肢帯型筋ジストロフィー2Bに対する新しい遺伝子治療法を開発、マウスで効果を確認

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 肢帯型筋ジストロフィー2B(LGMD2B)はジスフェルリンという大きな遺伝子の変異で起こる
  2. ジスフェルリン遺伝子は大きくて遺伝子治療が難しいため、筋修復に必要なhASM遺伝子での治療を考えた
  3. この治療法で患者さんの筋細胞の修復が改善したほか、モデルマウスでも治療効果を確認できた

大きなジスフェルリン遺伝子を遺伝子治療で筋肉全体に送達するのは技術的に難しい

米国の小児国立病院を中心とした研究グループは、希少な遺伝性疾患である肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)2Bに対する新しい遺伝子治療法を開発しました。まだマウスの研究の段階ですが、開発した遺伝子治療ベクターを低用量で1回注射することで、筋肉の変性が減り、損傷した筋線維の修復能力が回復したそうです。

LGMD2Bは、発症率が10万人に1人未満の希少疾患で、ジスフェルリンと呼ばれる大きな遺伝子の変異によって引き起こされます。この変異により、作られるジスフェルリンタンパク質が機能しない形になったり壊れたりすることで、筋線維の治癒能力が下がるのです。そのためLGMD2Bでは手足、肩、腰回りの筋力が低下し、多くの人は発症後数年以内に歩くのが難しくなり、シャワー、着替え、移動など日常生活で支援を必要とします。今のところ、LGMD2Bを根本的に治療する薬や遺伝子治療法はありません。

LGMD2Bのようなタイプの劣性(潜性)遺伝性疾患に対する遺伝子治療の研究では、一般的に、筋肉内の変異遺伝子を治療標的として、不足している正常なタンパク質を産生できるようにしようと考えます。しかし、LGMD2Bで変異しているジスフェルリン遺伝子はサイズが大きいため、筋肉全体に治療用遺伝子を送達させることが技術的に難しく、課題となっていました。

肝臓でhASMを作らせ血流に乗せることで筋線維を修復する遺伝子治療法

今回、研究グループは、「病気の進行を遅らせる」ために他の方法はないかと考えました。研究グループはこれまでの研究で、LGMD2B患者さんの損傷した筋細胞を修復するために「酸性スフィンゴミエリナーゼ(hASM)」というタンパク質が必要であることを発見していました。そこで今回、肝臓でhASMを生成して血中に分泌するように作った遺伝子治療薬「hASM-AAV」を作製。hASM-AAVを培養したヒトの肝細胞に作用させ、その培養液(hASMが分泌されている)をLGMD2B患者さんから採取して培養した筋芽細胞に加えたところ、修復能の改善が確認されました。

また、hASM-AAVをこの病気のモデルマウスであるジスフェルリン欠損マウスに静脈注射で1回投与したところ、肝臓で作られたhASMが血流にのって筋肉に送達され、筋線維の修復が改善されていることが確認できました。さらに、治療したモデルマウスは、後足の握力が大幅に改善されていたそうです。

研究グループは、「私たちは、この遺伝子治療アプローチの臨床応用を可能にするために、有効性をさらに高め、より長期的に安全性と有効性について研究を進めていきます」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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