大脳組織の形質異常をiPS細胞で再現目指す
藤田医科大学を中心とした研究グループは、世界で初めて福山型筋ジストロフィーの患者さんからiPS細胞(人工多能性幹細胞)を樹立し、これを用いて大脳組織を再現、この組織に低分子化合物Mn-007を投与すると糖鎖量を回復できることを確認したと発表しました。
これまでに福山型筋ジストロフィーにおいては、「αジストログリカン」という膜タンパク質の表面にある「糖鎖」が欠損することがわかっていました。糖鎖が欠損することで、細胞と細胞のつながりが破たんして神経細胞の移動が困難になり、大脳皮質の異常を引き起こすと考えられてきました。
ヒトにおいては大脳皮質の形質異常が起こると考えられているものの、福山型筋ジストロフィーの患者さんと同じ遺伝子異常を持つマウスでは脳は正常であるため、病気の状態を再現することが難しいと考えられていました。
研究グループは福山型筋ジストロフィーの患者さんから採取した細胞を使ってiPS細胞を樹立し、これを用いて大脳組織に近い特徴を持つ立体的な「大脳組織オルガノイド」を作製して、ヒトにおける病気の状態を再現し、治療の方法を検討しようと考え、研究を行いました。
低分子化合物による治療の可能性が示される
こうして研究グループは、世界で初めて福山型筋ジストロフィーの患者さんの血液からiPS細胞を樹立することに成功しました。さらに、このiPS細胞を用いて大脳組織オルガノイドを作製して調べました。すると従来示されていた通り、作製したiPS細胞も大脳組織も糖鎖量が低下し、大脳組織オルガノイドには福山型筋ジストロフィーの患者さんの大脳組織と似た形質異常が現れることも確認できました。加えて研究グループは、糖鎖回復の効果があると知られている低分子化合物Mn-007を投与し、糖鎖の回復と大脳組織の一部改善につながることを確認しました。
研究グループは今後、福山型筋ジストロフィーの病気がどのように起こるのかを解明し、治療薬の効果を検討するために、今回の研究成果が役立つと説明しています。福山型筋ジストロフィーは日本特有の病気であるため、日本人がこの病気の治療手段を開発するのは重要であるとも指摘します。福山型筋ジストロフィーと類似した病気であるαジストログリカノパチーは世界中に存在するため、この病気に今回の研究で用いられた化合物が有効である可能性があると推定しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)