「ALSがなぜ起こるか」が不明なことが、治療開発の遅れの原因
名古屋大学の研究グループは、iPS細胞由来の運動神経を用いて、神経難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症に関わる新たなメカニズムを解明したと発表しました。
ALSの治療は、現時点では軽微な効果を示す「リルゾール」と「エダラボン」の2種類が薬事承認されているのみです。治療法の開発が難航している理由の1つは、ALSがなぜ起こるのか、その病態がいまだに明らかになっていないからです。そのため、治療薬を開発するには基礎研究でALSを発症する詳細なメカニズムを明らかにすることが重要かつ急務な課題となっています。
国内ALSレジストリの解析でSYNGAP1の新たな変異を発見
今回研究グループは、国内ALS患者さんのレジストリである「JaCALS」のデータベースに登録された遺伝子情報を解析し、ALS患者さんの約1%でSYNGAP1という遺伝子にこれまでに知られていなかった変異(新規変異)があることを発見しました。この遺伝子から作られるSYNGAP1は、シナプス形成に重要なタンパク質です。
変異SYNGAP1によるシナプス形成障害はアンチセンスオリゴで回復可能
その変異について詳しく調べたところ、SYNGAP1タンパク質が遺伝子から合成される過程で作られるRNAに、RNA結合タンパク質が過剰に結合し、シナプス形成が障害されるという仕組みを新たに発見しました。
さらに、このRNA結合タンパク質の過剰結合を阻害する「アンチセンスオリゴ」という核酸を用いることで、シナプス形成が回復することもわかりました。
今回の研究から、シナプス形成を障害するRNA結合タンパク質の過剰結合という新たなALSの発症メカニズムがわかり、詳細な解析によりALSの治療薬が開発できる可能性も見出されました。「RNA結合タンパク質が引き起こすALSの発症原因をさらに明らかにすることで、ALS患者さんに広く応用できるような治療薬開発を進めていきます」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)