ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー、若い力で当事者の支援を「ウルリッヒの会」

遺伝性疾患プラス編集部

「ウルリッヒ病」(ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー)という遺伝性疾患をご存知でしょうか?この疾患は、生まれつき力が弱い、肘や膝の関節が固く十分に動かせない、手首や手指の関節が異常に柔らかい、といった症状があります。

今回お話を伺ったウルリッヒの会は、未成年のウルリッヒ病の患者さんやその家族を支援する団体です。2021年7月から、当事者の高校生3人を中心とした新体制に生まれ変わりました。そこで今回は、ウルリッヒの会代表・こうへいさん、副代表・ひよりさん、会計・ほのかさんに活動への想いを伺いました。

※3人の親御さんが、相談役として活動をサポートされています。

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左から、ほのかさん、こうへいさん、ひよりさん。
団体名 ウルリッヒの会
対象疾患 ウルリッヒ病(ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー)
対象地域 全国
会員数 37人
設立年 2019年
連絡先

公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から

サイトURL https://www.ullrichdisease.com/
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主な活動内容

主に、ウルリッヒ病患者さん、そのご家族の支援を目的とした患者会。

「病気の理解と知識の習得」「情報交換と勉強会の実施」「患者およびその家族との懇親の機会の提供」「医療関係者との連携による知識の向上」を中心に活動中。

未成年の患者さんならではの悩みに寄り添う活動

今回、新しい体制に変わろうと決意された想いを教えて頂けますか?

こうへいさん: 患者会は、当事者である僕たちが先頭に立って活動していくことが大切なのではないかと思ったからです。そのため、自分から「代表をやってみたい」と言いました。

これまでウルリッヒの会は、患者家族が中心となって運営してきました。僕自身、活動に参加する中で、「患者だから、わかることやできることがあるのでは?」と感じていたんです。こうしたきっかけから、やがて「もっとそういったことを前面に出して活動していけたら」と考えるようになり、代表という立場で、活動に関わっていくことを決めました。正直、不安もありましたが、最終的に母が背中を押してくれたので、決意できました。

ほのかさん: 私は、会計に立候補しました。もともと、パソコンに関わる資格の勉強をしていたこともあり、「自分は、どんな風に会をサポートできるかな?」と考えた時に、会計であれば、自分が勉強していることも生かせると考えたからです。

ひよりさん: 私は、これまでの経験を生かして、自分よりも年下の患者さんたちの役に立ちたいと思い、副代表に立候補しました。

副代表に立候補したもう一つの理由は、「障害者と健常者をつなぐ架け橋のような活動をしたい」という想いもあったためです。病気や障害の有無に関わらず、みんなが前向きに明るい気持ちで生活できる社会をつくりたいと考え、副代表になることを決意しました。

未成年の患者さんとそのご家族にスポットを当てて活動しているのは、なぜですか?

こうへいさん: ウルリッヒ病の患者家族会が他にもある中で、ウルリッヒの会では、未成年ならでの悩みに対応していく活動をしていきたいという想いがあったからです。

未成年なので、学校生活に関わる悩みが多く寄せられます。例えば、受験を考えている人であれば「バリアフリーの環境が整った学校に進学したい」といったご相談もあります。また、会員さんは全国にいらっしゃるので、お住まいの地域の学校の情報を知りたいといったご相談も寄せられます。

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「未成年ならでの悩みに対応していく活動を」と、こうへいさん。

ほのかさん: お出かけに関する悩みもありますね。車いす利用者だと、気軽にお店へ入ることが難しい場合も多いので。

ひよりさん: お出かけしたいと思っても、階段しかないような場所だと車いすでは行けません。そのため、ちょっとしたお出かけでも下調べが必要なんです。これからは、地域ごとに、お出かけしやすい場所の情報も、会員さんの間でシェアしていけたらと思っています。

気軽に相談できる環境づくりも

現在の、活動内容について教えてください。

こうへいさん: 患者さんやご家族の交流会、医療関係者を招いた勉強会の運営を中心に行っています。

その他、会員さん限定で、Slack(スラック)というコミュニケーションツールを使って、気軽にコミュニケーションをとれる環境を整えています。患者さん同士だから安心して悩みを相談して頂けますし、日常の些細な出来事も含めてさまざまな情報を共有していますよ。

Slack内では、どのような悩みが多く寄せられていますか?

こうへいさん: やはり、学校生活に関わる悩みが多いですね。Slackは、限られた人しか見ることができないので、皆さん、安心してご相談されています。特に、進学先の学校に関する悩みは多いですね。その方の症状にもよりますが、例えば、高校進学だけでも、全日制、通信制、特別支援学校高等部など、さまざまな選択肢があります。その中で、それぞれのメリットやデメリットについてお話ししています。未成年の患者さんが中心の会なので、皆の経験などをシェアできるのは大きいのではないでしょうか。

ひよりさん: 車いすに関わる悩みも寄せられます。例えば、未成年の患者さんだと、症状の進行により「これから車いすの利用を考えている」という方もいらっしゃいます。車いす利用が初めての患者さんやご家族に、「おすすめの車いす情報」や「初めて一人で出かける時に気を付けること」などもお伝えしています。

実は私も、車いすを使って1人で行動する機会が増えたのは、高校生になってからです。私自身も、最初は車いすを使って1人で行動することに対して不安があったので、同じように不安に思われている方に体験談などをお伝えできればと考えています。

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「同じように不安に思われている方に体験談などをお伝えできれば」と、ひよりさん
まさに、未成年の患者さんに寄り添った活動ですね。未成年の患者さんならではの悩みは、疾患を問わず情報を必要とされている方が多いでしょうか?

ほのかさん: はい、そうだと思います。ウルリッヒの会の会員さんの中には、ウルリッヒ病や筋ジストロフィーではない疾患をお持ちの方もいらっしゃるんですよ。受験を控えている方で、進学に関する悩みをご相談したいということで、活動に参加されています。

そのため、ウルリッヒの会に興味を持ってくださった方は、ウルリッヒ病に関わらず、お気軽にご連絡を頂ければと思います。

勉強会や座談会などのイベントも開催中

勉強会では、どのようなテーマを扱われていますか?

こうへいさん: ウルリッヒ病に関わる研究の進捗状況などが多いです。患者さんからの質問に対して、医師などの医療従事者がわかりやすくお話してくださいます。

先日も、リハビリの先生による勉強会が行われました。今、1人1台タブレットを導入している学校が多いこともあり、「目が疲れた時のリラックス方法」などを中心に、教えて頂きましたよ。

こんな風に、勉強会や講演会などイベントを通じて、さまざまな医療関係者の方々と交流できるのも、活動に参加するメリットだと思います。

2021年は、この後どのようなイベントのご予定がありますか?

ほのかさん: 秋に、座談会の開催を予定しています。座談会は、患者さんやご家族の交流の場で、前回の座談会では8人ほどが参加されました。

オンラインでの開催になりますので、インターネット環境などが整っていれば、どちらにお住いでも参加できます。ぜひ、お気軽にご参加頂ければと思います。

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「秋に、座談会の開催を予定しています」と、ほのかさん。

まだウルリッヒ病と診断されてない方へ、届けたい

活動を通じて感じている課題について、教えてください。

こうへいさん: ウルリッヒ病だと診断されていない方が、まだ多くいらっしゃるということです。そのため、今後も、患者さん、医療従事者へ向けた疾患の啓発が必要だと感じます。

僕自身、10歳でウルリッヒ病と診断を受けるまでは、なかなか病名がわからない日々が続きました。筋生検、遺伝子検査など、さまざまな検査を受けたのですが、すぐにはウルリッヒ病にたどりつかなかったんです。10歳の頃に受診した病院で、医師が、僕の皮膚と筋肉の画像所見にウルリッヒ病の方に見られる特徴を見つけてくださり、診断に至りました。僕の診断がついた時、母は「やっと、救われた」と感じたそうです。

こんな風に、なかなか診断がつかず今も苦しい想いをされている患者さんやご家族を少しでも減らせるように、疾患啓発の活動に力を入れていきたいと考えています。

それぞれの立場の人が自由に手を取りあい、笑いあう世の中へ

今後、疾患啓発活動のほかにも、力を入れていきたい活動はありますか?

ひよりさん: 私たちの活動を通じて、ウルリッヒ病を含めた全ての難病患者さんの思いを伝えていきたいです。

例えば、「健常者が障害者を助けないといけない」といったイメージをお持ちの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。だけど、私たちも病気や障害を持っているからこそ誰かのために役立ちたいと思っています。そういった思いを社会に伝えていく活動を行いたいです。

そして、結果的に、障害者と健常者、どちらかが一方的に助けるのではなくて、互いに支えあって生きていける社会になってほしいと感じています。

ほのかさん: ウルリッヒ病だけでなく、さまざまな病気の患者さんの心の支えになるような活動を行いたいです。

私は今、特別支援学校に通っており、さまざまな病気の患者さんと接する機会があります。その中で感じるのは、「病気は違うけど悩んでいることは、意外と共通している」ということです。そのため、いろいろな病気の人たちと悩んでいることを分かちあって、解決していきたいと考えるようになりました。ウルリッヒ病に限らず、さまざまな疾患をお持ちの方が参加できるような場を作っていきたいですし、結果的に、そういった場が誰かの心の支えになったら嬉しいです。

こうへいさん: 活動を通じて、障害者と健常者の間にある壁のようなものを取っ払いたいです。

ひよりさんが話していた「健常者が障害者を助けないといけない」という思い込みもそうですし、逆に僕たち側の人で「障害者は健常者に助けてもらうことが当たり前」という考えをお持ちの方もいらっしゃいます。こういった思い込みが、健常者と障害者の間に壁のようなものを作る原因となってしまうのではないでしょうか。

僕は、このような壁を取っ払い、それぞれの立場の人が自由に手を取りあって、笑いあっていける世の中にしたいです。簡単なことではないとわかっていますが、それでも、活動を通じて少しずつ変えていきたいですね。

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「障害者と健常者の間にある壁のようなものを取っ払いたい」と、こうへいさん(写真はイメージ)
最後に、遺伝性疾患プラスの読者の皆さんへ一言お願いします。

こうへいさん: 僕たち3人は、患者会の活動を通じて出会いました。同じ病気を抱える仲間がいるということはとても心強く、「自分は一人じゃない」と感じられることは大きな力になっています。また、それは、ウルリッヒの会を担っていく決断をする上でも、大きな原動力となりました。

現在、ウルリッヒ病に対する根本的な治療法はありません。しかし、多くの方々が治療法の確立に向け、研究開発を続けています。だから、僕たちは、ウルリッヒの会のスローガンである「仲間とともに広がる未来へ」のもと、ウルリッヒ病が治る日が来ることを信じ、希望を持って、活動の輪を広げていきます。


今回、夏休み期間中のお時間を割いて、取材にご協力頂いた、こうへいさん、ひよりさん、ほのかさん。学校の勉強などもお忙しい中で、それぞれの想いをお話してくださいました。お話を伺う中で感じたのは、「僕たち、私たちが変えていきたい」という強い想いです。学校生活、受験など、学生ならではの悩みに真摯に向き合う姿は、とても輝かしく感じられました。

また、今回の取材では、相談役として活動をサポートされているお母様方にもご協力頂き、お話を伺う機会がありました。「子どもたちが決めたことなので」と、終始優しく見守られている姿がとても印象に残っています。

ウルリッヒ病の方はもちろん、未成年ならではの悩みを抱えている患者さんやご家族へ、これからもウルリッヒの会の活動の輪は広がっていきます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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