ヒト受精胚へのゲノム編集の臨床応用、立場や取り巻く環境による意識の差

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ゲノム編集技術のヒト受精胚に対する臨床応用について幅広い国民の意見を聞くアンケート調査を実施
  2. 病気の治療目的の利用に対しては、患者関係者が医療関係者や一般市民よりも賛成と回答する傾向
  3. 病気の治療以外を目的とした利用はグループを問わずに反対意見が多数を占めていた

ゲノム編集技術のヒト受精胚への臨床応用についてアンケート調査

国立成育医療研究センターを中心とした研究グループは、ヒトの受精胚に対して「ゲノム編集」と呼ばれる技術を臨床応用することについての意識調査を実施し、一般市民、患者関係者、医療従事者の間に技術に対する認識や、利用に対する意識の差が存在することを確認したと報告しました。

ゲノム編集技術とは、遺伝子の一部を切り取ったり、別の遺伝子を入れたりすることができる遺伝子改変技術の一つです。ゲノム編集は医療を含む多くの分野で応用が始まっています。一方、病気の治療目的など人を対象とした医療に利用する臨床応用においては、科学的、倫理的、社会的な課題が残っています。その一つとして現在、日本ではゲノム編集技術の臨床応用を規制する法律がまだなく、国の専門委員会ではヒト受精胚を用いたゲノム編集技術の臨床応用の法整備に向けた議論が進んでいます。

研究グループは、ゲノム編集技術の臨床的な利用に対する考え方は、それぞれの人の立場や取り巻く環境だけでなくこの技術の利用目的や状況等により違いが生じると考えました。今回、研究グループは、国民の意見や態度を明らかにし、今後の法制化議論の参考資料とするため、一般市民、患者関係者、医療者の3グループを対象として、ヒト受精胚を用いたゲノム編集技術の臨床応用についての意見を聞くウェブアンケートを実施しました。アンケートでは、参加者に受精胚へのゲノム編集技術の臨床応用に関する現状や課題、その論点を整理した動画を視聴してもらった上で、アンケートに回答してもらいました。回答したのは一般市民2,060人、患者関係者497人、医療従事者957人でした。

患者関係者は賛成意見が他のグループよりも多い

その結果、一般市民、患者関係者、医療従事者の間でヒト受精胚を用いたゲノム編集技術の臨床応用に対する認識に差があることが明らかになりました。まずアンケート回答前の状態について、「『受精胚に対するゲノム編集』について知っていましたか?」と質問したところ、「聞いたことがない」と回答した割合は、医療従事者では3%、患者関係者では32%だったのに対して、一般市民では52%に上り、受精胚に対するゲノム編集の利用について知っていた人の割合はグループによって異なることがわかりました。

次に、治療目的の利用に関して、利用目的ごとの意見を尋ねました。「成人期発症の遺伝的疾患予防に対するゲノム編集の利用」の賛否を聞いた質問では、賛成と回答したのは医療従事者では36%、患者関係者では56%、一般市民では41%となり、「小児期発症の遺伝的疾患予防に対するゲノム編集技術の利用」の質問では、賛成と回答したのが医療従事者では39%、患者関係者では60%、一般市民では47%、「胎生致死を招く遺伝的疾患予防に対するゲノム編集技術の利用」は、賛成と回答したのが医療従事者では34%、患者関係者では58%、一般市民では45%と、これら3つの事例において賛成と回答する人の割合は患者関係者のグループが高く、医療従事者のグループで低くなる傾向がみられ、一般市民は「どちらともいえない」という回答がやや多い傾向となりました。

一方で、病気などの治療以外の目的で身体や精神の機能を強化・向上するエンハンスメントでの利用については、すべてのグループで反対意見が多く、反対と回答したのが医療従事者では95%、患者関係者では92%、一般市民では70%でした。

研究グループはヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用に関して、今後の議論を深めるためにも、より多くの人にゲノム編集技術の正しい知識を普及させるためのさらなる啓発や情報発信、教育資材の整備などが急務になると説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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