世界初「ミトコンドリア腎症」の大規模調査を日本で実施、全体像が明らかに

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 希少なミトコンドリア腎症について、81症例という大規模な調査を国内で実施
  2. 臨床的特徴、病理学的特徴、遺伝学的背景、長期予後が明らかになった
  3. 発症から遺伝学的診断がつくまでに中央値で6年かかっているという課題も見えた

ミトコンドリア腎症は希少なため、全体像がよくわかっていなかった

千葉東病院と千葉県こども病院を中心とした研究グループは、ミトコンドリア腎症の国内83症例を解析し、臨床的な特徴、病理学的な特徴、また遺伝子診断結果や長期予後についてまとめ、論文報告したことを発表しました。

ミトコンドリア病は、約5,000人に1人の頻度で発症する先天代謝異常症で、細胞内でエネルギーをつくる小器官「ミトコンドリア」の働きが低下して起きる病気の総称です。ミトコンドリア病によって引き起こされる腎症は「ミトコンドリア腎症」と呼ばれます。

ミトコンドリア腎症について、これまでにいくつかの研究報告がなされており、いろいろな病態があることがわかってきています。一方で、ミトコンドリア腎症はまれな疾患であるため、それぞれの研究の対象となった人数が少なく、疾患の全体像は把握できていませんでした。

そこで研究グループは、ミトコンドリア腎症のより的確な診療や病態の理解のため、また、今後、新たな診断法や治療法を開発するために、大規模データを用いた臨床研究を行うことにしました。

国内757の腎臓内科を対象に調査、81症例のデータを収集

研究グループはまず、日本腎臓学会が有する世界最大規模の腎生検データベース、日本腎生検レジストリー(J-RBR)システムに2007年7月から2018年1月までに登録された3万8,351例のデータを解析しました。するとその中に、ミトコンドリア腎症を有する腎症は16症例しかなく、全体像を把握するには症例数が足りませんでした。

そこで、腎生検を行った症例だけでなく、行わなかった症例も含めて大規模な調査を行うことにしました。国内757の腎臓内科を対象に、2009年から2018年までのミトコンドリア腎症の診療に関する調査を実施した結果、81症例という、これまで世界でも得られなかった多数のミトコンドリア腎症症例のデータが得られました。このデータを用いて、臨床的特徴、病理学的特徴、遺伝学的背景、長期予後に関する解析を行いました。

難聴の合併が多いが、限局型や蛋白尿のない症例も

81症例の原因遺伝子の内訳は、核遺伝子異常が12症例、ミトコンドリア遺伝子異常が69症例でした。また、ミトコンドリア遺伝子異常のうち大多数が「mt.3243A>G点変異」というタイプでした。

最も多い合併症は難聴でした。一方で、他の臓器に症状が全くない腎限局型が10%程度、蛋白尿がない症例が7%程度いました。腎臓の病理像として、巣状分節性糸球体硬化症像が最も多く見られましたが、成人発症例では糖尿病性腎臓病、腎硬化症、間質性腎障害像などが見られる場合もありました。

発症から遺伝学的診断まで中央値で6年、未診断で経過の人も多い可能性

中央値11年のフォローアップ期間中に、全体の50.8%の症例が末期腎不全になり、透析開始、もしくは腎移植となりました。また、中央値12年のフォローアップ期間中に、全体の25.4%が亡くなりました。なお、小児発症と成人発症とで予後に有意差はありませんでした。

さらに、腎症発症から遺伝学的診断がつくまでに、中央値で6年かかっていることがわかりました。この結果から、診断までの時間短縮が課題として見えてきました。つまり、ミトコンドリア腎症の新たな原因遺伝子の報告が増えてきている一方で、まだミトコンドリア腎症についての認識は十分に広まっておらず、未診断のままで経過している人も多いことが予想されました。

ミトコンドリア腎症の病態解明や新規治療開発に期待

そのような中で、千葉県の研究グループが中心となって行った今回の報告は、これまで全くわかっていなかったミトコンドリア腎症の全体像、すなわち、ミトコンドリア腎症症例の臨床・病理学的特徴やその予後についてまでを世界で初めて大規模に調査し示したものとなりました。

研究グループは、「この報告がきっかけになり世界中で、より的確な診療がなされ、そして将来的にはよりよい治療へとつながっていくことが大きく期待されます」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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