神経線維腫症I型、良性腫瘍のがん化を血液検査で早期発見できるようになる可能性

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 神経線維腫症I型ではMPNSTというがんができる人もおり、その早期発見は重要
  2. 血液検査でびまん性神経線維腫とMPNSTの患者さんを86%の高精度で区別することに成功
  3. 同じ血液検査でMPNSTの治療効果や再発リスクも確認できる可能性

高額な画像検査や苦痛を伴う生検を、血液検査に変えられないか?

米国国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究所(NCI)がん研究センターを中心とした研究グループは、神経線維腫症I型(NF1)患者さんに生じたがんを早期に発見するための、高感度かつ安価な血液検査法となり得る方法を開発したと発表しました。この血液検査は、がんの発見に役立つだけでなく、そのがんに対する治療の効果などを医師が確認するためにも役立つものになりそうです。

NF1は遺伝性疾患の一つで、レックリングハウゼン病とも呼ばれ、世界中で約3,000に1人が罹患していると知られています。この病気は、ほとんどが小児期に診断され、NF1患者さんの約半数は、「神経線維腫」と呼ばれる良性の腫瘍が神経に沿ってできます。なかでも、びまん性神経線維腫と呼ばれるタイプの神経線維腫は、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)という進行性のがんに変化する可能性があります。MPNSTは、急速に広がったり、治療に耐性を持つようになったりすることが多いと知られているため、早期発見をすることが大変重要です。しかし、MPNSTへの変化が起こったかどうかを早期に発見するための良い方法はこれまでありませんでした。

今のところ、びまん性神経線維腫からMPNSTへの変化が起きたかどうかについては、医師は通常、生検やMRI・PETなどの画像をもとに判断しています。しかし、神経に沿って成長している腫瘍の生検は大きな苦痛を伴う場合があり、結果も常に正確であるとは限りません。また、画像検査は費用がかかり、必ずしも正確な判断ができるというわけではありません。そこで研究グループは、簡単な血液検査でMPNSTへの変化が起きたかどうか判断することはできないだろうかと考え、今回の研究を行いました。

血液中のセルフリーDNAを測定、MPNSTの診断に生かせる複数の特徴を発見

研究に参加したのは、びまん性神経線維腫をもつNF1患者さん23人、未治療のMPNSTをもつ患者さん14人、およびNF1ではない16人の健康な人で、研究参加者のほとんどは、MPNSTが最も頻繁に発症する年齢層であるAYA世代(15歳~30歳前後)でした。研究グループは、この人たちから血液を採取し、その血液から「セルフリーDNA」と呼ばれる、細胞から血液中に放出されたDNAを分離しました。そして、全ゲノムシーケンスという方法によって、3つのグループ間での違いを調べました。

その結果、MPNSTをもつグループのセルフリーDNAには、他の2つのグループとは異なるいくつかの特徴があることがわかりました。たとえば、MPNSTをもつグループのセルフリーDNA断片の長さは、他の2つのグループより短いことがわかりました。また、血液中の、腫瘍由来セルフリーDNAの割合は、びまん性神経線維腫のグループよりもMPNSTをもつグループの方がはるかに高いことがわかりました。こうした違いから、研究グループは、びまん性神経線維腫の患者さんとMPNSTの患者さんを86%の精度で区別することに成功しました。

セルフリーDNAの割合は治療効果や再発リスクも反映

また、MPNSTの患者さんでは、治療後に血液中の腫瘍由来セルフリーDNAの割合が減っていると、腫瘍のサイズや数も減っていることが画像診断で確認され、この割合が治療の効果と一致することがわかりました。逆に、この割合が増加すると、転移性再発に関連することもわかりました。つまり、血液検査をすることで、MPNSTを見つけることができるだけでなく、MPNSTに対する化学療法を行った場合の治療効果や、外科手術後の再発リスクも確認できる可能性があることがわかったのです。

研究グループは、今後、より多くの患者さんを対象に、この血液検査に対する大規模な臨床試験を実施しようと計画しているそうです。また、検査方法にも改良を加え、検査の精度を100%に近づけることを目指しているそうです。

この血液検査が実現すると、医療機器や専門知識へのアクセスが制限されている発展途上国などの地域でも、NF1患者さんのMPNSTの早期発見が可能になります。また、この血液検査は、NF1に限らず、良性腫瘍ががん化する可能性のある多発性内分泌腺腫症や、複数のがんの発症のリスクを高めるリ・フラウメニ症候群など、がんに関連した遺伝性疾患患者さんの早期発見や経過観察にも応用できる可能性があります。(遺伝性疾患プラス編集部)

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