嚢胞性線維症、緑膿菌感染に対する「バクテリオファージ療法」の臨床試験が米国で開始

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 嚢胞性線維症で肺に緑膿菌感染が起こることがあるが、抗菌薬が効かない耐性菌が問題になっている
  2. 抗菌薬ではなく、「ファージカクテル」で緑膿菌を排除する治療法の治験が米国で始まった
  3. 安全性や、3つの用量のうち最適な用量などを確認し、治験を進めていく予定

嚢胞性線維症で問題となる、呼吸器への緑膿菌感染

米国国立衛生研究所(NIH)は、肺に緑膿菌感染を起こした嚢胞性線維症(CF)の成人に対する「バクテリオファージ療法」の評価を行う臨床試験への登録が開始されたことを発表しました。初期段階の臨床試験となるこの試験では、バクテリオファージ療法が安全で、肺の中の緑膿菌の量を減らす効果があるかどうかを評価します。NIHのアレルギー・感染症研究所(NIAID)が支援する臨床研究コンソーシアムであり、抗菌薬耐性危機と闘い、患者ケアを改善するために活動している「Antibacterial Resistance Leadership Group」(ARLG)によって実施されます。

CFは、全身の分泌液や粘液の粘り気が強くなり、気道、腸管、膵管(膵液が通る管)などの管腔(管状の器官の内側)が詰まりやすくなり、体のさまざまな部位の機能に障害が起こる遺伝性疾患です。

緑膿菌は、医療現場で頻繁に感染が起こる、重篤で時には致命的な細菌で、CFで見られる呼吸器感染症の主な原因となっています。緑膿菌は、CFにおける粘液の変化による組織損傷を利用して肺に感染します。感染すると、緑膿菌に対する抗菌薬で治療が行われますが、多剤耐性緑膿菌が問題になっています。

抗菌薬ではなく「バクテリオファージ」で緑膿菌を排除する治療法

バクテリオファージとは、特定の細菌を殺傷する一方で、標的外の細菌やヒトの細胞は無傷のままにしておくことができるウイルスです。100年以上前から研究者たちは、バクテリオファージを細菌感染症、特に抗生物質に耐性を持つ細菌感染症の治療薬として利用できないかと検討してきました。

今回の試験で使用されるファージ治療薬「WRAIR-PAM-CF1」は、緑膿菌に自然に感染して殺傷する4種のバクテリオファージの混合物(ファージカクテル)で、Adaptive Phage Therapeutics社によって製造されています。ファージカクテル中に含まれるバクテリオファージは緑膿菌に対する特異性が高く、ヒト細胞を攻撃しません。どれも広く研究などに使用されているバクテリオファージで、遺伝子解析により、感染した細菌に誤って移される可能性のある有害な遺伝子(抗生物質耐性を付与する可能性のある遺伝子など)を持っていないことも確認済みです。

安全性を確認後、用量を決定し2相試験へ

今回の試験では、慢性的に呼吸器に緑膿菌が感染しているCF患者さんが対象となります。試験参加者は、3つの用量のいずれかのファージカクテルを、1回の点滴で投与されます。そしてこの試験により、ファージカクテルの安全性や微生物学的な効果に関するデータが収集される予定です。具体的には、「ファージが体内でどのように働くか」「ファージカクテルが参加者の肺機能にどのような影響を与えるか」「緑膿菌に対する治療の効果は地域によって異なるかどうか」「この治療が参加者の全般的なQOLを向上させるか」などのデータです。

試験は第1b相試験として開始され、第2相試験へと拡大される予定です。まず、各用量2人ずつの参加者に非盲検下でファージカクテル(治療薬)が点滴投与され、その後4日間にわたり注意深く観察が行われます。安全性に重大な問題がないことが確認された場合、追加参加者の登録が開始されます。そこで参加者は、3つの用量のうちのいずれかの治療薬、もしくはプラセボの点滴に、ランダムに割り当てられます。ここは二重盲検で行われるため、参加者も治験実施者も、誰がプラセボを投与されているかを知りません。計8人の参加者が各投薬を完了した後、安全性や微生物学的な効果の評価が行われます。この評価の結果で、次の段階の臨床試験である第2相試験で投与される用量が決定されます。第2相試験では、最大50人の参加者が登録され、選択された用量のファージカクテルまたはプラセボに無作為に割り付けられます。各参加者は、健康状態や治験の効果などのモニターのため、複数回通院することになります。

NIAIDのディレクターで医学博士のAnthony S. Fauci氏は、「抗菌薬耐性菌の蔓延は懸念すべきことであり、CFの患者さんなどに対してより有効な治療法の開発は急務です。バクテリオファージ療法の研究はまだ初期段階かもしれませんが、この研究や他の同様の研究が、治療が困難な細菌感染に対する新しいタイプの治療法への道を開くことを期待しています」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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