだわかっていませんが、このタンパク質は、特に脳内の神経細胞で働いており、睡眠や覚醒などの1日の体内リズム(概日リズム)に関わる遺伝子を制御していると考えられています。そのことがスミス・マギニス症候群の特徴的な症状の一つである睡眠障害の原因と考えられています。そのほか、RAI1は、脳の発達や頭と顔の骨の発達にも関与している可能性が考えられています。RAI1遺伝子の異常による他の症状への影響については明らかになっていません。

81 スミス・マギニス症候群 仕組み

スミス・マギニス症候群のほとんどの患者さんは孤発例で、突然変異により偶発的に生まれるとされています。そのため、スミス・マギニス症候群の患者さんの兄弟や姉妹が発症することはまれですが、両親の染色体に変化が見られた例も一部報告されています。

どのように診断されるの?

この病気の診断として、まず1)睡眠障害、2)短頭を伴う平坦な顔を含む特徴的な顔立ち、3)短指、4)精神発達遅滞の4つの症状があるかどうかが基準となります。

加えて、遺伝学的診断により、RAI1遺伝子を含む17番染色体短腕に欠失が認められるか、もしくはRAI1遺伝子に変異が認められた場合に、スミス・マギニス症候群の診断が確定します。

どのような治療が行われるの?

スミス・マギニス症候群には、本質的な治療はまだ確立されておらず、行動障害や睡眠障害に対する対症療法が主な治療となります。この病気は多くの症状が見られることから、さまざまな診療科が連携して、それぞれの症状や問題に対処していくことになります。発達遅滞に対しては、言語療法、理学療法、作業療法など、特徴的な行動や睡眠障害については、リハビリやカウンセリングなどの治療が行われることがあります。

一方で、新生児に心疾患や哺乳の困難などがある場合等の手術、てんかんの症状がある場合に抗けいれん薬の内服治療が行われるなど、症状や状況に応じて外科的な治療や服薬治療が行われます。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でスミス・マギニス症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

米国のスミス・マギニス症候群の患者支援団体(財団)で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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