専門医が回答!遺伝性疾患の遺伝子検査、どこで受けるの?何がわかるの?

遺伝性疾患プラス編集部

「遺伝子検査」という言葉を、最近はテレビCMやインターネット広告などでもときどき目にするようになりました。一方で、遺伝性疾患についての説明を読むと、病気によっては、「診断確定のために遺伝子を検査する場合がある」といったことが書かれています。CMで見る遺伝子検査と、診断のための遺伝子検査、これらは同じようなものなのでしょうか?同じくよく耳にするようになった、がんの遺伝子検査との違いは?また、遺伝子検査と他の検査との違いは?などなど、遺伝性疾患プラス読者のみなさまから寄せられた、遺伝子検査に関するさまざまなギモンについて、臨床遺伝専門医・指導医で、札幌医科大学医学部遺伝医学教授の櫻井晃洋先生にお伺いし、教えて頂きました。

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札幌医科大学医学部遺伝医学教授 櫻井晃洋先生

 

遺伝子検査のギモン

まずお伺いしたいのですが、遺伝子検査は、そもそもどのようなことを調べるために行われるのでしょうか?

まず言葉について整理します。病院ではさまざまな遺伝子を調べる検査が行われていますが、これらを「遺伝子関連検査」とよんでいます。実は、遺伝子関連検査の9割は感染症の検査です。例えばコロナウイルスのPCR検査は、ウイルスの遺伝子を調べているもので、これに含まれます。残りの1割のうちの9割、すなわち全体の9%程度は、がんの遺伝子を調べる検査です。その残りが、遺伝性疾患に関する、その人が生まれつき持っている体質を調べる検査です。この生まれつきの体質を調べる検査を特に「遺伝学的検査」とよんでいますが、ちょっと堅苦しい言葉なので、ここからは「遺伝子検査」とよぶことにします。

遺伝子検査は「患者さんの病気の原因を明らかにし、診断を確定する」、「今後の臨床的な経過を予測する」、「診断に基づいた最も良い治療を提供する」、という目的で行います。その意味では他の検査と異なるところはありません。ただし、遺伝子の情報はその人が生まれつき持っているもので変化しませんから、他の検査のように病状の変化や治療効果を評価する目的では行われません。

遺伝子のどの部分がどう異なることで正常や異常の判断がされるのですか?

遺伝子は、体をつくったり、体のさまざまな機能を支えたりするためのタンパク質をつくる設計図です。私たちの体が健全に機能するために必要なタンパク質を、正しいタイミングで・正しい場所(臓器や組織)で・正しい量を作れなくなったら、それは病気の原因になります。例えば、細胞の正常な働きに必要な酵素が作れなくなってしまったら、その酵素の働きを必要とする部分がうまく機能しなくなりますし、細胞分裂を制御する遺伝子が働かなくなると、細胞が必要以上に分裂を繰り返し、がん化につながることがあります。

遺伝子そのものは物質ではなく、DNAという物質に刻み込まれている「情報」です。DNAの変化が、タンパク質の設計図である遺伝子に影響を与え、そのタンパク質の働きが健康の維持に大きな影響を与えるような場合、たとえばその部分に遺伝子として刻まれていた情報が失われてしまう場合や、遺伝子として刻まれていた情報が変化することで本来のタンパク質を正しい形で作れなくなる場合、あるいは、正しい量で作られなくなる場合などを、遺伝子の変化・異常ということができます。これは、先天的な変化も後天的な変化も同じです。

DNAが変化することで遺伝子の情報が変わり、タンパク質が正しく作られなくなると遺伝性疾患になるということですか?

はい。ただし、このような場合に必ず病気になるというわけではありません。もともとDNAは一人ひとりわずかずつ異なっているのですが、その違いのほとんどは健康に影響を与えません。また、ある遺伝子が機能を失ったとしても、他の遺伝子が肩代わりをしてくれることで、病気にならない場合もあります。

そういうわけで、必ずしも単純に1つの遺伝子の変化と1つの病気が結び付いているというわけではありません。また、特定の遺伝子の変化が病気に結び付いているかどうかは、「その遺伝的な変化を持っている人に特定の症状が現れる」という、経験と知識の積み重ねによって、判断ができるようになっていきます。例えば、今まで全く知られていなかったような遺伝子の変化が見つかったときに、それが本当にその人の病気の原因かどうかは、すぐに結論が付けられません。病気の原因とならないような遺伝子の変化もたくさんあるからです。その遺伝子から作られるタンパク質の機能についていろいろな検証をしたり、たくさんの患者さんのデータを集めたり、こうしたことを手掛かりにして、ようやく判断されることが多いのです。またひとつの遺伝子が、変化の形の違いによって、全く関連がなさそうな別の病気の原因になったり、たくさんの遺伝子が同じ病気の原因になったりすることもあります。

現在行われている遺伝子検査にはどのようなものがあり、それぞれどのように役立っていますか?

検査の方法は、「DNAの配列を読む方法」「細胞の中で遺伝子の数に異常がないかを見る方法」「染色体の大きな形の異常がないかを調べる方法」など、いろいろあります。どのような遺伝子の変化が起きているのかが既にわかっている病気に関しては、さまざまな検査法の中から、その病気を診断するのに適した検査法が選択されます。検査法は、いろいろ種類がありますが、それぞれ調べる内容が違うもので、優劣はありません。しかしどれも目的は同じで、「診断をつけて、今後の経過を予測して、治療につなげる」です。

遺伝子検査が、他の検査と違うところはどこですか?

病院では、血液や尿を取って行われる検体検査や、画像検査、生理検査、病理検査など、いろいろな検査が行われます。これらはほぼ全て、その患者さんの、その検査を行う「時点」での健康状態を評価するものです。そのため、病気の進行や治療により、後日もう一度同じ検査をすれば違う結果が出るわけで、この違いを見て、病気の進行や軽快、治療効果などを評価します。

診断のために行われる遺伝子検査も、一部保険収載されるなど、既に医療のルーチンに組み込まれつつありますので、その意味では他の検査と大きな違いはありません。ただ、遺伝性疾患の遺伝子検査は生涯変わらない、その人が生まれつき持っている遺伝的な特徴を検査しているもので、検査を今日行っても、10年後に行っても、生涯のどの時点で検査を行っても症状とは関係なく結果は同じで、変わることはありません。これが、他の検査と大きく違うところの1点目です。

もう1つは、一人の検査の結果を、親、きょうだい、子どもなど、血縁者が共有している可能性があるというところです。一人の検査結果が、一人だけの検査結果ではなくなる、というわけです。これも大きな特徴です。「血縁者にも関わる」ということは、ネガティブなものとして捉えられがちですが、必ずしもそうではありません。特に治療法がある病気の場合は、一人の検査結果から、同じ病気になる可能性のある人を、場合によっては病気になる前から特定して、先手を打つことができる、非常に有用な情報だといえます。遺伝性のがんは、まさにそれに当たります。検査の結果は、場合によっては、家族も救うことができる情報なのです。

遺伝子検査の結果は「生涯変わらない」そして「血縁者にも関わる」。この2つが、他の検査と違うところとして、知っておいていただきたいと思います。

遺伝性疾患の遺伝子検査と、がんの遺伝子検査との違いがあれば教えてください

最近「がんゲノム医療」といって、がん組織を用いてがんに関連する遺伝子を一度にたくさん調べる検査が保険適用になり、がんセンターや大学病院など高度ながん診療を提供する医療機関で盛んに行われるようになってきました。同じ大腸がん、同じ肺がんでも、遺伝子のレベルで見ると患者さんごとにがんの特徴は異なります。がんゲノム医療は、遺伝子レベルでがんの特徴を明らかにし、それをもとに悪性度などのがんの性質を予測し、さらに効果が期待できる治療薬を選ぶことが目的です。

ところで、がんゲノム医療で調べているのは、がん細胞で起きている遺伝子の変化で、正常な細胞では起きていないものがほとんどです。したがって、患者さんが生まれつき持っている遺伝的な体質とは異なり、ほとんどが家族には影響しません。ここが、これまでお話ししてきた遺伝性疾患の遺伝子検査との違いです。ただ、がんの中でも数%の人は、がんに関連する遺伝子の変化を生まれつき持っています。それが遺伝性のがんです。この場合には、検査の結果は家族などの血縁者にも影響します。

インターネットなどで購入できる遺伝子検査でも、遺伝性疾患の検査は受けられますか?

インターネットで受けられる遺伝子検査にも、「糖尿病」「がん」など、病気の項目がありますよね。病院では遺伝性疾患、つまり特定の遺伝子の変化によって高い確率で発病する病気の診断を確定するために遺伝子検査が行われますが、こうした遺伝子は〇〇病の「原因遺伝子」とよばれます。原因遺伝子は、病気との関連が非常に強い遺伝子ということになります。一方、インターネットの遺伝子検査サービスで提供されている検査は、原因遺伝子を調べるものではありません。インターネットの検査で見ているのは、原因遺伝子ではなく「感受性遺伝子」と呼ばれるものです。例えば、ある遺伝子に特定の特徴があると、高血圧や糖尿病などのリスクが若干上昇するといったものです。病気のなりやすさを見るもので、原因を調べるものではありません。実際病気のなりやすさが1.2倍を超えるような感受性遺伝子はごく少数で、ほとんどは1.1倍以下というごくわずかな差しかありません。そのため、この結果からは病気の診断はできません。

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「病院で受ける遺伝子検査は「原因遺伝子」を調べる検査、インターネットの遺伝子検査は「病気のなりやすさ」を見る検査です」(櫻井先生)
インターネットでの遺伝子検査の情報で、気を付けるべきことなどあれば教えてください

先ほど「病気のなりやすさ」がわかると言いましたが、インターネットの遺伝子検査で見ている内容は、病気のなりやすさのごくわずかな差しかみることができません。ところが、「リスクが高い」という結果が戻ってくると、どのくらい高いのか実感がわかないので、不安を覚える人もいるでしょう。サービスによっては、リスクが〇倍、という客観的な数字や、さらにその数字の信頼性の程度を示しているものもありますが、こうした数字もその意味するところを正確に理解する必要があります。検査結果で不安になり、医学的根拠のない民間療法に向かってしまう人も中にはいます。また、こういった結果をもとに、医学的根拠の乏しいサプリメントなどの販売に誘導しているサービスもあります。逆に、リスクが低いという結果が出た場合に、非常に低いのだと自己解釈して、それまで行っていたせっかくの健康行動をやめてしまう人も出てきかねません。これも非常に困った問題です。こうした検査の多くには「遺伝子検査で健康管理」といったコピーが書かれていますが、検査結果をもとに提案された健康管理法は、根拠がさらに希薄です。ここは注意すべきポイントです。

遺伝子検査ビジネスで提供されている、病気のなりやすさやなりにくさについて、1つひとつの遺伝子と病気の関係は、論文から引用されており、それなりの根拠はあります。ただ、集団と集団を比べて差があったという結果を、個人に当てはめられるかというと、それはできません。例えば、学校のテストであなたのクラスの平均点は60点、隣のクラスは55点だったとします。これは、クラスの人数が多ければ統計的に明らかに差があると言えます。しかし、60点のクラスにいることは、あなたの成績を何も保証してくれません。平均60点のクラスにも、0点の人も100点の人もいるかも知れません。遺伝子のタイプも同じです。AタイプとBタイプを、多くの人数で比べたら病気のなりやすさに差があったという論文の結果から、あなたは特定の病気が心配、または大丈夫、などとは単純には言えないのです。

遺伝子検査を受ける際のギモン

遺伝性疾患の遺伝子検査は、どこの病院でも受けられますか?

答えは「ノー」です。どこのクリニックでもすぐに、というわけにはいきません。保険診療で行うことができる遺伝子検査を実施する施設について、厚生労働省は遺伝医療の専門家が在籍し、遺伝医療を提供する部門があるなど、適切な遺伝医療を行える施設であることを条件にしています。大学病院や高次医療機関は検査できる体制が整っていますし、総合病院等、検査を実施できる機関は増えてきています。

年齢制限など、受けるための条件はありますか?

遺伝性疾患の遺伝子検査は、診断を確定するための検査なので、年齢は問いません。生まれてすぐに、身体的に多くの障害を持っているとわかった赤ちゃんであれば、すぐに遺伝子を調べて診断をつける必要があるかもしれません。疑われる病気に応じて、それぞれの診断に適した検査が行われることになります。条件が患者さん側にあるというのではなく、医療者側が、その人に必要な検査かどうかを評価したうえで、必要であれば検査を提供するのは他の検査と同じです。

遺伝性疾患の遺伝子検査は、体のどこを取って行われるのですか?

生涯変わらない遺伝情報は、私たちの体を構成するほぼすべての細胞の中に収納されており、身体のどこから細胞を取ってきても同じ情報が得られます。ですので、基本的にはどの部分を取っても検査できますが、たくさんの細胞を安全かつ確実にとれるのは血液(白血球)なので、実際に医療の現場では血液を採取して行うことが多いです。インターネットで提供される遺伝子検査サービスでは唾液を使うものが多いようですが、唾液には脱落した頬の粘膜の細胞が含まれており、ここからDNAを取り出しています。

検査の結果がわかるまでにはどれくらいの時間がかかりますか?

これは、検査の内容にもよりますし、検査を受託している衛生検査所(検査会社)にもよります。あるいは、大学や病院で独自に検査をしていることもあり、その場合もかかる時間はまちまちです。最近は、特定の遺伝子検査を受託する衛生検査所ですと、2週間くらいで結果が戻ってくることが多いです。検査する遺伝子と検査方法にもよりますが、早くて1週間、長くても1か月はかからないことが大体です。

1つの遺伝子を調べる検査と、全ての遺伝子を調べる検査とで、結果がわかるまでの時間は違いますか?

病院で行われる遺伝子検査は、あくまで臨床の診断が目的です。現時点で、臨床診断を目的として全ての遺伝子を調べるという検査は、国内で提供されていません。日本医療研究開発機構(AMED)では、診断困難な患者さんの診断を確定し、病態解明や治療法の開発を見据えた未診断疾患イニシアチブ(IRUD)という研究開発プログラムを展開しています。このプログラムでは、患者さんの全ての遺伝子を調べますが、これは研究という位置づけで行われています。IRUDの場合、結果がわかるまでに3~6か月程度かかります。全ての遺伝子を調べる場合、解析自体はさほど時間がかからないのですが、そこから得られる膨大な情報に病的な意義があるのかないのか検証をするところに時間がかかるのです。

遺伝子検査を受ける場合、費用はどれくらいかかるのですか?保険適用されますか?

令和3年4月時点で、140種の遺伝性疾患や一部の悪性腫瘍の遺伝学的検査が保険適用となっています。保険適用の場合には、調べる遺伝子の種類によって検査の保険点数が3,880点、5,000点、8,000点のどれかに設定されています(1点は10円、保険適用となっているので自己負担は1~3割)。それ以外の遺伝子を調べる検査は自費になるので、費用は数万円から10万円を超えるものまでさまざまです。保険適用であっても、決して安い検査ではありませんが、一生変わらない遺伝子を調べる検査では、間違いがあってはいけません。正確な結果を出すために、精密な検証をして意義付けをする、という過程を経ますが、そこには専門的な技術と知識が必要となります。こうした理由から、それなりの費用になります。これは、世界どこでも共通です。

私は遺伝子検査を受けずに遺伝性疾患の診断を受けています。これから希望すれば遺伝子検査を受けることはできますか?

私がこのように聞かれたら、「なぜ調べたいと思いましたか?」「その結果をあなたのこれからにどのように生かしていこうと思いますか?」と、質問すると思います。遺伝子を調べる最も大きな理由は、診断を確定するためです。病気によっては、臨床像からほぼ確実に診断をつけることができる遺伝性疾患もあります。たとえば血液が固まりにくくなる血友病は、原因遺伝子を調べなくても凝固因子活性という検査で診断が確定します。調べても調べなくても、診断が変わらず健康管理法も変わらないのであれば、遺伝子をあえて調べる必要性は低いことになります。

ただ、病気によっては、遺伝子にどのような変化が起きているかによって臨床経過が変わるものもあります。また、遺伝子診断をすることで、血縁者が病気を発病する前に同じ体質を持っているかどうか調べる「発症前遺伝学的検査」にその情報を活用することができる場合もあります。こうした病気では診断が確定していても遺伝子を調べる意義はあると思います。

「疑い」と言われているものをはっきりさせたい場合に、申し出て遺伝子検査を受けることはできますか?

この場合は、診断を確定させるために有用な検査となるわけで、あり得ると思います。診断を確定する意義があるということであれば、むしろ医師側から提案すると思います。ただし、遺伝子検査はすべてクリアな結果が得られるわけではありません。遺伝子検査をしても、「疑い」のまま、ということもありえます。

検査結果に関するギモン

原因遺伝子がわかれば遺伝性疾患は治療できるようになりますか?

原因遺伝子がわかり、遺伝性疾患の診断ができるようになることは、よりよい治療を提供することにつながります。たとえばある遺伝性の不整脈では複数の遺伝子が原因になっていますが、原因遺伝子の違いによって、有効な治療が内服薬であったりペースメーカーであったり、あるいは運動を控える必要があったりなかったり、と健康管理の方法が変わってきます。病名は同じでも、遺伝子検査を行うことで、その患者さんに適する治療を提供することができるわけです。

一方、神経難病などでは、原因遺伝子がわかってもそれを治療する方法がないものが多く、遺伝子診断の有用性には限界がありました。しかし、原因遺伝子がわかると、病気のメカニズムがわかり、そのメカニズムをもととした治療法の研究が進むことになります。神経難病でも、ここ数年の間に多くの治療法が開発され、患者さんを救うことができるようになってきました。もちろん、原因がわかればすぐに治療法ができるというものではなく、病気によっては治療法の開発まで10年も20年もかかります。しかし原因がわかるということは、最終的に治療法を開発するということへの、大きなステップなのです。

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「原因遺伝子がわかることは、治療法開発への大きなステップです」(櫻井先生)
遺伝子検査を家族に伝えるのをためらってしまうのですが…

検査の結果、「子どもに同じ体質が伝わったかもしれない」と知ることで、新たな不安や悩みが生じる可能性があるのは事実だと思います。しかし、検査を受けても受けなくても、その遺伝的な体質を持っている人にとって、事実は変わりません。特に遺伝性のがんのように、治療法があるような体質がわかった場合、長い目で見れば、先手を打つことで将来の健康にとってプラスになる可能性があるわけです。このような、家族が結果を知ることが有用である遺伝性疾患も多いのですが、実際に家族に伝えるのは簡単なことではなく、ためらってしまうことも理解できます。遺伝医療・遺伝外来では、検査を受けることや、家族が結果を共有することに、どのような意味があるのかをていねいに説明して正しく理解して頂き、その結果を望ましい行動変容などに生かしていけるようになるための、お手伝いをします。これをせずに、検査だけをするというのは、遺伝医療としては極めて不適切です。検査は遺伝カウンセリングと常にセットで行われるべきことなのです。これはとても重要な点です。

実際に私が診療している遺伝外来でも、「結果を家族に伝えられない」と話される患者さんはたくさんいます。そうした語りの背景には「本当は話すべきなんだろうけれど」という思いが隠されています。そういうときに私は、「伝えるべきと考える理由は何だろう?」「伝えられない理由は何だろう?」というところから一緒に考えるようにします。人によっては5年かけて、やっと言えるようになったという人もいます。多くの患者さんが、検査の結果を家族に共有することの有用性について理解しつつ、葛藤の中で揺れ動いています。家族への情報共有は、強制するようなことではありませんし、遺伝外来では、後ろから少しずつ背中を押しながら、ご自身の中で飲み込めて前に進めるタイミングを、急がずに待ちます。

人にはたくさんの遺伝子があるのに、どうして一部の決まった遺伝子に異常が起こるのですか?

実は、一部の遺伝子に変化が起こるのではなくて、たくさんある遺伝子には、ほぼ同じように変化が起きています。先ほども説明しましたが、変化が起きても病気に結び付かないような遺伝子は、たくさんあります。そういった変化が起きても、当人は何ともないので起きていることに気付きません。一方、バックアップのない遺伝子や、細胞や組織の機能に不可欠な役割がある遺伝子などに変化が起きると、特定の病気の発症につながります。こうした一部の特定の遺伝子が、病気の原因遺伝子として目立つので、一部の遺伝子だけに異常が起きているかのように思えるのですが、実際は、意識されないいろいろな遺伝子にも変化が起きています。

同じように遺伝子の異常で発症していても、病気の種類によって患者さんの人数が違うのはなぜですか?

病気の種類によっては、変化の起きやすい遺伝子が原因となっており、比較的人数が多いものもあります。変化が起きやすい遺伝子は、遺伝子のサイズが大きかったり、構造的に変化しやすい特徴を持っていたりするものです。こうした、個々の遺伝子の大きさや構造上の特徴によって、その遺伝子に何らかの変化が起こる確率が決まってきます。また、その病気が次世代を残すことができるかどうかも頻度に影響します。具体的には、治療しなかった場合に成人まで生きられる病気なのか、生殖能力に影響がある病気なのか、といったことです。

変化の起きやすさに加え、その遺伝子に起きた変化が、すぐに病気につながるものなのか、それとも病気のなりやすさに関わる程度なのか、といったことも、病気の人数に関わってきます。遺伝性疾患というと、全て遺伝子の変化と病気が直結するように思われがちですが、同じ病気でも、100%遺伝的な原因で発症している人もいれば、30%が遺伝的な原因で残り70%は環境的な原因で発症している人もいる、といった場合もあります。どちらも同じ病気の名前がついていた場合、両者を含めるかどうかで、人数も変わってきます。

脳機能に関する遺伝子の異常は、見つかっても治療に結び付きにくいのでしょうか?

脳機能の中でも、例えば酵素の欠損などが原因であれば、不足する物質を補うことで症状を大きく改善できるものがあります。原因がわかれば最終的には治療につながることが期待でき、実際にこれまで治療法がないとされていた神経難病の治療薬が開発され、臨床で用いられるようになってきました。さらには知的障害を含む脳の高次機能に影響がある遺伝性疾患に関しても、今後さらに新たな治療法が開発されていく可能性があります。ただ、脳の機能というのは、私たちが考えている以上に複雑です。脳の正常な機能自体、まだわからないことがたくさんあります。ですから、脳の機能に関係する病気の遺伝子がわかったからと言って簡単に治療に結び付かないのは事実です。

最後に先生から、読者の方々に一言メッセージをよろしくお願いします

全ての人は、遺伝性疾患につながるような特質を数十は持っています。遺伝性疾患と無縁の人はいません。病気に関する遺伝的な特質がたまたま目立った形で表に見える人が「遺伝性疾患の患者さん」といわれ、見えていない人は、自分は遺伝性疾患とは無縁の存在だと思っています。でも、実はそこには境目は無いのです。ですので、遺伝性疾患は特別なものではなく、みんなが関わっているものだということを、知っておいてください。

もちろん、誰もが健康でいたいと思うわけですし、病気はあるより無い方が良いので、特定の病気になる、または、なりやすいということは、決してグッドニュースではありません。しかし、生まれつき持っている遺伝子の個人差は変えようがないですし、繰り返しますが、誰もが遺伝性疾患に関係した遺伝的体質を持っています。遺伝的な病気と全く無縁な人は世界中にひとりもいません。こうした遺伝に関する情報をいかに活用して健康管理に生かしていくか、これを考え、進めていくのが、私たち遺伝診療を行っている者の仕事だと思っています。まだ不十分ですが、遺伝性の病気だとわかることで、より直接的な治療に結び付く可能性も出てきます。どんな遺伝的な体質を持っていても、それに対するアプローチによって、誰もが健康上の不利益を抱えずに生活できるようになる、これが遺伝性疾患の診療、研究のゴールです。


遺伝子検査は、医療の中で特別な検査と位置付けられているものではなく、他のさまざまな検査と同様、「診断をつけて、その先の予測をして、治療につなげる」ための検査であるとわかりました。また、他の検査と違うところは、検査の結果が「生涯変わらない」そして「血縁者にも関わる」の2点で、特に後者は、場合によっては家族を病気から未然に救うことができる情報になり得るとわかりました。さらに、遺伝性疾患かそうでないかの間には、きっちりとした境目はなく、誰もが遺伝的な健康上の特性を、個人差という形で数十は持っているということも教えて頂き、目からうろこでした。櫻井先生はその他にも、遺伝子検査についての思い込みによる間違った解釈の注意点を、いろいろ教えてくださいました。それぞれの質問に対し、言葉の意味を一つひとつ確認しながら丁寧に回答してくださった櫻井先生。質問を寄せてくださった皆さんに、正しい情報を得て、前向きな情報として役立てて欲しいという強い思いが感じられました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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櫻井晃洋先生

櫻井晃洋先生

札幌医科大学医学部遺伝医学教授。医学博士。1984年に新潟大学医学部医学科を卒業後、シカゴ大学医学部甲状腺研究部研究員、信州大学医学部附属病院助手、助教授/准教授等を経て、2013年より現職。日本遺伝カウンセリング学会理事長、日本人類遺伝学会理事、日本遺伝子診療学会理事、日本内分泌学会理事・北海道支部長、臨床遺伝専門医・指導医、内分泌代謝科専門医・指導医。