神経保護タンパク質「カベオリン1」でALSを遺伝子治療
米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究グループは、家族性の筋萎縮性側索硬化症(家族性ALS)の遺伝子治療法を開発し、この治療法を用いてモデル動物の疾患発症を顕著に遅らせることに成功したと発表しました。
ALSは、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経の「運動ニューロン」が、変性・消失していく進行性の神経変性疾患です。ほとんどのALS症例は原因不明の孤発性ALSですが、家族内で発症する遺伝性の、家族性ALSもあります。
研究グループはこれまでの研究で、ALSの病態モデルマウスに、神経保護タンパク質の「カベオリン1」(caveolin-1)を体内で発現するマウスを交配して掛け合わせたところ、そのマウスの運動機能や生存率が改善することを確認していました。
今回、研究グループは、神経細胞でカベオリン1を発現するように設計された遺伝子を、AAV9ベクターで導入する遺伝子治療法(AAV9-SynCav1)により、家族性ALSモデルマウスの病気の進行を遅らせ、体力や運動能力を維持できるかどうか、確かめました。
原因遺伝子とは関係なく「神経保護効果」で発症抑制に成功
AAV9-SynCav1をモデルマウスの脊髄に注射して治療した結果、脊髄の運動ニューロンが保護され、マウスの生存が延長しました。同じ家族性ALSのモデルラットでも、同様の結果が得られました。
この治療による効果は、家族性ALSの原因遺伝子であるSOD1とは関係のない神経保護効果により得られた効果です。実は、AAV9-SynCav1は以前、アルツハイマー病のモデルマウスに対する遺伝子治療で、学習・記憶能力が失われるのを予防する効果が確認されています。
今回の結果から、AAV9-SynCav1による遺伝子治療が、アルツハイマー病に加えALSに対して治療効果があることがわかりました。研究グループは、「AAV9-SynCav1は、ほかの神経変性疾患に対しても、効果的な遺伝子治療となる可能性がある」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)