ミトコンドリア病、遺伝子治療で変異ミトコンドリアDNAを正常に戻せる可能性

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ミトコンドリア病の根治療法はまだなく、変異ミトコンドリアDNAが多いほど重症
  2. マウス体内でミトコンドリアDNAの変異をゲノム編集で正常にすることに成功
  3. ミトコンドリア病の根治療法開発に期待

変異ミトコンドリアDNAを除く治療は、より重症な人には有効でない

英国ケンブリッジ大学の研究グループは、マウスを用いた実験で、ゲノム編集でミトコンドリア病の遺伝子治療ができる可能性を示しました。病気の原因となっている変異したミトコンドリアDNAを、ゲノム編集によって正常にする遺伝子治療です。

私たちの体の細胞に存在するミトコンドリアは、細胞が機能するためのエネルギーを提供しています。ミトコンドリアには、ミトコンドリアDNAという小さなDNAが含まれており、このDNAは母親から子どもへのみ受け継がれます。ミトコンドリアDNAの異常は、ミトコンドリアの機能に影響し、ミトコンドリア病の原因になります。ミトコンドリア病は、5,000人に1人の頻度で発生し、ときに命に関わりますが、まだ病気を根本的に治す治療法は見つかっていません。

各細胞には約1,000コピーのミトコンドリアDNAがあり、異常を持つミトコンドリアDNAの割合によって、ミトコンドリア病になるかどうかが決まります。通常、細胞内のミトコンドリアDNAの60%以上に異常があるとミトコンドリア病を発症し、異常なミトコンドリアDNAの割合が多いほど、ミトコンドリア病はより重症になります。逆に、変異を持つミトコンドリアDNAの割合を減らすことができれば、病気を治療できる可能性があります。

研究グループはこれまでに、ジンクフィンガーヌクレアーゼというシステムを使って、一部のミトコンドリア病の人と同じ変異を持つミトコンドリア病モデルマウスの体内で、心臓細胞の変異したミトコンドリアDNAを除去することに成功しました。細胞は一定数のミトコンドリアDNAのコピーを保つため、変異ミトコンドリアDNAが除去された分、正常なミトコンドリアDNAが増え、このマウスの心臓の症状は改善しました。しかし、この方法は、正常なミトコンドリアDNAがある程度存在する細胞にしか有効ではありません。

ピンポイントでDNAの塩基配列を正常に戻すゲノム編集治療

そこで今回、研究グループは、「ミトコンドリア塩基エディター」と呼ばれる、最近開発されたミトコンドリアDNA用のゲノム編集ツールを用い、生きたマウスの体内で、ミトコンドリアDNAで変異している塩基を正しい塩基に書き換えることが可能なのかを試しました。その結果、ミトコンドリアDNAの、狙った場所にある「C」の塩基を目的の「T」の塩基に書き換えることに成功しました。

今回は、ミトコンドリア病のモデルマウスを使って治療効果を確認したわけではありませんが、生きている動物の体内で、ミトコンドリアDNAの病気に関わる塩基配列を修正して、正しく働くミトコンドリアに治せる可能性が示されました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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