なぜ異常が神経ニューロンに集中するのか不明だった
名古屋大学の研究グループは、全身の筋肉の機能が低下する病気、球脊髄性萎縮症(SBMA)において、神経細胞の一種である運動ニューロンに集中的に異常が起こる原因として、運動ニューロンだけで働くMID1というタンパク質が関係していることを明らかにしたと報告しました。
SBMAは、男性ホルモンの機能に関係するアンドロゲン受容体の遺伝子変異により、顔や舌、手足などの筋肉が縮んで、話すことや飲み込むこと、体を動かすことが次第に難しくなっていく遺伝性疾患で、通常男性のみに発症します。日本においては2,000人ほどの患者さんが存在し、脳の中心部に近い脳幹や背骨を通る脊髄にある運動ニューロンに障害が起こるために、筋肉が縮んでいく病気です。この病気の治療にはリュープロレリン酢酸塩という薬が使われますが、その効果が十分ではないことが課題となっています。
SBMAの原因として、アンドロゲン受容体の遺伝子の塩基配列の中にあるC(シトシン)A(アデニン)G(グアニン)という3種類の塩基の繰り返し回数(CAGリピートの数)が通常よりも増えていることがわかっています。このためにアンドロゲン受容体タンパク質は、グルタミンというアミノ酸が連なった「ポリグルタミン」という部分の長さが通常よりも長い構造になります。ポリグルタミンの長いアンドロゲン受容体は、アンドロゲンが存在する場合に集まってかたまりをつくり、で運動ニューロン細胞の細胞死を引き起こすことがわかっていました。
アンドロゲン受容体は運動ニューロン以外の細胞でも働くことが知られており、SBMAにおいて、なぜ運動ニューロンだけに集中してポリグルタミンの長いアンドロゲン受容体が増え、細胞死を起こさせるのかについてはわかっていませんでした。今回、研究グループはSBMAを発症するマウスを使い、運動ニューロンで特に顕著に異常が見られるメカニズムについて詳しく調べました。
運動ニューロンに存在するMID1が病気の原因となるタンパク質を増やす
その結果、運動ニューロンに存在しているMID1というタンパク質が影響して、通常より長いポリグルタミンを持つアンドロゲン受容体が多く作られるようにしていることが明らかになりました。MID1が多く存在することで、運動ニューロンの「軸索」とよばれる神経の機能に重要な突起の伸長にも異常が起こりやすいことが確認されました。
研究グループは今後、MID1やこれに関連したタンパク質をターゲットにした治療薬の開発につなげていきたいと説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)