筋萎縮性側索硬化症(ALS)、原因タンパク質の毒性メカニズムを解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因となるC9orf72遺伝子が問題を引き起こす仕組みを検討
  2. 遺伝子から作られるジペプチド(ポリPR)の他のタンパク質との相互作用を確認
  3. 「液液相分離」という変化を起こし、生命維持に必要な分子機能を抑制して毒性を発揮すると確認

ALSの発症につながる「C9orf72遺伝子」の変異に注目

東京医科大学を中心とした研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因になるタンパク質(ジペプチド)が細胞内の他のタンパク質と相互作用して機能を抑制することで、病気の発症につながる細胞毒性をもたらしているというメカニズムを解明したことを発表しました。

ALSの原因解明に向けた研究が活発に行われており、治療方法の確立が求められています。そうした中で2011年にALSおよび前頭側頭葉型認知症の原因遺伝子として「C9orf72遺伝子」が発見されました。ALSの家族歴のあるALS患者さんにおいては、4割がこの遺伝子の変異を持つとされる重要な原因遺伝子として注目されています。

一方でC9orf72遺伝子の変異がどのようなメカニズムで病気の発症につながるのかはよくわかっていません。この変異はすべて同じタイプになっており、「GGGGCC」という6つの塩基の異常な繰り返し配列が存在するという共通点があります。この繰り返し配列がALSの発症につながると見られ、病気の発症との関連性についての研究が進んでいます。これまでにこの繰り返し配列がある場合、プロリンとアルギニンという2種類のアミノ酸による繰り返し配列を含むジペプチド(ポリPR)が作られることは判明しています。このジペプチドが病気の発症につながると考えられています。

そこで今回、研究グループはジペプチドがどのように仕組みで病気を引き起こすかのメカニズムの解明をタンパク質同士の相互作用に着目して分析を進めました。

他のタンパク質を束ねる異常を引き起こす

こうして判明したのは、アルギニンとプロリンが交互に繰り返す構造を持つジペプチドは他のタンパク質と結合することで、DNAからタンパク質が作られるプロセスを邪魔してしまうということでした。詳しく分析したところ、ジペプチドが結合しやすいタンパク質の特徴も明らかになり、アスパラギン酸とグルタミン酸という酸性のアミノ酸を多く含むタンパク質と結合しやすいこともわかりました。

さらに研究グループはスーパーコンピュータを用いて、ジペプチドの動きやタンパク質との結合の様子を原子1つずつについてシミュレーションできる「分子動力学計算」を実施し、ジペプチドにより病気の発症に至るメカニズムを詳しく分析しました。こうした計算の結果、アルギニンとプロリンが交互に結合した場合、アルギニンが連続した場合と比べても、タンパク質との結合は弱くなることがわかりました。一見すると問題になりづらいように見えますが、結合する力が弱いために特定のタンパク質と結合せずに複数のタンパク質を束ねるように結合できることがわかり、かえって異常なタンパク質の集合を作りやすくなることが確認できました。

研究グループは、ジペプチドが酸性のアミノ酸を含むタンパク質を集めることで、細胞の中で水と油のように区画を形作る液液相分離を引き起こすと解明して、この液液相分離により生命維持に欠かせない分子機能を邪魔し、細胞の正常な機能を妨げるために細胞毒性を発揮すると説明しています。研究グループはこうしたタンパク質同士の結合による液液相分離を調整する小化合物のスクリーニングを計画しているとしており、今後の薬の開発につながることが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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