卵巣がんの発症年齢と遺伝との関連を分析
新潟大学の研究グループは遺伝性乳がん卵巣がんの予防的卵巣摘出術を行う推奨年齢を日本で初めて提唱しました。
人間の細胞の中には、約30億の塩基配列から成り立つDNAがあり、ここに遺伝情報が保たれています。このDNA配列は個人ごとに若干の違いが存在し、こうした違いをバリアントと言います。バリアントがあったからといって、必ずしも健康に影響しませんが、中には病的な状態につながることもあります。こうした病気発症の原因になるものを病的バリアントと言います。
病的バリアントと発病が関連している病気の一つに乳がんや卵巣がんがあります。BRCA1とBRCA2という遺伝子に病的バリアントがある人では、乳がんや卵巣がんのほか、膵がんや前立腺がんなどの発症リスクが高くなるとわかっています。これらの病的バリアントにより80歳までの乳がん発症リスクが約7割、卵巣がんはBRCA1の病的バリアントで約4割、BRCA2では約2割高くなると報告されています。
そのために、BRCA1またはBRCA2に病的バリアントがある場合に、卵巣をあらかじめ除去する手術が行われることがあります。これはリスク低減卵管卵巣摘出術と呼ばれ、手術を受ける事でのリスク低減効果は、卵巣がんで約80%、乳がんで約50%と報告されています。日本でも2020年4月に病的バリアントを持つ人を対象として卵巣や乳房を予防的に摘出する手術が保険適用になっていますが、欧米のデータに基づいて遺伝カウンセリングが行われており、これらの病的バリアントとがん発症年齢について日本人のデータがないことが課題でした。
今回、研究グループは遺伝性乳がん卵巣がんの全国登録データを用いて、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子に病的バリアント持つ日本人女性3,517人の卵巣がん発症年齢を詳しく調べました。
BRCA2の病的バリアント保有者は、40歳未満の卵巣がん発症が認められなかった
その結果、卵巣がんの平均発症年齢は、BRCA1の病的バリアントを持つ人のグループが51.3歳、BRCA2では58.3歳、BRCA1やBRCA2の病的バリアントをどちらも持たない人のグループでは53.8歳でした。BRCA2の病的バリアントを持つ人のグループは、BRCA1の病的バリアントを持つ人のグループや、これらの遺伝子の病的バリアントを持たない人のグループと比べた場合、卵巣がん発症年齢が遅く、40歳未満の卵巣がん発症者が認められないことが明らかになりました。
研究グループでは、このデータに基づいて、BRCA2の病的バリアントを持つ人は40歳まではリスク低減のための摘出を待つことが科学的に妥当であると示されたと説明しています。閉経前に両方の卵巣を摘出することにより、妊娠ができなくなるだけでなく、女性ホルモン不足によって心血管障害のリスクが高まることも知られています。日本人における病的バリアントとがん発症についての詳細なデータは、予防的な摘出の判断を行うために重要な意味を持つと考えられます。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)