2月はRDD月間。「社会的偏見」をテーマにシンポジウム開催
より良い診断や治療による希少・難治性疾患患者さんの生活の質(QOL)向上を目指して行われている、世界希少・難治性疾患の日「Rare Disease Day(以下、RDD)」。RDDは、2008年にスウェーデンから始まった活動で、日本でも2月をRDD月間とし、イベントを開催しています。
Rare Disease Day 2021のイベントの1つとして、武田薬品工業株式会社とRDD日本開催事務局は2月14日、「Rare Disease Day 2021シンポジウム-社会的偏見の解消に向けて-」を開催しました。ここでは、その内容をご紹介します。
希少・難治性疾患は、認知度が低いことから、患者さんへの社会的偏見が課題となっています。この偏見は、例えば、患者さんがご自身の経験を語る、患者さん同士で交流するといったことに消極的になるきっかけになったり、検査や確定診断に対する障壁となったりするものと想定されています。今回開催されたシンポジウムでは、「社会的偏見」をテーマに、専門家の先生方や当事者が講演。また、パネルディスカッションも行われました。
網膜色素変性症で、競泳パラアスリートの富田宇宙さん
シンポジウムでは、網膜色素変性症の当事者で、東京パラリンピック金メダル候補の競泳アスリートの富田宇宙(とみた うちゅう)さんがパネリストとして登壇。「多様性に理解のある社会を目指す」と題して講演しました。
網膜色素変性症は、目の「網膜」という光を感じる部分に異常がみられる、進行性の遺伝性疾患。暗いところでものが見えにくい、視野が狭い、視力低下といった症状が両目に現れ、ゆるやかに進行します。日本の患者数は、3万人弱程度とされています。
富田さんが網膜色素変性症と診断を受けたのは、高校2年生の頃。そこから、徐々に症状が進行し、現在の視力は「ほとんどものが見えず、わずかに光を感じる程度」だと言います。
富田さんは、症状の進行に伴い、軽度・中度・重度と、それぞれの時期に異なるスティグマを経験してきました。スティグマとは、一言でいうと「個人に押し付けられたネガティブなレッテル」のこと。病気を抱える患者さんへの偏見から、同化や排除を強いるような差別まで、いろいろあります。
さまざまなスティグマに関する経験をしてきた中で、パラアスリートになり、自分自身、変化したことがあると言う富田さん。例えば、「社会的弱者」といった偏見や差別を回避し、社会的距離を解消できるような術を身に着けたそうです。また、自己嫌悪などからうつ症状が現れていた時期もあったそうですが、自己肯定感が向上し、社会貢献への意欲も出てきたと言います。
障害、難病に限らず、多様性を包含できる社会をつくるために
富田さんは現在、病気を抱える方々へのスティグマの課題を解決し、多様性への理解を得るために活動しています。講演会やワークショップなどへも、積極的に参加されています。ご自身の経験や思いを社会へ共有することで、「障害があっても、みんなと変わらないということを、対話を通じて感じてもらいたい」と、話されました。
さらに、「自分に出来ることは微力かもしれません。でも、障害や難病に限らず、多様性を包含できる社会をつくれるように、一人でも多くの方々へ理解を広げていきたいと思います」と、締めくくりました。
弱さをオープンにでき、頑張りすぎなくても生きられる社会を考える
シンポジウムの締めくくりとして、社会的偏見の研究における第一人者であり、ご自身も脳性まひを抱えておられる東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎先生は、スティグマについて「弱さをオープンにでき、頑張りすぎない社会を考えるというのは、ひとつの結論だと思います」と意見を述べました。その理由として、「マイノリティ(社会的少数派)やマジョリティ(社会的多数派)に関わらず、皆さんが何かしらの弱さを抱えているからです」と、熊谷先生。
熊谷先生によれば、スティグマは当事者に近い立場のご家族、支援者、同僚、または本人から発生することがほとんどなのだとか。それは、その方々が悪いのではなく、「心理的安全性が低い環境」が原因で発生するのだと言います。
心理的安全性が高い環境、つまり「頑張らなくても生きられる」「弱さをオープンにできる」といったカルチャーのある環境が、スティグマへの対処への第一歩なのだと訴え、締めくくりました。(遺伝性疾患プラス編集部)