多くの網膜色素変性症患者さんの遺伝的原因が、従来の技術では見つけられなかった
東京大学は、網膜色素変性症の患者さん15人について、ロングリード(長鎖)シークエンスと呼ばれる新しい技術を用いて全ゲノムの塩基配列解析を行い、そのうちの2人において、構造変異の一種である大きなDNAの欠損(欠失)が原因であることを明らかにしたと発表しました。
網膜色素変性症は、視力が低下したり、視野が狭くなったりするなどの進行性の視覚障害をきたす遺伝性疾患です。これまでに、80を超える遺伝子が原因として知られています。研究グループは以前の研究で、網膜色素変性症の日本人患者さん1,204人を対象に従来の遺伝子解析技術であるショートリードシークエンス技術で遺伝的原因を調べましたが、7割以上の患者さんについて原因を同定することができませんでした。
そこで、研究グループは、ゲノムの欠失・挿入・重複などの構造変異や、反復領域における変異の検出ができる長鎖シークエンスの技術を用いることで、従来の方法の技術的限界を補うことができるのではないかと考えました。
30万塩基を超えるサイズの大きな欠失、EYS遺伝子に隠されていた病原性変異を見出した
これまでの研究から、原因がわかっていない患者さんのうち、EYS遺伝子について片方の染色体のみに病原性変異が同定された割合が比較的多いことがわかっていました。EYS遺伝子は、父親由来・母親由来双方の染色体に変異が生じることで疾患の原因となる常染色体劣性(潜性)遺伝子であるため、研究グループはもう片方の染色体に従来の技術で見つけることが難しい病原性変異が存在する可能性が高いと考えました。
今回、そのような特徴を持つ15人について、ロングリードシークエンス技術での全ゲノム解析を行いました。その結果、2人のもう片方のEYS遺伝子において、いずれも30万塩基を超えるサイズの大きな欠失が発見されました。この欠失により、遺伝子から作られるタンパク質の機能が失われる可能性が高く、また、一般に存在する割合が極めて低い変異であることからも病気の原因である可能性が高いと考えられました。
先の研究で同定された病原性変異と併せて、EYS遺伝子にタンパク質の機能を喪失させる可能性が高い2つの変異が同定されたことから、これらの2人においてはEYS遺伝子が原因遺伝子であると結論づけられました。また、これらの2つの大きな欠失は他の1,189人の日本人の網膜色素変性症患者さんでは検出されず、創始者変異(集団内においてその子孫に広まっていった遺伝子変異)である可能性は低いと考えられました。
これまで変異が特定できなかった疾患の原因解明にも期待
今回の研究では、従来の遺伝子解析手法で原因が特定できなかった網膜色素変性症の患者さんを対象として研究を行い、新しく開発されたゲノム解析手法が、この遺伝性疾患の原因探索において有用であることが示されました。今後、いまだ原因遺伝子変異が同定できていない疾患の原因解明にも貢献することが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)