血友病遺伝子治療の最前線2023~国内外の開発・承認状況を専門医が一挙解説!

遺伝性疾患プラス編集部

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血友病は、体内で血液を固めるために必要な血液凝固因子の活性が生まれつき全くない、もしくは不十分であるために非常に血が止まりにくくなり、さまざまな症状が引き起こされる遺伝性疾患です。血液凝固因子のうち、第VIII(8)因子の活性不足が原因となる場合は「血友病A」、第IX(9)因子の場合は「血友病B」と呼ばれます。血友病の治療はこの数年で大きく進歩し、凝固因子製剤が長時間作用するタイプに改良されたことで静脈注射の回数を減らせるようになったり、皮下注射で出血抑制効果が期待できる抗体医薬が登場したりすることで、より使いやすく・より効果的になってきました。しかしどうしても、これらの治療には、定期的な「注射」が伴います。そんな中で、次世代の血友病治療として、遺伝子治療が登場してきました。血友病の遺伝子治療とは、いったいどのようなものなのでしょうか?日本でも受けることはできるのでしょうか?国内で進行・計画中の全ての血友病遺伝子治療の治験に携わっておられる、埼玉医科大学病院血液内科教授の宮川義隆先生に、詳しくお話を伺いました。また、治験コーディネーターとして、実際に遺伝子治療を受けた患者さんと日々コミュニケーションを取られている、同病院看護師の松村貴子さんにも同席頂き、現場からのお話を伺いました。

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埼玉医科大学病院 血液内科 教授 宮川義隆先生

血友病遺伝子治療の「これまで」と「いま」

血友病の遺伝子治療について、従来の治療と最も異なる点はどこですか?

ズバリ、根治が期待でき、患者さんの「人生が変わる」治療だと言える点です。血友病の治療を歴史的に見ると、1980年代に非加熱血液製剤による治療を受けた多くの患者さんがHIVに感染した、いわゆる薬害エイズ事件がありました。その後、加熱製剤や遺伝子組換え製剤が登場し、こうした感染症は避けられるようになりましたが、一方で、患者さんたちは治療のために「静脈注射をし続ける」必要がありました。例えば重症の血友病Aの患者さんであれば、年間100~140回ほど、家で静脈注射をすることになるわけです。小さい頃は母親が、小学校の高学年から自分で、ひじの内側や手の甲の血管に注射をするんですよ。簡単では無いと想像がつくと思います。この、静脈注射が難しいという問題は、皮下注射製剤の登場で一部改善されました。しかしそれでもなお、「注射をし続ける」必要はあります。

また、血友病の多くの子どもたちは、たくさんのことを我慢して過ごします。母親は出血を心配し、ジャングルジムもダメ、滑り台もダメ、あれもダメ、これもダメ…と言わざるを得ず、結局本人は外で遊びたいのに部屋の中で本を読んだり、折り紙をしていなくてはならなかったりするわけです。血友病の患者さんはほとんどが男性ですが、こうした我慢だらけの幼少期を過ごした男の子は特に思春期になると母親の言うことを聞かなくなることがあります。注射をさせてくれなかったり、「注射をしなさい」と言われることに反抗して注射をしなかったりした結果、肘と足の関節内出血を起こしてしまうというのは良く聞く話です。我慢が必要なのは、子どもの時だけではありません。例えば公園で息子とサッカーをしたくても、血友病のお父さんはボールを強く蹴ると出血しやすいので、子どもが蹴ってきたボールを蹴り返すのを控えます。

そんな中で登場してきた遺伝子治療は、「根治を期待できる」治療です。注射を続ける必要もなくなれば、やりたいことを我慢する必要もなくなることで、患者さんの人生が大きく変わり、日々の生活がとても明るくなります。これは血友病の治療における非常に大きな進歩だと思います。

血友病遺伝子治療はいつ頃から開発が始まったのですか?

血友病に対する遺伝子治療の試みは、20年以上前から行われ始めましたが、当初は失敗の連続でした。患者さんから皮膚や血液の細胞(皮膚線維芽細胞・造血幹細胞)をいったん取り出し、シャーレの中で遺伝子を導入して、それを患者さんの筋肉、あるいは外科的におなかを開いて大網(だいもう、小腸の前面にある薄い膜)や門脈内などに注射していました。これだけ大掛かりな遺伝子治療を行っても凝固因子活性は高々2%にとどまり、数週間で消えてしまうといった状況でした。また、先天性の免疫不全患者さんの遺伝子治療に、がん化のリスクが若干高い、「レトロウイルスベクター」を治療薬として用いた結果、白血病を発症した症例が報告され開発が中断されました。

その後、上記のようにいったん体外で遺伝子導入した細胞を体に戻す方法ではなく、「アデノウイルスベクター」を用いて直接体内で遺伝子導入を行う治療法も、より体への負担が軽い治療として検討されましたが、このベクターを用いると副作用として免疫反応が強く起こることが判明し、開発は中止となりました。

こうして多くの失敗を重ね、ついに、現在の「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」を用いた遺伝子治療法の開発に至りました。

血友病遺伝子治療は、「AAVベクター」を用いたことで成功に至ったというわけですね?

基本的にはそういうことになりますが、その後のさまざまな改良が今の成功につながっていると言えます。改良の一つに、「肝臓にできるだけ確実に届くAAVベクター」が挙げられます。血液凝固因子は肝臓で作られるため、遺伝子を導入したいのは肝臓の細胞です。そのため、できるだけ他の臓器には感染せずに、肝臓の細胞に到達し遺伝子導入することが望まれます。AAVベクターは静脈注射で行えるという大きなメリットがありますが、静脈から注入されると全身に回ってしまいます。そのため、ほとんどが肝臓に感染する(肝臓指向性が強い)改良型のAAVベクターが開発され、実用化されました。また、免疫原性がより低くなるような工夫も重ねられ、発熱や肝障害なども以前より少なくなりました。

さらに、ベクター側だけでなく、導入遺伝子の改良も行われました。具体的には、遺伝子のスイッチの役割を持つ「プロモーター」を、肝臓だけで働くものにしておくという工夫がなされました。これにより、肝臓以外の細胞(血管内皮細胞など)にAAVベクターが入り込んでも、不必要な場所で導入遺伝子から血液凝固因子が作られないように制御できるようになりました。加えて、血友病Bの遺伝子治療で使われている第IX因子の遺伝子は、通常の7~8倍活性が高くなる変異「Padua(パドゥーア)変異」を持つ遺伝子です。この遺伝子はイタリアで、30代で血栓を起こす患者さんで実際に見つかった変異遺伝子で、この方の母親も妹も同じ変異を持っていました。これに注目した製薬企業が遺伝子治療に応用した結果、治療に必要なウイルスベクターを、7~10分の1くらいに減らすことができ、安全性の向上にもつながりました。

こうして、肝臓になるべく行くベクターを使い、肝臓だけでスイッチが入る遺伝子プロモーターを使うことにより、二重三重に安全装置が働くだけでなく、体内に入れる遺伝子治療薬の量も、最小限に減らせるようになりました。血友病遺伝子治療はより安全・より効果的なものへと進歩してきたというわけですね。

現在国内外で承認/開発されている血友病遺伝子治療の種類とその特徴を教えてください

2023年10月現在、日本で承認された血友病の遺伝子治療薬はまだありません。一方、欧米ではバイオマリン社の「Roctavian(ロクタビアン)」が血友病A(第VIII因子活性1%以下)の、CSLベーリングの「Hemgenix(ヘムジェニックス)」が血友病B(第IX活性2%以下)の遺伝子治療薬として、それぞれ薬事承認されています。その他、開発状況は下表の通りで、全てAAVベクター遺伝子治療です。当院では、この表にある全ての遺伝子治療につき、国内での治験を実施する予定です。中でも現時点で、先行して行っているのは、ファイザー社の治験(血友病AのSB-525、血友病BのPF-06838435/SPK-9001)で、既に複数の患者さん(血友病A、血友病B)が当院で遺伝子治療を受けられています。

血友病遺伝子治療の開発状況

病型 薬剤 AAV血清型 開発企業 欧米 日本
血友病A Valoctocogene 製品名:Roctavian(TM) AAV5 BioMarin Pharmaceutica 承認 第3相試験
血友病A

Giroctocogene fitelparvovec

PF-07055480
AAV6 Pfizer Inc. 第3相試験 第3相試験
血友病A SPK-8011 Spark200 Spark Therapeutics, Inc. 第1/2相試験  
血友病B Etranacogene 製品名:Hemgenix(TM) AAV5 CSL Behring 承認 第3相試験
血友病B

Fidanacogene elaparvovec

PF-06838435
Spark100 Pfizer Inc. 第3相試験 第3相試験
血友病遺伝子治療の課題と今後の展望を教えてください

課題は大きく3つ挙げられます。1つ目は、新しい治療であるため、治療後何十年も経った時にどうなっているのか、まだ誰もわからないということです。血友病Bの遺伝子治療は、5年経っても血液凝固因子活性が約40%と安定していることが海外のデータで示されています。血友病の診断基準では、凝固因子活性が40%以上あれば正常域と言えるので、現状では、この治療でほぼ「治った」と言うことができます。また、約9割の患者さんは、凝固因子の注射を打つ必要がなくなっています。ただ、あくまでもこれらは「現状」であり、20年後にどうなのかは、まだ誰もわかりません。

2つ目の課題として、血友病Aの遺伝子治療は、5年経つと凝固因子活性が段々下がって来ることが報告されています。遺伝子治療用ベクターが体から排除されて、活性が15%くらいに落ちるようですが、その詳細な仕組みはまだわかっていません。また、この先10年後、実際に活性がもっと下がっていくのか、それとも15%程度を保つのか明らかではありません。ただ、この先も常に15%の活性が保てれば、例えば海で泳いだり、子どもとキャッチボールをしたりしても通常は出血の心配はありません。また、治療前より活性が高いので、凝固因子製剤の定期注射は不要です。激しい運動をする前に皮下注射が可能な抗体製剤と組み合わせて60%近い活性を保つなど、新しい治療法も考えられます。

3つ目の課題は、遺伝子治療を1回受けると、AAVベクターに対する抗体が体内で作られるため、原則2回目の治療は、行わないことになっているという点です。ただ、一部の製薬会社から、ベクターに対する抗体が作られていても、治療に差し支えないというデータも出てきています。また、2回目は1回目とベクターの種類を変えて、治療薬が抗体に排除されるのを避ける、といった方法なども考えられており、将来的に、追加の遺伝子治療ができる可能性はあると思っています。特に血友病Aの遺伝子治療は、繰り返し治療できるようになると、2つ目の課題の解決にもつながりますね。

このほか、現状で小児、第VIII因子・第IX因子のインヒビターを持つ人、肝硬変の人はまだ遺伝子治療の対象となっておらず、これらも今後解決すべき課題だと考えています。

実際に血友病遺伝子治療を受けた方は、治療前後でどのような変化を感じているのでしょうか?

(松村さん)そうですね、日常的に、「こんなことをすると出血しちゃうからやめておこう」といろいろ控えるようなことがあったのが、今は出血を気にせず生活できるようになったと聞いており、これが遺伝子治療によってもたらされた一番の変化なのかと思っています。

実際、治験前は定期補充療法をしていても時々「出血したので注射をしました」と報告を受けることがありました。しかし、治験薬の投与後は、皆さん定期補充が不要になり、また「出血」という言葉がほとんど聞かれなくなりました。一人だけ、出血したとおっしゃった方がいたのですが、「何もせずに自然に止まりました」と教えてくれました。また、別の患者さんは重たい本を足に落とし、「これは出血する!」と思ったけれど、あざにもならなかったそうで、「すごいですねー!」と一緒に喜びました。

遺伝子治療を受けた後の患者さんの中には、特殊免許を取ってみたり、コミュニティに所属して積極的に活動してみたりと、いろいろなことへのチャレンジを開始されている方がいる印象です。筋トレを始めたという患者さんもいます。はじめは関節がぎこちなかったけれど、今はスムーズに動くようになってきたそうです。筋肉の左右差が気になる、その差をできるだけなくしたい!と、朝晩筋トレに励んでいるそうです。しかし、遺伝子治療はまだ治験の段階のため、誰もが受けられる治療ではありません。また、皆さんで同じような結果が得られるとも限りません。今は慎重に治験の実施を進めているところです。

(宮川先生)遺伝子治療の治験を開始する前には、少なくとも6か月間、その患者さんの、その時点で受けている標準的治療での出血状況などを確認する必要があります。したがって、私たちも治験前に少なくとも半年間、患者さんたちと向き合って、「スポーツをして出血した」「ドラムを叩いて出血した」など、いろいろな生活のうえでの出来事を聞きます。そのうえで、半年後に、治療をして何が変わったのかを、一緒に体験します。

私は医師なので、治療前後の変化について、「遺伝子治療をすると凝固因子活性が1%から40%に上がり、9割の患者さんで注射が不要になる」という点を重視していましたが、患者さんからすると、「血友病であることを気にしなくなった」が第一声でした。これは、私たち医療者が予想していたことと違った、良い意味でとても大きな成果でした。

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「治療後の患者さんの中には、いろいろなことへのチャレンジを開始されている方がいる印象です」(松村看護師)

血友病遺伝子治療に関する素朴な疑問

海外で承認されている血友病遺伝子治療はどのくらい経つと日本でも承認されるのでしょうか?

早くて3年後くらいだと思います。現時点で複数の製薬企業が、当院を含めた国内での治験実施施設の選定や、患者さんへの治験参加呼びかけの準備を進めています。こうした準備には約1年かかります。また、血友病の遺伝子治療について、米国のFDAは安全性の確認のため、治験薬投与後の観察期間として5年を求めています。ただし、日本で行われる治験は、欧米で5年の観察期間を経て薬事承認された後となるので、恐らく1~2年経過時点の結果が出た頃、すなわち3年くらいで薬事承認されると私は予想しています。厚生労働省もドラッグ・ラグをできるだけなくしたいと考えており、そのこともポジティブに働くのではと思います。

血友病の遺伝子治療は点滴1回で終わるとのことですが、治療は日帰りで受けられるのですか?

日本では、厚生労働省の指導により、治験として遺伝子治療を受けた場合は入院が求められますが、米国では外来での治療が始まっています。外来で1~2時間ほどかけて点滴を受け、その3時間後に診察を受けて問題なければ帰宅します。約1割の患者さんで点滴薬の影響による発熱やじんましんが起こりますが、9割は何もなくお帰りになっています。

遺伝子治療にはウイルスベクターが使われるとのことですが、治療の後で家族にそのウイルスベクターがうつることはありますか?

基本的にその心配はありません。点滴後も公共トイレを使いますし、治療後は電車で帰っても構いません。お風呂もいつも通りに入れます。ただし、個人差はあるものの、3~6か月は精液の中にウイルスベクターが排出されるため、治療後は週に1回検査を行い、PCRでウイルスベクターが陰性になるまで、妊娠は控えて頂きます。現在国内で行われている血友病遺伝子治療はあくまでも治験のため、定期的にモニタリングしていますが、先日カナダの国際血栓止血学会で聞いた話では、海外で承認されているものに関しては、特にモニタリングせず半年経てばOKとしているところもあるようでした。

遺伝子治療を受けて、10年後にがんになったりしませんか?

20年ほど前、レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療の開発研究が行われていた時、治療を受けた複数の方が2年後くらいに白血病を発症し、このベクターによるがん化リスクについて問題になったことがありました。現在の遺伝子治療で用いられているAAVベクターは、原則としてゲノムDNAに組み込まれないため、がん化のリスクは非常に低いと考えられています。これまでのところ、AAVベクターが原因でがんを発症した血友病患者さんはおりません。

今後、より良い治療が出てくるかも知れない中で、遺伝子治療を受けるメリットは何ですか?

繰り返しになりますが、遺伝子治療により血友病が治り、定期補充療法が不要になることだと思います。今後、遺伝子治療以外の核酸医薬や抗体医薬など、新たな治療が登場するでしょう。ゆくゆくは、それらと組み合わせて治療をしていくことになる人もいるかも知れませんね。不安だからと新しいことにチャレンジしないのではなく、ぜひ前向きにチャレンジし、患者が主治医とよく相談して選んだことが正解だと思って頂きたいです。

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「ぜひ前向きな気持ちで遺伝子治療にチャレンジして頂きたいです」(宮川先生)
今後、血友病遺伝子治療にかかる費用はもっと下がっていきますか?

下がっていく可能性は十分にあると考えています。血友病Bの遺伝子治療は、先ほどお話ししたPadua変異遺伝子により、活性が約7倍に増え、点滴に必要なベクター量もその分減らせました。血友病Aも今、非臨床試験として、いろいろな遺伝子変異を人為的に起こし、活性が高いものを見つけようとしています。もしも10倍活性が高い遺伝子が作れたら、必要なベクター量は10分の1に減ります。これに伴い、コストも10分の1になるでしょう。生産能力を上げれば、さらに価格が下がる可能性も十分あると思っています。今は血友病Bの1回の治療に米国で約5億円かかりますが、将来、治療を受けやすい薬価になれば、現在十分な治療を受けられていない発展途上国の患者さんに対しても恩恵となるでしょう。

先生が実際に遺伝子治療を患者さんに紹介した時、どれくらいの方が興味を持たれますか?

私が診療している患者さんたちに「遺伝子治療を受けたいですか」と聞くと、9割が「受けたいです」と答えます。もっとも、私の所には治験に興味がある人が集まる傾向が強いのですが、興味を持つ人の方が多いと思っています。ただしこれは、「患者さんに情報がきちんと届いていた場合」の話で、この点に関して、血友病の遺伝子治療に限らず、私は日本における課題を感じています。

血友病専門医に対して行われたあるアンケートで、ほとんどの医師は「今の治療(血液凝固製剤、抗体医薬)で患者さんのほとんどは満足している」と、回答しました。ところが医師が考えるほど全ての患者さんが満足しているというわけではなく、定期的に注射をしなくてはならない、人目を避けて注射している、静脈注射が痛い・失敗する、就職がうまくいかない、など、いろいろ我慢や苦労をしている人たちも多くおられます。

患者さんたちは間違いなく「治りたい」と思っています。しかし、遺伝子治療について製薬企業が医師に声をかけても、医師が「患者さんが今の治療で満足している」と思っているので、その情報が患者さんに届いていない可能性があると考えています。日本は、薬事承認されないと、製薬企業がその治療について案内をすることができず、治験の詳しい案内もできません。一方海外では、製薬企業からの患者さん向けコンテンツがとても充実しており、患者さんが自ら情報を取りにいく体制が整っています。しかし日本には、製薬企業による患者さん向けの日本語の情報はありませんし(法律で直接患者さん向けの医薬品に関する発信を製薬企業が行ってはいけないルールがある)、英語の情報は敷居が高いと感じる人が多いでしょう。海外では、製薬会社のホームページやパンフレットに、実際に遺伝子治療を受けた人たちが元気な姿で何人も登場しているんですけどね。血友病の遺伝子治療が日本で行われているという情報が、まずは今回の記事を通じて必要な患者さんに届くことを強く願っています。

もしも、自分も血友病の遺伝子治療を受けてみたいと思った場合、どうしたらよいですか?

当院の私(宮川先生)宛に連絡をくだされば、親身にご相談に乗ります。国内の適切な医療機関を紹介することができますし、経験豊富な当院が対応することも多いと思います。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者へ向けて一言メッセージをお願い致します

(松村さん)当院では今、血友病の遺伝子治療に関して「ご自宅が遠くても安心して参加できる治験」に取り組んでおり、これはまだ他の施設では行われていない試みです。具体的には、患者さんが来院しなくても、治験のトレーニングを受けた訪問看護師が患者さんのご自宅で治験の採血をします。その検体は訪問看護師が当院まで運びます。届けられた検体を、検査し、結果を医師が確認するという流れで治験が進められています。ご自宅が遠い方でも参加しやすい体制作りをしています。

(宮川先生)血友病の遺伝子治療を受けることによって、病気を治したい、人生を明るく変えたい、と思っていらっしゃる方は、いつでも相談に乗りますので声をかけてください。これが私の願いです。

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宮川先生と松村看護師

血友病の遺伝子治療は、欧米ではで血友病A、Bそれぞれにつき承認されているものがあり、日本でも既に埼玉医科大学病院などで治験が始まっているとわかりました。一部で活性低下などの課題もあるものの、今後の治療法の進歩による改善も期待ができそうです。

松村さんは始終優しさにあふれており、宮川先生は明るく、たくさんのたとえ話を交えながら、わかりやすく説明をしてくださいました。また、この画期的な治療にかける強い想いや患者さんを想う気持ちを真剣に語ってくださいました。患者さんが十分に情報にアクセスできない課題なども教えていただけたので、遺伝性疾患プラスは、今後も血友病の遺伝子治療情報を積極的に発信していきたいと思います。(遺伝性疾患プラス編集部)

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宮川 義隆 先生

宮川 義隆 先生

埼玉医科大学血液内科教授。博士(医学)。1991年に慶應義塾大学医学部を卒業、1995年に同大学院博士課程(内科学)修了。慶應義塾大学医学部助手(内科学)、米国ワシントン州立大学医学部血液内科上級研究員、慶應義塾大学医学部(血液内科)専任講師、同准教授、埼玉医科大学病院総合診療内科教授等を経て、2022年より現職。日本内科学会認定医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本血液学会専門医・指導医、日本臨床腫瘍学会暫定指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医。

Email: miyakawa@saitama-med.ac.jp