遺伝子導入による治癒効果は確認済み、負担の大きい皮膚移植からジェルの塗布に改良
米国スタンフォード大学を中心とした研究グループは、表皮水疱症の9人の患者さん(うち3人は小児患者さん)の皮膚創傷部に、臨床試験として遺伝子治療用ジェルを塗布したところ、傷が治癒し、その治癒が数か月にわたり持続したと発表しました。
表皮水疱症は、皮膚が非常に弱く、軽くこすったり引っかいたりしただけで水ぶくれや皮膚潰瘍を生じる遺伝性疾患です。4つの病型がありますが、今回の臨床試験の対象となった9人は全て、7型コラーゲンの遺伝子(COL7A1)に変異を持つ、栄養障害型表皮水疱症という病型でした。
研究グループは10年以上にわたり、変異のない正常なCOL7A1遺伝子を患者さんの皮膚に送り込む治療法を研究してきました。そして2016年、患者さんの皮膚をいったん取り出し、正常なCOL7A1遺伝子を導入して再び患者さんに移植すると創傷が治癒することを、臨床試験により確認しました。しかしこの方法は、遺伝子導入した皮膚の移植片を作ることがとても大変で、また、患者さんは外科的移植の際に全身麻酔を受ける必要があり、その後1週間の入院が必要でした。
今回の研究で開発された遺伝子治療用ジェルには、安全に改良した単純ヘルペスウイルスが、正常なCOL7A1遺伝子の運び屋として含まれています。毎週の外来による定期的な包帯の交換時に、ジェルを塗布するだけで、このヘルペスウイルスが正常なCOL7A1遺伝子を皮膚に送り込んでくれるのです。
塗布後9日で7型コラーゲンが作られ、治療効果は数か月持続
今回の臨床試験では、25日間にわたり治療が行われました。一方の創傷にジェルを塗布し、もう一方の創傷にプラセボ薬を塗布することにより、各患者さんの2つの創傷の変化を比較しました。治療の3か月後に、創傷の状態を評価して治癒の程度を判断し、さらに数週間観察して、再び創傷が起きるようになったかどうかを確認しました。
その結果、遺伝子治療用ジェルで治療されたほとんどの創傷は、治療終了後3か月以内に塞がりました。ある患者さんの脇腹の大部分を10年間覆っていた大きな傷は70%治癒し、他の傷はすべて治療により完全に塞がりました。また、別のある患者さんの足に5年間あった創傷は治療で塞がりませんでしたが、25日間の治療サイクルをもう一度行ったことで治癒し、この治癒は8か月間持続しました。一方、プラセボ薬で治療した創傷は、試験期間中、治ったり再び創傷ができたりする速度がバラバラでした。
対象患者さん7人の治療された皮膚の生検により、治療の開始後9日という早期に7型コラーゲンが作られていることがわかりました。少なくとも1人では、導入遺伝子の発現が約100日間持続しました。有害事象はほとんどなく、発生したものは軽度でした。
この遺伝子治療法は、第3相試験が完了しました。研究グループは結果を公表し、米国食品医薬品局(FDA)に提出して薬の承認を得る予定だとしています。(遺伝性疾患プラス編集部)