コンピューターのシミュレーションで探索
神戸大学の研究グループが、希少難病の「色素性乾皮症D群」の治療薬候補を発見したと発表しました。既に効果や安全性などのデータが存在している化合物の中からコンピューターを使ったシミュレーションによって病気の原因を解決できる可能性を見つけ出して、今後の治療実現への道を開きました。
「色素性乾皮症(XP)」は、日光を浴びた場合に皮膚の過剰な赤みや痛みなどの炎症反応が現れる日光過敏症を起こしたり、さまざまな神経の症状が現れたりする希少疾患の一つです。日本では約2万2,000人に1人の割合で発症し、米国では約100万人に1人、欧州では約43.5万人に1人の割合でそれぞれ発症するとされています。
XPにはいくつかの病型がありますが、中でも、色素性乾皮症D群(XPD)と呼ばれるタイプは特に強い炎症を皮膚に起こすと知られています。この病気の原因は、遺伝子の障害を修復するタンパク質に異常があることですが、XPDでは修復するための遺伝子「XPD遺伝子」に異常があると病気になるとわかってきました。さらに、XPD遺伝子の特定の場所が変化する「R683W変異型」では、日光を受けた後に皮膚がんになりやすく、知的障害や聴覚障害、歩行能力の喪失などの中枢神経系の異常も起こることがわかっています。
最近までに、XPDタンパク質が機能するには、エネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)と結合する能力が重要であることがわかってきました。逆に言えば、XPDタンパク質とATPの結合能力が低下すると、遺伝子の修復能力が低下するのです。XPDタンパク質とATPが正常に結合するように回復させると治療につながる可能性が考えられました。
そこで研究グループは、既に効果や安全性などのデータが存在している化合物を新しい用途に利用できないかを検証する「ドラッグリパーポージング法」およびコンピューターによる分子シミュレーションを行う「計算創薬」という方法を組み合わせ、治療薬候補の探索を進めました。2,006の化合物から、XPDタンパク質のATPに結合する場所や修復するDNAに結合する場所とは異なる場所に結合できるもので、常に同じ場所に結合するものを抽出。XPDタンパク質とATPの結合能力を回復させられるものを選び出しました。スーパーコンピュータ「京」を使った誘導適合に呼ばれる方法によって構造変化を解析しました。
XPDタンパク質の遺伝子修復
こうして突き止められたのが、「4E1RCat」という薬剤の効果が高いということです。まずは2,006の薬剤候補のうち、安定的に結合するものが152種類ありました。その上で、特にXPDタンパク質とATPの結合を回復させるものとして5種類選ぶことができました。
研究グループは、皮膚に多く存在している「皮膚線維芽細胞」を使った研究により、4E1RCatによって遺伝子修復能力を回復させられることを確認。治療薬候補として応用できる可能性があると推定されました。誘導適合の手法を使った世界初の創薬としています。(遺伝性疾患プラス編集部 協力:ステラ・メディックス)