信頼性が高く、重症度を鋭敏に捉えられる指標は無かった
名古屋大学を中心とした研究グループは、神経難病である遺伝性脊髄小脳失調症(SCA)について、腕や手など(上肢)の運動失調(障害の進行度や運動機能の低下)を精緻に評価するための新しい方法を開発したと発表しました。
SCAは、体のバランスをコントロールする機能をつかさどる脳の部位(小脳)の異常によって起こる病気です。この病気のために起こる障害は運動失調と呼ばれ、さまざまな動きの協調性が保てなくなるため、上手に立てなくなったり、歩けなくなったりします。手をうまく動かせない、うまく話せない、などが起こることもあります。
この病気は成人になってから症状が現れることが多く、症状の進行は緩やかです。今のところ進行を抑える治療法はありませんが、治療薬の効果を確かめる臨床試験は行われています。臨床試験では、薬の効果を判断するための指標(バイオマーカー)が必要ですが、この病気においては、これまでに信頼性が高く、重症度を鋭敏に捉える事ができる、確立したバイオマーカーがありませんでした。また症状の進行が遅いためにわずかな変化を把握する難しさもありました。
今回研究グループは、独自のデバイスによって上肢の運動を測定して解析し、新しい指標を開発しました。新しいデバイスは、ペン先の位置を測定できるペンと、4つのボタンから成り立っています。異なる2つのボタンの間を、出来る限り素早くペンを9.5往復させることで、運動の機能を測定できるようにしています。
新しい指標でわずかな症状の悪化も判定可能に
開発したデバイスを検証したところ、ペンの動きによって遺伝性脊髄小脳失調症の運動機能を測定できることが確認できました。その上で研究グループは動きのゆがみを評価する指標(Distortion Index)を開発しました。この指標が症状を反映するのかを確かめたところ、遺伝性脊髄小脳失調症の患者さんにおいて健常者よりも明らかに高い値にあると確認できました。
従来、上肢の運動失調を評価するための指標として用いられているSARA上肢スコアやICARS上肢スコアと相関していることもわかりました。新しい指標は繰り返し測定しても結果は変わらないことに加えて、時期を変えて測定することで、従来の指標ではわからなかったわずかな症状の悪化を判定できることが確認されました。研究グループは遺伝性脊髄小脳失調症の臨床試験などで活用可能であると説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)