筋ジストロフィー

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Muscular dystrophy
日本の患者数 2万5,000人程度(10万人に17~20人程度)(令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数5,246人)
国内臨床試験 実施中試験あり(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」)
子どもに遺伝するか 遺伝するものと、突然変異で子供の代から生じるものがある
発症年齢 さまざま
性別 男女とも(ほとんど男性のものもある)
主な症状 運動機能の低下など
原因遺伝子 筋肉のはたらきに関するさまざまな遺伝子
治療 核酸医薬品による治療、対症療法、遺伝子治療(海外)
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どのような病気?

筋ジストロフィーは、筋肉(骨格筋)の線維の破壊(壊死)と再生の繰り返しを主な病変とする、遺伝性疾患の総称です。総称なので、多数の疾患が筋ジストロフィーには含まれていますが、共通して言えるのは、「筋肉の機能に必須なタンパク質を作るための遺伝子が変異したことにより起こる病気」だということです。つまり、遺伝子の変異により、筋肉が異常になって正常に機能できなくなり、一部の組織は死んでしまいます。その結果、筋肉が萎縮や線維化、脂肪化などを起こし、筋力が低下して、各機能が障害されます。

筋ジストロフィーの主な症状は、運動機能の低下です。その他にも、拘縮(関節が動かしにくくなった状態)や変形、呼吸機能障害、心筋障害(心不全や不整脈)、嚥下機能障害(飲みこみづらくなる)、胃腸の症状、骨の代謝異常、内分泌代謝異常、目の症状(網膜剥離や眼瞼下垂など)、難聴、中枢神経障害(知的障害やけいれんなど)等、さまざまな機能障害や合併症を伴います。こうした合併症や症状の経過は、筋肉の機能に関わるどの遺伝子が変異しているかによります。つまり、それぞれの疾患により異なります。筋ジストロフィーの症状は、ゆっくりと進行していきます。そのため、定期的に検査を受け、異常を早期に発見し、適切な治療を受けることが大切です。

筋ジストロフィーは、臨床症状の特徴や発症年齢、遺伝形式などに基づいた分類では、下表のような病型に分けられています(古典的病型分類)。

主な病型 遺伝形式 主な症状
ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー) X連鎖性 歩きがふらつく、階段の上り下りが困難、転びやすいなどの歩行障害で男児に発症。その後、症状が進行。デュシェンヌ型よりベッカー型の方が、筋力低下が軽く、心臓の負荷が増すケースが多い。
肢帯型筋ジストロフィー 常染色体優性(顕性)/劣性(潜性) 歩きがふらつく、階段の上り下りが困難、転びやすいなどの歩行障害で発症。肩甲帯、腰帯、四肢近位部の筋障害がある疾患で、他の病型の筋ジストロフィー以外のものの総称。
先天性筋ジストロフィー 常染色体優性(顕性)/劣性(潜性) 出生早期から、手足がだらりとした状態(フロッピーインファント)や、運動発達遅延が見られる。病型によっては、知的発達障害、けいれん発作、目の症状などが見られる。福山型、ウルリッヒ型などがある。
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー 常染色体優性(顕性) 肩甲骨周囲筋・上腕筋・顔面筋の筋障害が見られる。発症時は、腕が上げられないなどの症状が見られ、進行すると、全身の筋力低下や筋委縮が見られる。目が閉じなくなることもある。
筋強直性ジストロフィー 常染色体優性(顕性) 筋強直現象が見られ、遠位筋・咀嚼筋・胸鎖乳突筋の筋障害が見られる。消化管症状、インスリン耐性、白内障、前頭部禿頭など、多彩な症状が見られる。
エメリー・ドライフス型筋ジストロフィー X連鎖性、常染色体優性(顕性)/劣性(潜性) 肩甲骨周囲筋・上腕筋から始まる筋萎縮・筋力低下、首の後ろ側・肘の関節・アキレス腱の拘縮、心伝導障害を伴う心筋症が、三大主徴。小児期に発症。
眼咽頭筋型筋ジストロフィー 常染色体優性(顕性) 眼筋障害による眼瞼下垂や眼球運動障害、咽頭筋の障害による摂食・嚥下機能障害などが見られる。

この分類は、「今のところ」の分類です。今後、原因遺伝子の解析がもっと進んでいくと、分類方法が見直される可能性があります。

日本における、筋ジストロフィー患者さんの総数がどのくらいなのか、正確には把握できていませんが、2万5,000人程度(10万人当たり17~20人程度)と推測されています。また、筋ジストロフィーの中でも、人種によって、よく見られる病気と、ほとんど見られない病気があります。例えば、日本人では、福山型先天性筋ジストロフィーが先天性筋ジストロフィーの中では最も多く見られ、筋強直性ジストロフィー2型はほとんど見られない、などです。

筋ジストロフィーは、筋肉に症状があることから、筋委縮性側索硬化症(ALS)と混同されがちな部分もありますが、両者は原因遺伝子や発症の仕組みなどが異なる、別の病気です。

筋ジストロフィーは、指定難病対象疾病です(指定難病113)。

また、筋ジストロフィーは小児慢性特定疾病の対象疾患に指定されており、大分類としての筋ジストロフィーの中に、「デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー」「エメリー・ドレイフス(Emery-Dreifuss)型筋ジストロフィー」「肢帯型筋ジストロフィー」「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」「福山型先天性筋ジストロフィー」「メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー」「ウルリヒ(Ullrich)型先天性筋ジストロフィー(類縁疾患を含む。)」「その他、筋ジストロフィー」が含まれます。

何の遺伝子が原因となるの?

ここまでで説明してきたように、筋肉のはたらきに関するさまざまな遺伝子が、筋ジストロフィーの原因遺伝子となり得ます。例えば、細胞膜に関連する遺伝子、細胞の外側にある基底膜という部分に関連する遺伝子、筋線維の収縮や弛緩に関与する、サルコメアという構造に関連する遺伝子、タンパク質に糖鎖をくっつけるのに関連する遺伝子、核膜に関連する遺伝子などが、これまでに原因遺伝子として見つかっています。まだ、原因遺伝子が見つかっていないものも多数あります。それぞれの遺伝子異常から、筋肉の線維の破壊が始まるまでの過程はさまざまですが、筋肉が破壊され始めてからの経過は共通の部分が多いため、どれも「筋ジストロフィー」として、似たような症状となります。

筋ジストロフィーの原因になる遺伝子異常は、親から子へと遺伝する場合と、突然変異で子どもに新しく生じる場合があります。例えば、日本では、「ジストロフィン遺伝子」の変異が原因である、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者さんの4割は、突然変異によると報告されています。X染色体のXp21.2という位置に存在するジストロフィン遺伝子は、79のエクソンから成るとても大きな遺伝子で、mRNA全長は14kb(1万4,000塩基)近くあります。この大きな遺伝子から作られるタンパク質も巨大(42万6,692Da)です。デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者さんでは、人によってこうした巨大な遺伝子のさまざまな位置に変異が見つかっています。

親から子への遺伝のしかた(遺伝形式)は、「どのような病気?」の表にあるように、主に「X連鎖性遺伝」「常染色体優性(顕性)遺伝」「常染色体劣性(潜性)遺伝」の3つです。

X Linked Recessive Inheritance

Autosomal Dominant Inheritance

Autosomal Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

国が作成した診断基準に沿って、診断が進められます。具体的には、症状、家族歴(遺伝学的情報)、一般的な検査の結果(血液検査や筋電図など)、筋肉の一部を取って調べた病理学的検査の結果、遺伝子検査結果、似ている病気との比較、など、多くの情報を基に、慎重なステップを経て診断が行われます。重症度の診断基準も作成されています。

遺伝子検査による診断は、保険適用のものもあります。例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子検査のうち、MLPA法と呼ばれるものは、保険がききます。この遺伝子診断が可能なのは、デュシェンヌ型の約7割の患者さんです。

どのような治療が行われるの?

デュシェンヌ型筋ジストロフィーのうち、ジストロフィン遺伝子のエクソン52欠失あるいはエクソン52を含む領域が欠けているために正常なジストロフィンタンパク質が作られないタイプの人に治療効果のある「核酸医薬品」という種類の薬が、2020年3月に国内で承認され、同年5月に保険適用となり発売されました。この薬は、ビルトラルセン(製品名:ビルテプソ)といい、欠けているエクソン52を含む領域の隣にある「エクソン53」という部分も人工的に欠けさせる(スキップする)ことで、正常なジストロフィンより少し短めですが、機能するジストロフィンが作られるようにすることを狙った薬です。週に1回点滴をすることで治療します。その他のエクソンを対象としたエクソンスキップ薬も、開発が進められています。開発中のものも含め、スキップの対象エクソンと、修復可能なエクソン欠失パターンは、以下のようになっています。

DMD変異型に対するエクソン・スキップの適応性(出典:van Deutekom JC, van Ommen GJ. Nat Rev Genet. 2003, 4(10):774-83.

対象エクソン 修復可能なエクソン欠失パターン
51 45–50, 47–50, 48–50, 49–50, 50, 52, 52–63
53 43–52, 45–52, 47–52, 48–52, 49–52, 50–52, 52
45 12–44, 18–44, 44, 46–47, 46–48, 46–49, 46–51, 46–53, 46–55
43 44, 44–47, 44–49, 44–51
44 14–43, 19–43, 30–43, 35–43, 36–43, 40–43, 42–43, 45, 45–54
46 21–45, 45, 47–54, 47–56
50 51, 51–53, 51–55
52 51, 53, 53–55

また、2023年6月、デュシェンヌ型筋ジストロフィーで初めての遺伝子治療薬「ELEVIDYS」(delandistrogene moxeparvovec-rokl)が米国FDAにより迅速承認されました。この遺伝子治療薬は、 4~5歳の患者さんに対し、マイクロジストロフィン(短いけれど機能するジストロフィン)を作り出す遺伝子をAAVベクター遺伝子治療として導入する治療法で、治療は1回のみ行われます。

これ以外では、それぞれの人に出ている症状に対する治療(対症療法)が行われています。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの場合、副腎皮質ステロイド療法が、歩行期間の延長や呼吸機能の維持に有効であることが医学的に証明されており、保険適用となっています。この治療を行うかどうかや、治療開始のタイミングなどは、その人の病状を踏まえ、主治医の先生と相談して決めることになります。ステロイド治療を受ける際には、治療開始前に生ワクチン(麻疹・風疹、おたふく風邪、水痘など)を済ませておくと良いでしょう。不活化ワクチン(インフルエンザなど)は、ステロイド治療に影響を受けません。

また、さまざまなリハビリテーションが行われます。例えば、早期には拘縮・変形予防のための関節可動域訓練や転倒・事故予防対策として理学療法が行われます。進行に伴い、生活範囲の維持拡大のために、(電動)車いすなどの処方が行われます。2016年には、ロボット治療機器である「HAL(R)医療用下肢タイプ」が保険適用となり、現在は医療施設内での使用に限られているものの、歩行機能改善効果が得られています。

背骨や胸の骨などの変形が進み、座っているのが困難になったり、呼吸に影響してきたりすると、整形外科による手術が検討される場合もあります。うまく飲み込めなくなった人には、胃ろう増設も検討されます。

その他、肺を柔らかくきれいに保つことを目的とした呼吸リハビリテーションや、摂食嚥下訓練、鼻マスク人工呼吸、心機能の低下に対しては、心臓ペースメーカーや心臓カテーテル手術などによる治療などが行われます。在宅で呼吸器を使用している人は、排痰補助装置が保険適用になっています。

こうした機器を家で使用している人は、予期せぬトラブルや災害に備え、電源や予備物品の確保、家族や医療機関との連絡方法、緊急避難の方法などを、決めておきましょう。

日常生活では疲労や筋肉痛が生じない範囲で、特に制限はされません。筋力増強を目指した筋力トレーニングは、筋肉を痛めるリスクが高いので、推奨されていません。また、外傷や骨折も、治るまで安静を保つことが筋委縮につながるため、転びやすい人は、プロテクターや介助などで、普段から気を付けて歩くことが大切です。規則正しい生活、バランスのとれた食生活、体重の変化に目を配る、感染予防(咳をする力が弱いため)、なども大切な心がけです。

筋ジストロフィーの研究は、全世界的に盛んにおこなわれており、新しい薬の開発が確実に進められています。開発した新しい治療薬を、保険承認された現実のものにするためには、多くの患者さんの参加による、有効性と安全性の確認(治験)を経る必要があります。こうした治験の情報や、自分が開発中の治療薬の治験参加対象者になるかについて詳しく知りたい場合、主治医に相談してみましょう。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で筋ジストロフィーの診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

筋ジストロフィーの患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

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参考サイト

・参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版

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