ウィリアムズ症候群

遺伝性疾患プラス編集部

ウィリアムズ症候群の臨床試験情報
英名 Williams syndrome
別名 ウイリアムズ症候群、ウィリアムズ・ビューレン症候群、小妖精顔症候群(Elfin facies syndrome)
発症頻度 7,500~1万8,000人に1人と推定(令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数49人)
海外臨床試験 海外で実施中の試験情報(詳細は、ページ下部 関連記事「臨床試験情報」)
子どもに遺伝するか ほとんどが孤発例だが、遺伝する場合もある(常染色体優性(顕性)遺伝形式)
発症年齢 胎児期から
性別 男女とも
主な症状 特徴的な顔立ち、視空間認知障害、心血管疾患(大動脈弁上狭窄など)、低身長、知的障害など
原因遺伝子領域 7番染色体7q11.23領域(微細欠失)
原因遺伝子 ELN遺伝子、LIMK1遺伝子、NCF1遺伝子、HPC-1/Syntaxin1A遺伝子など
治療 対症療法(手術、薬物治療、発達障害等に対する理学療法・作業療法など)
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どのような病気?

ウィリアムズ症候群は、7番染色体の特定の領域で25~27の遺伝子がまとまって失われることによって引き起こされる遺伝性疾患です。特徴的な顔立ち、視覚や空間の認知障害、軽度から中等度の知的障害や学習の問題、独特の性格、大動脈弁上狭窄などの心血管の異常、乳児期の高カルシウム血症など、体の多くの部分で症状が見られる病気で、乳幼児期に先天性心疾患が見つかることをきっかけに診断されることも多いとされます。

ウィリアムズ症候群の人の顔立ちの特徴は、広い額、眉間側に広がった眉毛(Medial flaring of the eyebrow)、目と目の間が狭い、腫れぼったいまぶた、星状の虹彩、低く上向きの鼻、長い人中、垂れ下がった厚い下口唇、開いた口などで、妖精の様な顔立ちと呼ばれることもあります。

この病気を持つ人は、言葉を話す、音楽を楽しむ、繰り返しによる暗記学習のような作業は得意な一方で、パズルや組み立て、絵を描くなどの視覚空間的な作業は苦労する傾向があります。性格は、外向的で話し好きという魅力的な性格を持っており、他人に対して強い関心を持つ傾向があります。注意欠陥障害、不安障害、および恐怖症なども、この病気を持つ人によく見られる症状です。

大動脈弁上狭窄症を始めとする心血管疾患は、ウィリアムズ症候群の人に多くに発生し、注意が必要な症状であるとされます。大動脈弁上狭窄症は、心臓から体に血液を運ぶ大きな血管(大動脈)が狭くなり血液が通りにくくなる症状で、息切れや胸痛だけでなく心不全につながる可能性もあります。その他にも心臓から肺への動脈(肺狭窄)や心臓に血液を供給する動脈(冠状動脈狭窄)など、さまざまな部位の血管狭窄が生じる可能性があり、この病気を持つ人は心血管症状と高血圧に対して定期的な経過観察が必要です。また、この病気を持つ人は、麻酔の使用による合併症のリスクが高いことも知られています。

その他、比較的良く見られる症状として、成長・発達面では、軽度の低身長、発達遅滞が挙げられます。身体面では、膀胱憩室などの腎泌尿器疾患、甲状腺機能低下や糖尿病などの内分泌疾患、胃食道逆流、便秘、直腸脱、結腸憩室、鼠径ヘルニアなどの消化管疾患、斜視や遠視などの眼科疾患、難聴や中耳炎などの耳鼻科疾患、脊椎湾曲、関節弛緩、関節拘縮などの整形外科疾患、矮小歯(歯の大きさが小さいこと)や咬合不全などの歯科疾患などが見られる場合があります。

ウィリアムズ症候群で見られる症状

高頻度に見られる症状

妖精のような特徴的な顔立ち(短い上向きの鼻、広い口、間隔が広い目、ふっくらした頬)、粗い顔立ち(皮膚が厚く目、鼻、口、顎の境界がはっきりしない)、面長、広い額(幅が広い)、広い額(縦に長い)、眼瞼裂狭小(まぶたがあまり開いておらず上まぶたと下まぶたの間隔が狭い)、内眼角贅皮(目頭部分を覆う上まぶた)、広い鼻梁(鼻筋)、小さい鼻、長い人中(唇上部の溝)、巨大舌、大きな口、下口唇外反、厚い下唇、開咬(噛んでいるのに前歯に隙間が空いている状態)、とがった顎、小顎症、低い位置で後に傾いた耳、突き出た耳、大耳症、頸部(首)の形態異常、骨盤の形態異常、低身長、ハスキーな声、声の異常、振戦(ふるえ)、不随意運動、錐体外路機能異常(無動症、筋硬直、不規則で落ち着きのない不随意運動や無動などの症状が起こる)、反射亢進(反射が強い)、測定障害(手足の運動を目的の場所で止めることができない)、歩行障害、歩行のバランスが悪く不安定、強度の遠視、大きな音への恐怖、聴覚過敏、発話障害、知的障害、書字障害(文字を書くことが困難)、運動失調、乳児期の成長障害、うつ、不安症、心血管疾患、神経系の形態異常、過度な親しみやすさ、社会的行動の障害、腹痛

良く見られる症状

小頭症、頬骨の低形成、小歯症、歯の形態異常、歯のエナメル質の異常、歯数不足、不正咬合、第5指湾曲、爪の形態異常、なで肩、鼠径ヘルニア、腰椎の過度な前湾、仙骨部の皮膚陥凹(おしりの中央部における皮膚のくぼみ)、外反膝(X脚)、外反母趾、偏平足、足指の爪の低形成、弛緩した皮膚、筋緊張低下、痙性(不随意の筋肉のこわばり、収縮、けいれん)、関節硬直、関節痛、脊柱後湾症、視力障害、斜視、感音難聴、慢性中耳炎、眼振誘導性頭部運動、脳血管障害、脳卒中、脳虚血、肺動脈弁狭窄症、末梢性肺動脈狭窄症、大動脈弁上狭窄症、僧帽弁逸脱症、僧帽弁逆流、動脈狭窄、高血圧、腎血管性高血圧、腎不全、骨盤腎(腎臓の位置の異常)、結腸憩室症、膀胱機能異常、肥満、便秘、悪心・嘔吐、強迫性障害、不眠症、自閉症、ADHD(注意欠如・多動性障害)

しばしば見られる症状

青い眼(虹彩)、虹彩の形成不全、後部胎生環(目の異常)、巨大角膜、歯肉肥厚、親指の内転、足首の異常、火炎状母斑(ポートワイン血管腫)、皮膚紋理異常、キアリ奇形(小脳や脳幹の一部が、脊柱へ陥入した状態)、気管食道瘻(食道と気管がつながっている状態)、前椀骨(橈尺骨)の癒合、関節骨の癒合、潜在性二分脊椎、脊椎側弯症、椎体異常、脊椎分節異常、膝蓋骨脱臼、骨格成熟遅延、骨粗鬆症、骨減少症、骨密度増加、関節過度可動性、ミオパチー(筋障害)、関節弛緩、間脳異常、皮質性小脳萎縮症、白内障、近視、緑内障、角膜混濁、扁平角膜、網膜細動脈の蛇行、流涙異常、齲歯(虫歯)、漏斗胸、動脈管開存症、うっ血性心不全、大動脈二尖弁、心筋梗塞、心肥大、心房中隔欠損、弓部大動脈瘤、心内膜異常、頸動脈形態異常、心室中隔欠損症、ファロー四徴症(心室中隔欠損、大静脈騎乗、肺動脈狭窄、右室肥大の4つを合併した状態)、大動脈騎乗(左心室から出るべき大動脈が心室中隔の上にあり、左右の心室にまたがっている)、心臓突然死、心中隔形態異常、肥大型心筋症、胃粘膜の異常、消化性潰瘍、胃食道逆流症、吸収不良、胆石症、臍ヘルニア、膀胱尿管逆流症、尿道狭窄症、尿細管間質障害、腎形成不全、過剰腎(3個以上の腎臓がある状態)、呼吸器感染症、多発性腎嚢胞、腎臓結石、腎石灰化、膀胱憩室、尿路感染症、直腸脱、多嚢胞性卵巣、停留睾丸、陰茎低形成、甲状腺機能低下症、二次性腺機能低下症、発声障害、構音障害、発達退行、早老性外観、思春期早発症

 

すべての患者さんにこれらすべての症状が起きるわけではなく、一人ひとりの患者さんの症状はそれぞれ違います。この病気を持つ人の経過としては、乳幼児期の運動発達は通常より遅く、歩行を開始するのは平均で2歳程度です。乳幼児期には離乳食の進み方が遅い、偏食が強いなどの摂食障害や夜眠らないなどの過敏症がみられますが、徐々に安定していきます。学童期では注意欠陥・多動性障害などのために心理カウンセリング等が必要となる場合があります。身体的合併症では、肺動脈狭窄は年齢とともに軽快する傾向がありますが、大動脈弁上狭窄は進行する可能性もあり、継続的な観察が必要です。また、加齢に伴って精神神経面の障害や高血圧などの症状が強くなるとされています。

ウィリアムズ症候群の有病率は7,500人から1万8,000人に1人と推定されていますが、心疾患などがない場合にウィリアムズ症候群と気づかれず、診断されていない患者さんがいると考えられており、この推定率より多い可能性があります。

ウィリアムズ症候群は国の指定難病対象疾患(指定難病179)、および小児慢性特定疾病の対象疾患です。

何の遺伝子が原因となるの?

ウィリアムズ症候群は、7番染色体の7q11.23領域の小さな欠失(微細欠失)によって引き起こされる隣接遺伝子症候群です。隣接遺伝子症候群とは、微細な欠失などによって隣接して存在する互いに機能的に無関係な複数の遺伝子が同時に壊されたり失われたりすることで起こる疾患です。ウィリアムズ症候群の場合、この7番染色体の欠失により失われる領域には25~27の遺伝子が含まれ、この中のいくつかの遺伝子の喪失がこの病気の各症状に関わっているとされています。失われる遺伝子は、患者さんによって微妙に異なり、それが一人ひとりの症状の違いにつながっていると考えられます。その中でも、ウィリアムズ症候群の人で頻度が高く失われている遺伝子としてELN遺伝子、LIMK1遺伝子、GTF2I遺伝子、GTF2IRD1遺伝子があります。

ELN遺伝子はエラスチンと呼ばれるタンパク質の設計図となる遺伝子です。エラスチンは体の関節や臓器を支える結合組織の主成分となったり、皮膚や血管に柔軟性や伸縮性を持たせたりする重要な役割を持っています。この遺伝子の機能が失われることが、この病気を持つ人の皮膚の特徴や結合組織の異常、弁上大動脈弁狭窄症などの心血管疾患に関わっていると考えられています。

LIMK1遺伝子は、細胞の形を形成するために重要なアクチンフィラメントの機能に関与し、脳内では神経細胞の成長と発達に関連するタンパク質の設計図となります。GTF2I遺伝子、GTF2IRD1遺伝子が設計図となるタンパク質は、転写因子と呼ばれ他の遺伝子を調節してタンパク質の作成を指示する機能を持ちます。GTF2Iタンパク質はTFII-IとBAP-135と呼ばれる2つのタンパク質が作られる過程に関わります。TFII-Iは細胞の成長と分裂の調整や、細胞へのカルシウムの流れを制御するなど幅広い機能を持ち、BAP-135は免疫細胞の一種であるB細胞で働くと考えられています。また、GTF2IRD1遺伝子は、脳や運動に使用される筋肉(骨格筋)の遺伝子調節に重要であるとされ、この遺伝子は頭と顔の組織の発達(頭蓋顔面の発達)にも関与していることが示唆されています。ウィリアムズ症候群の人に見られる視覚空間障害や独特な行動特性、認知障害などには、GTF2I、GTF2IRD1、LIMK1遺伝子などの欠失が関連している可能性があり、また、GTF2IRD1遺伝子の欠失は、ウィリアムズ症候群における独特の顔立ちとの関連が示唆されています。

その他にも、7番染色体上の遺伝子で、この病気の症状との関連が報告されているものがあります。例えば、NCF1遺伝子の欠失は、ウィリアムズ症候群の人が高血圧を発症するリスクに影響すると考えられています。NCF1遺伝子を欠失した場合は高血圧を発症する可能性は低くなり、この遺伝子が欠失していないウィリアムズ症候群の人は、高血圧を発症するリスクが高くなるとされます。また、HPC-1/Syntaxin1A遺伝子は神経や内分泌細胞において、ホルモンなどの伝達物質の分泌などに関与し、空間認知障害のほか、ウィリアムズ症候群で見られる優れた記憶力、豊かな音楽性などにも関与する可能性があると考えられています。

83 ウィリアムズ症候群 仕組み

ウィリアムズ症候群はほとんどの場合、親からの遺伝ではなく孤発例であり、常染色体の欠失は両親の生殖細胞の形成過程において偶発的に起こると考えられています。このため第1子がウィリアムズ症候群である場合に、第2子がウィリアムズ症候群となることはまれです。しかし、両親にウィリアムズ症候群に関連する7番染色体の関連領域に異常が見られる場合には、その子どもがウィリアムズ症候群を発症するリスクは増加します。また、ウィリアムズ症候群の遺伝形式は常染色体優性(顕性)遺伝とされています。親がウィリアムズ症候群の場合、子どもがウィリアムズ症候群となる確率は50%です。

Autosomal Dominant Inheritance

どのように診断されるの?

この病気の診断基準として1)乳幼児期からの成長障害および低身長、2)精神発達遅滞(視覚性認知障害、多動・行動異常など)、3)特徴的な顔立ち(眉間側に広がった眉毛、眼間狭小、内眼角贅皮、腫れぼったい眼瞼、星状虹彩、鞍鼻、上向き鼻孔、長い人中、下口唇が垂れ下がった厚い口唇、開いた口など)の3つの症状からウィリアムズ症候群が疑われます。

加えて、遺伝学的診断により、7q11.23の微細欠失が認められれば確定診断となります。

どのような治療が行われるの?

ウィリアムズ症候群に対する根本的な治療法はなく、それぞれの症状に応じた対症療法がとられます。また、定期的な診察を通じて合併症に対して早期に対応することが予後を改善します。

1)症状に対する治療

発達障害に対しては言語聴覚療法理学療法作業療法、摂食療法などの介入プログラムが考慮されます。また、注意欠陥障害や不安障害に対してはカウンセリングや必要な場合には薬物療法が行われます。大動脈弁上狭窄、肺動脈狭窄、僧房弁閉鎖不全や腎動脈狭窄などに対して、必要な場合には手術が行われます。高カルシウム血症に対しては、食事療法のほか経口ステロイド剤やパミドロネートの投与が行われます。不正咬合は必要な場合には歯科矯正も選択肢となります。思春期早発症には性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)を抑制するGnRHアゴニストという薬剤による治療が行われます。関節拘縮予防および改善に向けて、関節可動域訓練が行われます。その他、高血圧、遠視、中耳炎、便秘、等については一般的な治療が行われます。

2)定期的な診察

症状の進展や合併症の予防に向けて、乳幼児は2歳までは4~6か月毎に血清カルシウム濃度測定、3歳まで毎年甲状腺機能検査が行われます。また、全ての年齢で、1年毎に、医学的評価、視力検査、聴力検査、血圧測定、尿中カルシウム/クレアチニン比の検査を受けます。心臓の評価については、生後5年は毎年、その後は2~3年毎に実施されます。血清カルシウム濃度と甲状腺機能の検査は2年毎、腎臓と膀胱の検査は10年毎に実施すべきとされています。成人では糖尿病の検査、僧帽弁逸脱、大動脈弁閉鎖不全、QT延長(不整脈)、白内障に対する検査が定期的に行われます。

海外では、ウィリアムズ症候群を対象とした臨床試験がいくつか行われています。例えば、ウィリアムズ症候群における不安症状に対する薬物療法の効果を検討する臨床試験が進行中です。また、コミュニケーション能力が発達する1~7歳の時期に、親の積極的介入が行われることが効果的かどうかを検討する臨床試験も行われています。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でウィリアムズ症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

ウィリアムズ症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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