ワルシャワ破壊症候群

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Warsaw breakage syndrome
別名 WABS、Warsaw syndrome
日本の患者数 不明
発症頻度 不明
子どもに遺伝するか 遺伝する[常染色体劣性(潜性)遺伝形式]
発症年齢 乳児期、新生児期
性別 男女とも
主な症状 小頭症、成長遅延、感音難聴など
原因遺伝子 DDX11
治療 対症療法
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どのような病気?

ワルシャワ破壊症候群は、非常にまれな遺伝性疾患です。この病気は、小頭症、成長の遅延、感音難聴のほか、体のさまざまな部分に影響を及ぼし、幅広い症状を引き起こします。最初に報告された患者さんの出身都市と、一部の患者さんで報告された染色体が切断される病態からワルシャワ破壊症候群と名付けられました。

主な特徴として、成長と発達の遅れが挙げられます。頭が通常より小さい小頭症が多くの場合に見られ、全体的な成長の遅れは出生前から始まることもあります。また、運動の発達に関しては、少数の人で軽度の遅延が見られることがあります。

知的障害と言語発達にも影響が見られます。知的障害は多くの場合、軽度から中等度ですが、重度となる場合もあります。言語発達の遅れや、学習能力の問題もよく見られます。また、内耳の中にある蝸牛(かぎゅう)と呼ばれる器官に異常が生じることによる難聴(感音性難聴)も特徴的な症状の一つです。

この病気における顔立ちの特徴として、小さく細長い顔、小さな額、頬が出ている、短い鼻と小さい鼻孔、平らな人中(鼻と口の間)、小さな下あご、耳の形の異常、短い首などがあります。

その他に、手足の骨格や形態の異常(手の小指の斜指症、足の人差し指と中指の合指症、内反足など)心臓の異常、皮膚の色素沈着、繰り返す感染症、泌尿生殖器の異常なども認められる場合があります。これらの症状の組み合わせや重症度は患者さんによって異なります。

ワルシャワ破壊症候群は極めてまれな疾患のため、正確な発症頻度や日本における患者数は不明です。これまでに世界では、少なくとも14人が報告されており、欧州の希少疾患情報サイト「orphanet」によれば、有病率は100万人に1人以下とされています。

何の遺伝子が原因となるの?

ワルシャワ破壊症候群は、12番染色体の12p11.21領域に存在するDDX11遺伝子の変異によって引き起こされます。DDX11遺伝子は、ChlR1と呼ばれる酵素タンパク質の設計図となります。ChlR1はヘリカーゼと呼ばれる酵素の一種で、 DNA に結合してDNAの二重らせんを一時的にほどくことにより、細胞分裂の際のDNA複製や、損傷したDNAの修復を行う際に必要となる酵素です。さらに、DNAが複製された後で、ChlR1はそれぞれの染色体が適切に分離されるような働きも担っています。このように、ChlR1は細胞の遺伝情報を安定的に維持するために必要です。

DDX11遺伝子に変異が生じることで、ChlR1酵素の活性が大きく低下するか、ChlR1酵素が作られずに失われ、DNAの複製と修復を助けることができなくなります。その結果、細胞分裂の阻害や、DNAの損傷が蓄積することにつながります。しかし、これらの問題が、ワルシャワ破壊症候群のそれぞれの症状につながるメカニズムについての詳細はわかっていません。

ワルシャワ破壊症候群は、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、父母から受け継いだ両方のDDX11遺伝子に変異がある場合に発症します。両親はこの病気の保因者ですが、病気の症状などは見られません。

Autosomal Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

ワルシャワ破壊症候群の国内における診断基準は確立されていません。米国の遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」では、ワルシャワ破壊症候群の診断について以下のように示されています。

ワルシャワ破壊症候群は、以下の3つの特徴的な症状が見られる場合に疑われます。

1)先天性の重度の小頭症

2)出生前や出生後の成長遅延

3)蝸牛の異常(低形成など)による先天性の感音性難聴

その他の症状や特徴について、以下が確認されます。

・知的障害、発達遅延

・骨格異常(例:母指近位部挿入、母指と第一中手骨の短縮、第5指の斜指症、足指の重なり)

  ※母指は親指、第一中手骨は親指の付け根にある骨、第5指は小指を示します

・異常な皮膚色素沈着(例:カフェ・オ・レ斑、円形皮膚炎、色素沈着低下または過剰、毛細血管拡張を伴う網状皮斑)

・先天性心血管奇形(例:動脈管開存症、心房中隔欠損症心室中隔欠損症、ファロー四徴症)

・泌尿生殖器奇形(例:陰嚢低形成、停留精巣、尿道下裂、多嚢胞腎)

・画像検査で、側頭骨画像における蝸牛異常(例:蝸牛低形成)

診断確定は、遺伝学的検査においてDDX11遺伝子の両対立遺伝子(両親から受け継いだ2つのコピー)に病原性があると思われる変異を持つ場合に行われます。

どのような治療が行われるの?

ワルシャワ破壊症候群には根本的な治療法はないため、症状に応じた対症療法が行われます。「GeneReviews」では、以下のように記載されています。

栄養状態を良くするために、必要に応じて栄養補助食品や胃ろうチューブなどが用いられます。難聴の治療には、補聴器や人工内耳、聴性脳幹インプラント(脳幹の蝸牛神経核を直接電気刺激する人工聴覚臓器)、手話・聴覚療法・言語療法などのコミュニケーションや聴覚リハビリテーションなどが行われます。

その他、心臓に異常がある場合には心臓専門医、泌尿生殖器異常がある場合には腎臓専門医や泌尿器専門医による治療が行われます。その他、必要に応じて心理学的評価、理学療法作業療法、言語療法などが行われる場合があります。

どこで検査や治療が受けられるの?

希少遺伝性疾患の診療を広く行っていることを公開しているところは、以下です。

※日本でワルシャワ破壊症候群の診療を行っている医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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