開発中の血友病新薬フィツシラン、第3相試験で出血傾向の有意な改善を確認

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 開発中の血友病A・Bに対する核酸医薬「フィツシラン」の第3相試験データが発表された
  2. インヒビターの有無に関わらず治療を要した出血の年間出血率を有意に減少
  3. 少なければ年6回の定期投与ですむ治療を提供できる可能性があるとして期待

注射回数が少なくて済む可能性が期待される核酸医薬「フィツシラン」

仏サノフィは、開発中の新たな血友病治療薬について、2つの第3相試験で肯定的なデータが得られたことを発表しました。このデータは、第63回米国血液学会(ASH)で発表されました。

開発中の薬は「フィツシラン(fitusiran)」という名前で、siRNA(small interference RNA)と呼ばれる核酸医薬の一種。治療の対象となるのはインヒビターの有無を問わず血友病Aおよび血友病Bの成人および青年患者さんです。

フィツシランは、血液凝固を阻害するアンチトロンビンというタンパク質の濃度を下げることで、十分量のトロンビン産生を促し、止血バランスを調整して出血を抑制するように設計されています。

また、この薬は、効力と持続性に優れた皮下投与製剤として技術開発されており、少なければ年6回の定期投与ですむ可能性があるとして期待されています。まだ開発中であるため、世界の規制当局による評価は完了していません。

年間出血率の有意な低下を認め、有害事象もこれまで報告のものと概ね一致

今回肯定的な結果が得られた2つの試験は、「ATLAS-A/B第3相試験」と「ATLAS-INH第3相試験」です。

ATLAS-A/B第3相試験は、凝固因子製剤による出血時補充療法の経験があり、インヒビターを有さない重症の血友病AまたはBの12歳以上の患者を対象とした第3相無作為化非盲検試験。120人の参加者は、フィツシラン80mgを月に1回皮下投与するグループ(フィツシラン群)と出血時に凝固因子製剤の投与を行うグループ(凝固因子製剤群)に2:1の割合で割り付けられました。試験の結果、主要評価項目である年間出血率は、フィツシラン群の方が凝固因子製剤群より、治療を要した出血の年間出血率が89.9%少なく、これは統計学的に有意であることがわかりました。治療を要した出血の発生回数が0回だった患者さんの割合は、フィツシラン群では50.6%(40人)、凝固因子製剤群では5.0%(2人)でした。

フィツシラン群で5人(6.3%)以上に現れた有害事象は、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)増加、上気道感染、鼻咽頭炎、腹痛、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)増加、咳嗽、関節痛、喘息、胃炎および頭痛でした。重要な有害事象として、正常値上限の3倍を超えるALTまたはASTの増加を検討したところ、フィツシラン群の15人(19.0%)に認められました。血栓塞栓症も重要な有害事象として検討されましたが、同事象が疑われたか確認された患者さんはいませんでした。

ATLAS-INH第3相試験は、第VIII因子または第IX因子に対するインヒビターを保有する血友病AまたはBの12歳以上の男性患者を対象とした第3相無作為化非盲検試験。バイパス製剤(BPA)の出血時治療を受けている57人の参加者は、フィツシラン80mgを月に1回皮下投与するグループ(フィツシラン群)とBPAの出血時投与を続行するグループ(BPA群)に2:1の割合で割り付けられました。試験の結果、主要評価項目である年間出血率は、フィツシラン群の方がBPA群より、治療を要した出血の年間出血率が90.8%少なく、これは統計学的に有意であることがわかりました。治療を要した出血の発生回数が0回だった患者さんの割合は、フィツシラン群では65.8%(25人)、BPA出血時投与群では5.3%(1人)でした。

フィツシラン群で5人(12.2%)以上に現れた有害事象は、ALT増加、AST増加、上腹部痛、γグルタミルトランスフェラーゼ増加、頭痛、上気道感染、関節痛、血中アルカリホスファターゼ増加、トランスアミナーゼ上昇でした。重要な有害事象として検討したALTとASTの正常値上限の3倍を超える増加、および血栓塞栓症は、フィツシラン群でそれぞれ10人(24.4%)および2人(4.9%)確認されました。

なお、両試験のフィツシラン群で報告された有害事象は、ALT増加、AST増加、上腹部痛などで、フィツシランのリスクとして既に確認されている事象や、基礎疾患である重症の血友病AまたはBに関連するリスクと概ね一致する内容だったと報告されています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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