筋ジストロフィー当事者・ご家族の孤立を防ぎ最新情報を届ける、Seven Seas

遺伝性疾患プラス編集部

筋肉の機能に必須なタンパク質をつくるための遺伝子に変異が生じ、運動機能の低下など症状が現れる「筋ジストロフィー」。臨床症状の特徴や発症年齢、遺伝形式などに基づき、さまざまな病型があります。その1つ「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)」は、ジストロフィン遺伝子に変異が生じることで引き起こされます。2023年11月に国際連合(国連)が9月7日を「世界デュシェンヌ啓発の日」と定めました。

今回ご紹介するのは、筋ジストロフィーの当事者・ご家族へ支援活動を行う「Seven Seas」です。「Seven(7:ナナ)」の蔵面奈々(ぞうめん なな)さんと、「Sea(海)」の榎本海(えのもと かい)さんが代表として活動しています。蔵面さんは、お子さんがDMDの診断を受けています。フランスにお住まいの時に病気の疑いがわかり、日本への帰国を決意。海外と日本のさまざまなギャップを、目の当たりにしてきました。榎本さんは、DMDの当事者です。18歳から親元を離れて一人暮らしをしており、当事者の自立支援の必要性を感じています。2023年から活動を開始し、世界デュシェンヌ機構(WDO)の日本の加盟候補団体にもなっている「Seven Seas」。今回は、その活動内容や今後の目標などについて、お話を伺いました。

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左から、蔵面さんとお子さん、榎本さん
団体名 Seven Seas
対象疾患 筋ジストロフィー
対象地域 全国(将来的には、海外も予定)
会員数 会員制でないが、約50名とつながる
設立年 2023年
連絡先 duchennemd.jpn@gmail.com
サイトURL https://dekasohusunu.wixsite.com/my-site
SNS
主な活動内容 筋ジストロフィーの当事者・ご家族がつながる場を設けるなど、支援活動を行う。

「当事者・ご家族の孤立を防ぐ」「日本でも海外の最新情報を」それぞれの思いから活動開始

榎本さんのご経験と、活動への思いをお聞かせください。

榎本さん: 当事者やご家族のお困りごとについて相談を受けるなど、自分にできることをしたいという思いで活動を始めました。私は、当事者やご家族の「孤立を防ぐ」ことが大切だと考えています。そのために、病気や障がいを持つ方が社会参加するなど、自立した生活のサポートをすることや、皆さんで交流したり情報提供できたりする場をつくることが必要だと感じ、活動を開始したのです。

もう少し具体的な話をすると、私は、18歳の頃から重度訪問介護を利用し、親元を離れて一人暮らしをしています。重度訪問介護は、重い障がいを持ち、常に介護を必要とする方に対してホームヘルパーが自宅を訪問する制度です。将来、親が年齢を重ねることで、私の介護をお願いするのが難しい状況になる時がきます。その前に「親から自立して、地域で社会生活をしたい」と考え、一人暮らしすることを選びました。

また、私自身、同じ病気や障がいと向き合う者同士だからこそ、安心して気持ちを共有できることもあると感じています。病院や特別支援学校に通っていた頃は、自然と同じ筋ジストロフィーの当事者とつながることができました。一方で、一人暮らしを始めてからは、つながりにくくなったと感じています。他の人からも「つながりがなくて、誰にも気持ちを話すことができなかった」と伺っており、不安や悩みを共有できる場が必要だと感じました。そこで、当事者・ご家族がつながる場を自身でつくっていこうと考えたんです。

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榎本さん
蔵面さんのご経験と、活動への思いをお聞かせください。

蔵面さん: フランスに住んでいた2021年9月に、息子の病気の疑いが明らかになりました。その後、日本に帰国した2022年5月にDMDの確定診断を受けています。病気の疑いがわかり、自身でも情報を調べる中で「生活拠点を日本に移そう」とほぼ決めました。当時から私一人で息子を育てており、もし息子が病気で介護が必要な状況になった場合、一人では育てられないと判断したためです。日本に一時帰国した際に、病院で診ていただき「恐らくDMDだろう」と説明を受けました。その時に自分の中で覚悟が決まり、現在は両親のサポートを得ながら日本で生活しています。

帰国して特に驚いたのは、「海外と比べて情報量が少ないこと」と「患者団体の活動内容のギャップ」です。情報については、日本語で情報を調べようとしても詳しい情報を得ることがなかなか難しい状況だと感じました。もちろん、ある程度の情報は調べることが可能です。一方で、海外では治験情報の詳細にアクセスしやすいのに比べ、日本では困難な印象を受けました。遺伝性疾患の当事者やご家族の中には、治療がない状況に置かれており、開発中の治療に対して期待されている方も多くおられると思います。だからこそ、治験などの正しい情報が適切に提供され、期待される効果や安全性などにつき、正しく知り、理解できる環境が必要なのではないかと考えています。

患者団体の活動については、海外では当事者やご家族向けの教育活動が豊富な印象を受けました。例えば先日も、日本時間では夜中でしたが3時間、遺伝子治療に関するウェビナーに参加して最新情報を学びました。海外ではこういった学ぶ機会が多くあるため、当事者側も容易に情報をアップデートできると感じています。日本に住んでいても海外と同じように情報を得て、理解できる環境を整えるために活動したいと感じました。

お2人で活動を始めたきっかけは、何だったのでしょうか?

蔵面さん: 私が息子についてSNSで発信したことがきっかけとなり、榎本さんとつながることができました。最初はダイレクトメッセージ(DM)で、相談に乗ってもらっていたんですよね。

榎本さん: そうですね。DMでのやり取りから始まり、直接お話するようになり、2人で一緒に活動することを決めました。

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2人で一緒に活動することを決めた、蔵面さんと榎本さん

交流会では「次回も参加したい」の声

現在の活動内容を教えてください。

蔵面さん: 当事者やご家族が交流する場を設けています。オンライン交流会を中心に、不定期で兵庫県・千葉県などで対面による交流会も開催しています。オンライン交流会では、毎回10名ほどのメンバーで話をしています。私たちは会員制を取っていないので、参加費などの費用も、もちろん無料です。気になったタイミングで、ぜひご参加いただけたらと思います。

また、私たちと同じように活動したいと思っている当事者ご家族がいらっしゃったら、そのお手伝いもしたいと考えています。コラボのような形で、さまざまな方々とつながっていけたらうれしいですね。

榎本さん: 交流会では、DMDの他、同じジストロフィン遺伝子が関連しているベッカー型筋ジストロフィー(BMD)を中心に、他の病型の筋ジストロフィーの方も参加されています。また、お子さんが「ミオパチー疑い」というご家族もいらっしゃいました。当事者がご自身の友だちと一緒に参加されるなど、皆さん自由に参加されている様子です。

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オンライン交流会の様子

榎本さん: 生活に関わるお話が中心です。例えば、先日のテーマは「旅行の楽しみ方」。「車いす利用者が、飛行機移動をする時は?」など、経験者のお話を聞くことができました。さまざまな症状や障がいを考慮しての旅行は、少しハードルが高い印象があるかもしれません。しかし、実際に旅行を楽しんでいる方のお話を聞いて「自分もできるかもしれない」と前向きに捉えてくださっている方が多い印象でした。

蔵面さん: その他、参加者のほとんどは筋疾患に関わっておられるので、「ベッドのマットレスは、何を使っている?」といった話題もありますね。あとは、入学に向けた「就学活動」で悩まれる方が多い印象で、経験者のお話を伺うこともあります。「エレベーターの設置がない学校に進学したので、事前に車いす用の階段昇降機をレンタルした」というお話もありました。

治療に関わるお話は主治医の先生にお任せして、生活に関わる素朴な疑問やお悩みなどに対して、他の方々の経験をシェアしています。もちろん、同じ筋ジストロフィーであっても症状や進行状況などは人それぞれです。ですから、必ずしも誰かの経験がご自身の「正解」にはならないのですが、情報は確実に増えており、このことは安心感につながっていると思っています。同じ疾患に関わる者同士でつながり、話すことで「1人ではない」と感じていただくきっかけになればと考えます。

活動に参加されている当事者・ご家族からは、どのような声が寄せられていますか

蔵面さん: 活動に参加したことで「(体験談に)勇気づけられた」「新しいことを学べた・知ることができた」といった声が多く寄せられています。その他、「次回も参加したい」という声も寄せられており、改めてうれしく感じました。

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千葉県で開催した交流会の様子

YouTubeでの情報発信、ご家族の就労支援なども視野に

今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?

榎本さん: YouTubeでの情報発信を始めます。筋ジストロフィーに関わる情報はもちろん、交流会でも話題にあがることの多い「生活に関わるお悩み」に対する情報なども発信していきたいですね。その他、自身の経験について発信する、さまざまな団体とつながりを持つ、といった活動も行っていきたいです。

蔵面さん: チャレンジしたいことは、たくさんあります。例えば、息子に電動車いすサッカーをやらせたいと考えています。そのため、障がい者スポーツの啓発活動などにも関わりたいですね。

また、当事者ご家族の就労支援にも関わりたいです。現状、働きやすさへの社会的配慮が充実していないために、さまざまな苦労を経験されているご家族のお話を伺います。中には、仕事を辞めたり、働き方を変えざるを得ない状況になったりする方もいらっしゃいます。私の場合は、帰国したことで両親のサポートを得ることができました。仕事の面でも、ありがたいことに、フランスでの仕事をそのまま続けさせてもらっています。フランスと日本の時差による苦労はありますが、その代わり、日中の通院はある程度の融通がききます。一方で、日本の企業では通院のために仕事を休むことに対して、海外に比べると困難な場合が多い印象を受けます。そういった環境を変える仕組みづくりなど、私たちの活動を通じて関わっていけたらうれしいですね。当事者はもちろん、そのご家族も支えられるような活動をしていきたいです。

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Seven Seas公式ウェブサイトより

「病気を理由に諦めないで」「一緒に治療の最新情報を」

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

榎本さん: ご自身の病気について、正しい知識を得ることは非常に大事だと思います。例えば、症状に対して事前にどのような準備しておくかなど、知っているかどうかで生活のしやすさも変わるのではないでしょうか。私は、23歳頃から自身の体調管理とリハビリに重点を置いて生活をしています。自身の経験や、筋ジストロフィーに関わる情報を調べる中で、それが大事だと感じたからです。

正しい知識を得ることで、日常生活で工夫できることもあると思いますので、無理のない範囲で一緒に頑張っていけたらと考えています。もし、「頑張りすぎて、心が疲れた」「病気を理由に、孤立していると感じる」などがあれば、当事者やご家族とつながる場の1つとしてSeven Seasを知っていただけるとうれしいです。つらいことがあったとしても1人で抱え込まずに、同じ当事者やご家族とつながってみてください。

そして最後に、同じ筋ジストロフィーの当事者へ向けてお伝えしたいのは「病気を理由に、やりたいことを諦めないで」ということです。もし「やってみたい」と思うことがあるのであれば、ぜひチャレンジしてほしいです。「病気だから、できなくて仕方ない」と感じる時は、どうしてもあると思います。でも、最初から諦めるのはもったいないと私は感じています。一方で、1人だけで行動に移すことはハードルが高いかもしれないので、そんな時こそ、私たちとつながってもらえたらうれしいです。「できない」と思っていたことであっても、もしかすると実際に行動に移している人がいるかもしれません。まずは、ご自身の「やってみたい」を私たちとのつながりの中で発信することから始めてみてください。

蔵面さん: 筋ジストロフィーの治療開発の情報を追っている中で感じるのは、これから遺伝子治療の開発がどんどん加速していくだろうということです。治療効果に期待する気持ちがある一方で、副作用の可能性などもあわせて情報を得ていきたいと感じています。今後、もし日本で遺伝子治療が承認される日が来た時のために、引き続き、一緒に最新情報を得ていきましょう。

そして、もし1人で抱えきれないことがあった時には、ぜひ当事者・ご家族とつながりを持ってみてください。難病、希少疾患、遺伝性疾患では、情報を見つけることが大変だと思います。恐らく、同じ病気の方は近くにほとんどいらっしゃらないでしょう。そんな時、1つでも頼れる場所を持っておくことは大切だと思います。時に、絶望することもあるかもしれませんが、希望もあることを忘れないでください。実際に、私たちのように楽しく活動している当事者や家族もいますので、ぜひ活動を知っていただけたらうれしいです。

最後に、筋ジストロフィーに関わらず、私たちと同じように何か活動したいと考えられている当事者やご家族がいらっしゃったら、ぜひつながりましょう。従来の患者団体の形に留まらず、私たちで何かお手伝いできることがあればうれしいです。疾患の種類は違っても、きっと思いは一緒だと思います。これからも一緒に頑張っていけたらうれしいです。


海外生活の経験があり、英語でもDMDの最新情報をチェックして共有されている蔵面さん。そして、ウェブサイト制作やYouTubeでの情報発信などを担当されている榎本さん。「互いに、得意な分野を担当しているんです」と、教えてくださいました。お2人の“得意”が合わさることで、今後、さらなる活動の広がりが期待されます。Seven Seasの活動に興味を持ってくださった方は、お2人のSNSや公式ウェブサイトでの発信をチェックしてみてください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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