SBMA患者さんのほとんどが自覚する「寒冷で増強する筋力低下」に着目
名古屋大学の研究グループは、神経難病の球脊髄性筋萎縮症(SBMA)における、寒冷で増強する運動症状「寒冷麻痺(まひ)」について詳しく検討し、一部の運動機能を改善させられる可能性がある治療法を発見したことを明らかにしました。
SBMAは、成人男性において進行性の筋萎縮・筋力低下を呈する神経筋疾患です。これまでに、遺伝的要因により変異のあるアンドロゲン受容体(AR)タンパク質が運動ニューロンや筋肉の変性(弱ること)を起こすことが明らかになっており、それに対する治療法の開発によって、症状の進行が緩やかになることが示されてきました。しかし、筋力の改善効果を示す薬剤は見つかっておらず、患者さんの日常的な動作(ADL)や生活の質(QOL)を向上させる治療法の開発が急務でした。
今回、研究グループは、SBMA患者さんのほとんどが寒冷で増強する運動症状(筋力の低下)を自覚しており、日常生活の大きな妨げとなっていることに着目しました。そして、寒冷にさらされる(寒冷曝露)ことがどのように運動機能や神経伝導検査に影響を及ぼすか検討しました。
運動障害の病態の原因がNa電流の異常と判明
研究の結果、SBMA患者さんの88.0%は寒冷麻痺を自覚しており、不可逆的な筋力低下を自覚する前から生じる前ぶれ症状の一つであることが明らかとなりました。また、寒冷曝露を再現した状態において、運動障害の病態が、運動ニューロンや骨格筋におけるナトリウム(Na)の電流異常によることを発見しました。
メキシレチンの内服により運動機能の一部が改善、特定臨床研究で
さらに、研究グループは、Naチャネル(ナトリウムイオンの細胞膜の通過を担う小さな穴)を抑制する薬剤の投与により運動症状を改善できる可能性があると考え、特定臨床研究として「球脊髄性筋萎縮症患者に対するメキシレチン塩酸塩経口摂取の有効性及び安全性を検討する多施設共同ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験」を実施。メキシレチン塩酸塩(Naチャネル抑制作用があり、不整脈や慢性疼痛に用いられている薬)の内服によって、上肢の運動機能や舌圧を改善させることを証明しました。
「今後は、Naチャネル電流異常が生じるメカニズムについて検討するとともに、引き続きイオンチャネルに着目したSBMAの治療法開発を進めていきます」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)