ミトコンドリア病の多くは原因不明
近畿大学と順天堂大学、千葉県こども病院、埼玉医科大学の研究グループは、ミトコンドリア病の未解決症例(原因がまだ突き止められていない人)を対象として「マルチオミクス解析」を行い、その原因がNDUFV2遺伝子に関連したDNA配列の一部が欠けるタイプの変異であったことを突き止めたと発表しました。マルチオミクス解析は、ヒトの持つDNA全体を調べる全ゲノム解析やDNAから転写されてくるRNAも含む、多数の要素を解析対象に広げていく解析方法です。
ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能異常を原因として発症する病気です。発症年齢や症状が多岐にわたり、遺伝形式も一様ではないと知られています。結果として、症状や血液検査といった診察のほか、より専門性の高い遺伝学的検査を行っても診断が難しいケースが少なくないことが問題になっていました。
研究グループは従来、生化学診断や遺伝子診断に取り組み、診断率は30~40%となりましたが、さらなる診断率の向上には限界もあると考えていたそうです。ヒトの遺伝子は、タンパク質の情報を含む領域であるエクソンと、それ以外のイントロンがあり、これまでに研究グループはエクソン領域を対象に解析をしていました。そこで、さらに診断率を高めるため、イントロンのほか、DNAから転写されてできるRNAも解析対象に含めることにしました。
今回、研究グループは、イントロンまでを含む「全ゲノム解析」のほか、DNAからタンパク質を作る過程で作られるRNAを解析する「RNAシーケンス」もカバーする「マルチオミクス解析」を行うことで、未解決症例の原因解明を進めました。
遺伝子の一部が欠けていると判明
こうした解析を進めたところ、原因がわからなかったミトコンドリア病の症例は、NDUFV2遺伝子の中のエクソンだけではなくイントロン部分も含めた遺伝子の一部が失われていることにより異常が発生したと判断しました。
これまでにもNDUFV2の遺伝子変異が存在していることはわかっていましたが、今回の症例では、エクソンとイントロンの双方にまたがって遺伝子の一部が欠けていることで、タンパク質が正常に作られず病気を発症していると考えられました。さらに、この異常の背景にはトランスポゾンというゲノムの中を自由に移動できるDNA配列の移動が関与することも突き止めました。
研究グループはNDUFV2遺伝子異常を持つ症例に対してアミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムという薬剤の投与が有効であるとこれまでに示してきました。今回の研究結果を踏まえて、遺伝子異常と治療薬の効果との関係についての研究をさらに進めることになりそうです。(遺伝性疾患プラス編集部 協力:ステラ・メディックス)