NF2は聴神経に腫瘍ができる病気で、進行が速く手術は困難
慶應義塾大学の研究グループは、神経線維腫症II型(以下、NF2)に対する新たな治療法を開発し、実際の患者さんに対して臨床試験を開始しました。7人にこの治療を行った現時点で、安全性、有効性において有望な結果が得られています。
NF2は、両側の耳の奥にある「前庭神経」と呼ばれる部分に腫瘍ができる遺伝性疾患。10~20歳代での発症が多く、ほぼ全員に多数の神経系腫瘍が生じ、比較的速く進行します。最も多い症状は聴神経腫瘍による難聴やめまい、ふらつき、耳鳴りなどで、その他、けいれんや半身まひなどの重篤な症状を伴うこともあります。
手術は神経損傷の可能性が高いため難しく、放射線治療は一定の成績を示していますが、大型の腫瘍には適さず、多発腫瘍を制御することは困難で、悪性転化のリスクも報告されています。近年、分子標的薬「ベバシズマブ」の有効性が示されましたが、この薬剤は約2週間に1度の継続的な投与が必要です。
NF2の神経系腫瘍に存在の「VEGF受容体」を標的とした新治療法
開発されたのは、「VEGFRワクチン」という免疫療法の薬。これは、NF2の神経系腫瘍で発現が高くなっている「VEGF受容体」(以下、VEGFR)を標的としたワクチンです。これにより、体内で「細胞傷害性T細胞」という免疫細胞が活性化され、VEGFRを発現している腫瘍の細胞を破壊します。細胞傷害性T細胞は体内で持続的に働くため、長期効果が期待されます。
今回、「進行性神経鞘腫を有するNF2に対するVEGFR1/2ペプチドワクチンの第1/2相臨床試験」において、このワクチンが実際の患者さんに投与されました。投与された7人について解析を行ったところ、安全性、有効性について有望な結果が得られました。腫瘍が縮小した人や、聴力改善が認められた人がいたそうです。
研究グループは、「有効性・安全性はまだ確立されていませんが、今後も試験を継続し、試験の完遂を目指して尽力します」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)