遺伝性脳小血管病CARASIL、高血圧治療薬「カンデサルタン」が有効の可能性

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 遺伝性の脳小血管病の一つCARASILの発症メカニズムを発見
  2. CARASILを再現したモデルマウスや患者さんの血管内膜でマトリソーム蓄積を確認
  3. カンデサルタンがCARASILのマトリソーム蓄積を抑えて血管機能を正常化すると発見

タンパク質の集合「マトリソーム」に着目

新潟大学を中心とした研究グループは、遺伝性の脳小血管病の一つであるCARASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体劣性(潜性)遺伝性脳動脈硬化症)の新しい分子メカニズムを解明したことを発表しました。さらに、高血圧の薬として知られているカンデサルタン投与によって、CARASILの病態を再現したモデルマウスの脳血管機能障害を正常化できる可能性があることも確認しました。

脳小血管病は、加齢や高血圧を原因として脳の細い動脈が硬化し、歩行障害や認知症を引き起こす病気。高齢者の多くで確認されますが、有効な治療法がありません。

一方で、遺伝性の脳小動脈硬化症であるCARASILは、「常染色体劣性遺伝形式」で発症する病気です。常染色体劣性遺伝形式とは父親と母親から1つずつ受け継いだ遺伝子の双方に変異がある場合に発症するパターンを指しています。しかしCARASILの場合は例外的に、原因遺伝子であるHTRA1遺伝子のうちの片方だけに変異があるヘテロ接合体でも、50歳代過ぎに発症することがわかっています。

CARASILでは、脳小動脈を形作る内膜や中膜、その間に存在する内弾性板に異常が起こります。これが加齢により発生する脳動脈硬化症と似ているのですが、なぜHTRA1遺伝子の異常によって脳小動脈の硬化が起こるのかはわかっていませんでした。

今回、研究グループはCARASILの病態を再現したモデルマウス(HTRA1遺伝子が働かない)の脳血管を解析し、血管内膜や中膜などの異常を確認しました。さらにCARASILモデルマウスの脳動脈に存在するタンパク質を分析して、389種類のタンパク質が増えていることも確認しました。これは血管と血管の間に存在してクッションの役割を果たす、「マトリソーム」と呼ばれるタンパク質の集団で、CARASILモデルマウスではマトリソーム蓄積が起きていることが病気の原因である可能性が考えられました。

カンデサルタンで血管の機能が正常化

さらに研究グループは、亡くなったCARASILの患者さんの脳を調べ、脳小動脈の異常な厚みの増加が認められる内膜にマトリソームの蓄積が起きていると確認しました。研究グループはHTRA1によって本来分解されるはずのタンパク質が、HTRA1の異常によって分解されずにマトリソームとして蓄積すると考え、CARASILの原因であると推定しました。

その上で、マトリソーム蓄積を防ぐことで治療を行えないかと検討し、マトリソームの中心的なタンパク質であるフィブロネクチンの形成を阻害する機能を持つカンデサルタンの効果を検証しました。CARASILモデルマウスを対象として治療効果を検証したところ、マトリソームのタンパク質の蓄積が低下することを確認しました。詳しく解析したところ145個のマトリソームを構成するタンパク質のうち88個の蓄積が抑制されており、これが血管の硬化などの改善や脳血流の正常化につながると考えられました。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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